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2015.01.08
一番優先されているのは現状維持(設定体重とは?)
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目次
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- 人それぞれに現状維持的な機能がある
- 「設定値」理論との出会い
1.人それぞれに現状維持的な機能がある
まず体重に関する話を進めていくうえで一番大切なことをお話しますね~。
人にはそれぞれ、その時点での現状維持的な機能が働いているという仮定です。
この現状維持こそ、体重管理において、すべての前提にあるものであると考えています。
例えば、3人の女性がいて、
(Aさん)48キロ・・・食べても太れない体質
(Bさん)58キロ・・・油断するとすぐに2キロ太ってしまう
(Cさん)85キロ・・・ 〃
1年中を通して忙しい時は少し痩せたり、また食べてゆっくりすれば少し太ったり・・・を繰り返しているけど、細かなカロリー計算しなくても、人の体型ってそれほど変わらないものです。太っている人は太っているし、痩せている人は痩せている。つまり、人ぞれぞれに恒常性の機能に基づく安定的な体重があると考え、私は当初「基本体重」を以下のように定義しました。
基本体重 (Base weight) =過度な運動や仕事はせずに3~5日ゆっくりして、一日のエネルギー必要量に基づくカロリーを摂取したときに戻ってしまう安定的体重。
しかし、公式には証明・定義されていないものの「体重の設定値」「設定体重」という概念が一部の研究者の中で既にあること、また英語に翻訳した「base weight」は研究などで使用される「baseline weight (ベースライン体重)」 と紛らわしいことから、今後は「体重の設定値」又は「設定体重」を使用することとする。
この例の場合、Aさんの設定体重は48キロですが、Bさん、Cさんは油断するとすぐに戻ってしまう体重である、それぞれ60キロ、87キロが実際の設定体重と言えます。その体重に戻るように恒常性による現状維持の機能が働いいているということになります。
ですから、3人の体重をカロリー摂取量や消費量だけで規定するのには無理があり、Aさんが毎日、必要とするカロリーの100kcalオーバーの食事を何か月~何年も繰り返せば、それが脂肪として蓄積され、やがて60➡ 70➡ 80キロとなるというのは間違いです。(なる場合もありますがまたそれは別の理由で・・・)
一般的に、太っている(太り気味の)人はカロリー制限して控えめに食べて生活していることが多いため、普段の体重は設定体重より低く、痩せている人は普段からカロリー制限などしていないので、設定体重と普段の体重が近いと言えます。
その為、痩せているAさんは食べても体重は増えないのに対し、Bさん、Cさんは食べるとすぐに太ってしまう・・・ということが考えられます。(注:一時的な過食により、設定値を超えてさらに体重が増加する場合もあるが、その場合の体重増加は一時的であり、設定値そのものに変化はないと考えています。)
【関連記事】➡「”太る”という言葉の2つの意味」
■私の好きなボクサーである長谷川穂積選手。
(第26代WBC世界バンタム級王者として10度防衛、第42代WBC世界フェザー級王者)
バンタム級は体重のリミットが53.5キロ。身体が成長するにつれ減量も過酷になり、防衛戦では1か月前後で10キロ以上の減量をしなければいけなかったそうです。しかし試合が終わり食べると、わずか数日で10キロ戻ると言われていました。
それくらい戻るスピードは早いんだなと思います。
今まで、ダイエットされてきた方なら少しは思い当たる節があるのではないでしょうか?
2.「設定値」理論との出会い
私達のほとんどは、日々のエネルギー摂取量、消費量を意識的に調整しているわけではありません。それにもかかわらず、個人の体重は比較的安定しています。
個人の体重の変動は6~10週間で 0.5 %程度に留まります[1,2](Khosha and Billewicz 1964)。横断的データによると、長期間にわたる体重の変化は依然としてわずかで、糖尿病患者でさえも、5年間の体重変化係数は 3.7~4.6 %に留まると言われています[1,3](Goodner and Oglive 1974)。
1970年以降、世界的に肥満が増加している状況では、その体重変化係数はもはや正確ではないかも知れないが、痩せた状態を維持している人は多いし(特にアジア圏)、過体重や肥満の人でさえも、重いなりに、彼らの体重を何十年も維持しているのです[4]。つまり、日々の暮らしで多少の体重の変動はあるにしても、長期にわたり特定の範囲内に体重、体脂肪を維持しようとする体内の調整メカニズムがあるはずです。
近年では、人体の恒常性調整の役割が認識され、体はエネルギーバランスを制御する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持する[5]という証拠が増えつつあります。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を低下させ、さらに、食欲を増進させるホルモン変化を誘発し、行動の変化を通じて食の嗜好を修正し、体重を設定値の範囲に戻すのです[6]。
このフィードバックメカニズムは減量だけでなく、一時的な過食にも当てはまることが知られています[7]。
私はこのブログを書き始めた時は、この体重の「設定値」に関する理論の存在は全く知りませんでしたが、私がずっと思っていたこととほぼ合致しました。設定値理論を理解することは、肥満の蔓延の防止、効果的な減量法の提案という観点から非常に重要だと考えています。
特に、1970年代からの肥満の世界的な増加原因を説明するには、(I)遺伝的・生物学的要因と、(II)環境・行動要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が上昇するのかを理解することが必要だと思っています。私の腸内飢餓理論はそれに役立てると信じています。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】
<参考文献>
[1]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen.「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[2]KHOSLA T, BILLEWICZ WZ. 「体重変化の測定」. Br J Nutr. 1964;18:227-39.
[3]Goodner CJ, Ogilvie JT. 「糖尿病クリニックの患者における体重の恒常性」. 1974 Apr;23(4):318-26.
[4] Gary Taubes.「人はなぜ太るのか」. 2010, Page 69.
[5]Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4. PMID: 35103583.
[6]Ganipisetti VM, Bollimunta P. 「肥満と設定値理論」. 2023 Apr 25. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 37276312.
[7]Bray GA.「体重増加の苦痛:食べ過ぎの自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20.