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2017.03.27
カロリーと肥満の関係は熱力学で説明できるのか?
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目次
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- 「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則
- 人体は化学反応の塊である
- 食べたカロリー量と体に吸収された量は同じではない
(1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?
(2)エネルギー摂取量が増えるとき
<まとめ>
まず、こちらの記事を先にお読みください。
1900年代初期にカール・フォン・ノールデン(ドイツ人の糖尿病専門家)が「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」と初めて主張されました。
つまりこの主張が現代まで脈々と続いて、多くの専門家は「カロリーの摂り過ぎや運動不足が太る原因である」と言う主張に強い確信をもつようになったようです[1]。今回は、その理論の根拠とされた「熱力学の法則」(エネルギー保存の法則)について説明したいと思います。
1.「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則
「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)
熱力学には3つの法則があるが、専門家たちが「人はなぜ太るのか?」を決めているとするのは第一法則である。
この法則は『エネルギー保存の法則』としても知られ、「エネルギーはつくられることも壊されることもなく、単に1つの形から別の形へと変わる」ということを示しているだけである。
たとえば、ダイナマイトを1本爆発させると、化学的に結合したニトログリセリンの潜在エネルギーが熱と爆発の運動エネルギーへと変換される。
すべての質量はエネルギーからできているため、別のいい方をすれば、私たちはゼロから何かを、または何かからゼロをつくることはできない。
これ(熱力学の第一法則)はとても単純なため、専門家たちがどのように法則を解釈するかが問題となる。
この法則は「何かが大きくなったり小さくなったりするには、より多くのエネルギー又はより少ないエネルギーが、そこから出るよりもそれに入らなければならない」としているのである。この法則はなぜそれが起きるのかについては何も示していないし、その原因と影響については何も言っていない。
(略)論理学者はこの法則には、原因についての情報が全く含まれていないと言うだろう。
▽ここで「人はなぜ太るのか」について話す代わりに「部屋がなぜこんでいるのか?」という話を考えてほしい。
ここまで私たちが論議してきたエネルギーは、脂肪組織だけではなく、人間のからだ全体に存在する。つまり10人の人間はそれ相当のエネルギーをもち、11人はより多くもち....という具合である。(略)
もしあなたが私に「部屋がなぜこんでいるのか?」という質問をしたとして、私が「そうだね、それは部屋を出た人よりも入った人のほうが多いからだよ」と答えたとすれば、おそらくあなたは私が賢いか、あるいはバカであると思うであろう。
あなたは「もちろん、それは明白だ。しかし、何故か?」と聞くであろう。
実際、「出るよりも入る人が多いから混んでいる」というのは、同じことを2つの違う言い方で表すことであり、意味がないのである。
▽さて、肥満に関する社会通念の論理を借りて、この点を明らかにしたい。
私が「あのね、出るよりも入る人が多い部屋は、混んでいるだろう。熱力学の法則を避ける方法はない」と言ったとする。するとあなたは、「それはそうだが、それがどうした?」と答えるか、私は少なくとも、あなたがそう言うことを期待する。なぜなら、私はまだ原因についての情報を与えていないからである。
「過食が私達の肥満の原因である」と結論づけるために熱力学を利用すると、このようなことが起きる。
▽米国国立衛生研究所(NIH)は、インターネット上で「肥満は、人間が消費する以上のカロリーを食物から摂取すると起きる」といってい る。
NIHの専門家たちは実際のところ、「起きる」という言葉を使うことにより、過食が肥満の原因であるとはいわず、単に必要条件であるといっているのである。
専門的にいうと彼らは正しいが、そのとき「わかったよ、だからどうした? 肥満が起きたとき、次に何が起きるかということは話してくれるけど、なぜ肥満が起きるかについては話してくれないんだね?」というかどうかは、私たち次第である。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス . 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 83-6.)
2.人体は化学反応の塊である
(「やせたければ脂肪を摂りなさい」ジョン・ブリファ著より引用)
第1法則は、「エネルギーはつくり出すことも消滅させることもできない」というものです。言い換えると、エネルギーをひとつの形態から別の形態に変換することはできても、宇宙のなかのエネルギーの総量は一定のままなのです。
この法則が体重管理にどう当てはまるのでしょう?
ある人の体重が長年安定しているとしましょう。第1法則によると理論上は、この人が食べ物のかたちで摂取するカロリーは、その人が代謝と活動で消費するカロリーと等しいことになります。つまり 「入るカロリー = 出るカロリー」です。
ところが、熱力学の第1法則は実は「閉鎖系」についての法則です。
この系は、周囲の環境と熱やエネルギーのやり取りはできても、物質のやり取りはできません。これは人間に当てはまるのでしょうか?
当てはまりません。
人間の体は実際、おもに食物や糞尿などの老廃物というかたちで、物質を周囲の環境とやり取りしています。
さらに厳密に言うと、第1法則は化学反応が起こらない系についての話です。しかし人体は基本的に化学反応の塊です。
したがって、やはり熱力学の第1法則は、体重管理に関することには当てはまりません。 (引用以上)
(ジョン・ブリファ. 2014.「やせたければ脂肪を摂りなさい」. Page 58-9.)
3.食べたカロリー量と、体に吸収された量は同じではない
2人の著者が熱力学と体重管理に関する素晴らしい指摘をしてくださいました。これらの考えを踏まえて、私も熱力学と私の理論の関係について2点言及したいと思います。
(1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?
私も基本的に、ある人の体重が長年安定しているなら 『体に入るエネルギーと、体内で基礎代謝や活動に使われるエネルギー』は釣り合わないといけないと思っています。しかし問題はどの時点で私たちが「摂取」したと考えるかである。
私たちが食べ物を口に入れた時点でカロリーを計算し、それを『摂取カロリー』 と考えるなら、何割かの人にとって、それは消費されたエネルギーとは釣り合わなくても不思議でない。
なぜなら、ブリファ氏が指摘されたように、私たちの体は「閉鎖系」ではないからだ。
腸内細菌学者が「胃腸は体の外部」と考えるように、腸から実際に吸収されたエネルギーを摂取カロリーと考えるのであれば、より「閉鎖系」に近づくはずだ。
もちろん、1人1人の吸収効率の違いを計算するのは不可能であるため、現在のところ、私たちはアトウォーター係数を元に個別の食品のカロリー値を決め、それらを合計することによって一日の総摂取カロリーを決定するのだが、あくまでそれらは推定値か近似値である[2]ということを知っておくべきである。
実際に吸収される栄養やエネルギー量は、調理の仕方、食品の消化性(加工度)、食品の組合せ、運動の強度、空腹度合などによっても変化すると私は考えている。
ノールデン氏の主張「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」はある意味で正しいが、どの時点で「私達がエネルギーを摂取したのか」については曖昧であるのです。
(2)エネルギー摂取量が増えるとき
私の腸内飢餓メカニズムを元に説明すると、長年同じ体重を維持している人が、普段食べているカロリー摂取量(例えば、毎日約2,000kcal) や糖質の摂取量を大幅に減らしても、腸内飢餓を引き起こす「3要素+1」の基準を満たせば、体重がアップすることがある (これは絶対的な吸収率がアップし、設定体重が上昇したことを意味する)。
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もちろん太るのは、その後に元の食事に戻したときであるが、この場合、吸収率そのものが以前よりアップしているので、体重の増加には体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も含まれる。つまり、食べる量や摂取カロリーは以前と同じであっても、以前よりも多くのエネルギーや栄養素を体内に取り込んでいるので、体が大きくなったといえるだろう。
トーベス氏の言葉を借りれば、「10人で混んでいた部屋が11人になった」と言えるが、この場合、それを引き起こした原因は腸内飢餓であると言える。
まとめ
(1)専門家たちが、「消費するより多くのカロリーを摂取するから太る」と考える根拠は『エネルギー保存の法則』(熱力学の第一法則)である。
(2)人の体は化学反応の塊で、「閉鎖系」ではないため、実際に食べた(口に入れた)カロリー合計と消費カロリーを比較することは意味がない。この場合、「熱力学の法則」は成り立たない。
(3) 実際に腸で吸収されたカロリーをベースに考えると、より「閉鎖系」に近づき、代謝や活動によって消費されたカロリーと釣り合うはずである。
(4) 腸内飢餓が引き起こされれば、以前と同じ量を食べていたとしても、設定体重そのものの上昇を示唆する体重増加が発生することがある。この場合、吸収率そのものがアップし、体により多くのエネルギーや栄養素が取り込まれることを意味するので、体重の増加は体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も関係する。
<参考文献>
[1]Gary Taubes. 2010. 「人はなぜ太るのか」. メディカルトリビューン. Page 82.
[2]Rob Dunn. 2013.「科学が明らかにしたカロリー計算の誤り」. Scientific American.