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2017.05.18
OBESITY(日本語訳)
『代謝と実践医療』 ー代謝の病理学ー
チャプターⅢ 『OBESITY(肥満)』(p693~695)
Ⅰ. エネルギー交換(The Energy Exchange)
肥満は、長年に渡る脂肪摂取量と代謝量の不均衡の結果である。
タンパク質は体の中に蓄えられるかもしれないということはすでに指摘されており、それゆえエネルギー源(太る原因)とみなされうるが、そのようなタンパク質の総量は通常少なく、食べ物のカロリー値が異常に大きくなるか、あるいはその他の理由でエネルギー細胞の成長が起こる場合にしか、タンパク質総量が増えることはない。この例外を除いて、細胞が直ちに必要としている食べ物以外の多くは、結果として貯蔵脂肪を増やすことになる。
実際、この食べ物の余剰は、しばしば全量が貯蔵され、タンパク質は変わらないことが多い。
それゆえ、好条件のもとでしか起こらないタンパク質の貯蔵について、下記の事実が明かになる:
体が必要とする以上の食べ物を摂取することは脂肪の蓄積につながり、その不均衡が一定期間以上続けば肥満につながる。
以上のことから、肥満は下記の結果であるといえる。
1.通常のエネルギー消費のもとでの食品摂取の増加。
2.通常の食品摂取における、エネルギー消費の減少。
ここで、筋肉活動の減少によるエネルギー消費減少と、酸化処理の勢いがなくなる体細胞の病気条件(例えば代謝の遅延など)の結果のエネルギー消費減少とを区別しなければならない。
3.二つの条件の混合。
これらの要素がどのように重なりあって肥満の様々な臨床形式を引き起こすのかというのは、特殊な病理学において扱われるべき問題である 。ここで我々が問題とするのは、原形質分解の減少の結果としての肥満、すなわち異常代謝の結果としての肥満が存在するか否かという点である。
1. 通常消費に関連した肥満
実際のエネルギー消費が通常範囲内に収まっている場合、肥満は長期に渡る食品摂取超過によるものであることは、臨床実験によって疑いの余地なく示されている。
摂取された食品の量や質は、上記のような肥満の重要な兆となる。このタイプの肥満を抱えるものはしばしば、少量で高いカロリーをもつ脂肪生成食品や炭水化物を好む。
一般的に言って、人間が自分の栄養状態を、自身の自由意志に基づいて選んだレベル、すなわち自分自身の細胞が実際に必要とするものとは無関係に選んだレベルで同じように保とうとするのは自然な傾向である。
当然のことながら、バランスはいつもいつも保たれているわけではない。
ある時には摂取過剰となり、またある時は摂取不足となるが、全体としての総合的なバランスは保たれているのである。
体が必要とするカロリー平均値は、よく知られたデータから計算できる。健康体で普通の生活をしている70kgの人物の必要カロリー平均値は40kカロリー/体重1kg/1日あたりの重量であり、全部で2,800kカロリーとなる(Chittenden実験の議論参照)。カロリー供給は下記の方法で構成される:
時には味の嗜好や食べ物の好み、料理の仕方や量に変化が生まれ、食べ物のカロリーが若干平均値を越えることがあると考えるのは合理的であろう。例えば食品に含まれるアルブミン、脂肪または炭水化物が少し増えるだけで、運動量が変わらなくてもカロリーは200も上がってしまう可能性がある。
この200kカロリーは食べ物としてはあまりにもわずかな量で、見た目や満腹感として気づくことは難しく、それゆえ当人は、明らかに太ってきたにもかかわらず、食品摂取は全く変えていないとしか言えないのである。
この200kカロリーは次の中に含まれる
ミルク1/3リットル
赤身200g
脂肪肉100g
ライ麦パン90g
ライトビール4/10リットル
食品摂取のカロリーがカロリー平均値を越えてしまうということは実際日常生活でよくあることであり、一日あたり200kカロリーというわずかな超過の実際の示すところは、次の計算で明かになる:
食品摂取の超過分はこの計算に影響しない極小量を除いてすべて脂肪として貯蔵され、200kカロリーはおよそ21.5グラムの脂肪に相当するので、1年間で7.85キロの脂肪を蓄えることになる。脂肪細胞は水を多く含むので、実際の体重増加は11kgまで増えるかもしれない。
この例のようなことは日常生活で頻繁に起こるもので、上記はこのような体の必要カロリーを超えるわずかな超過分によって徐々に肥満状態が進んでいくことを数字で表したものである。さらにこれは、カロリーがどれだけ高いか、そしてそれを含む食品がどれだけ少量のものかを表している。このタイプの肥満と、筋肉活動量が徐々に減少することで食品供給量とエネルギー使用量のバランスが崩れて起こる肥満とは、根本的には同じものである。
これらのような例は非常に多く、不十分な運動の結果として肥満を招くことになる。これはもしかすると楽を求める人間の本能的欲求や、心臓の欠陥や体肢の病気といった欠陥によるもの、あるいは閉じこもってほとんど活動しない無気力な気質のせいなのかもしれない。そのような人間は健康でなくなるが、それは細胞の酸化処理能力が落ちるからではない。細胞は仕事を与えられればそれぞれの役割を十分に果たすはずである。
もしも筋肉運動の減少が食品摂取の増加と合わさると、不幸なことに望まざる肥満のリスクは当然二倍になる。
このようにして生じた肥満は、様々な体の器官の機能、特に血管組織が損傷を受けるという意味で、間違いなく病気とみなされるべきである。しかしながら、このような人物の代謝機能は普通のままであるので、異常代謝とはみなされない。この場合、異常なのはライフタイルなのである(外因性肥満)。
臨床実験と実験結果はどちらも、このタイプの肥満が飛び抜けて多いことを示している。
それは一般的な認識であり、ここで問題となるのはエネルギー交換障害の結果としての肥満が生じるかどうかという点である。