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2019.04.05

正しく痩せるためには2段階のプロセスが必要(体重の設定値)

<目次>

  1. 『痩せる』にも2通りある
  2. 体重の設定値を下げるには?
  3. 具体的な食事法は?
  4. 低炭水化物ダイエットとの違い
  5. 2ステップの意味
  6. 健康上のメリット

 <まとめ>

これはダイエットブログではないのですが、太る理由を書いている以上、痩せる方法も必然的に分かるはずであり、書く必要があると感じてきました。私が書くのをためらった理由は、実績が少ないことですが、今回は、私の考える「正しく痩せる」ための理論のみを書きたいと思います。

1. 『痩せる』にも2通りある

「太る」という言葉に2通りの意味があるように、「痩せる」という言葉にも2通りの意味があります。

【関連記事】→「”太る”という言葉の2つの意味」
 

(1)リバウンドする場合

1つ目は、従来のカロリー制限ダイエットのように、食べる量を減らしたり運動を増やすダイエット法です。この方法では常に空腹を我慢しなければいけません。


人体には恒常性の機能があると考え、その安定的な体重を説明するために、体重の「設定値」理論を使用します。

食べる量(摂取エネルギー)を大幅に減らし体重が減少すると、体はエネルギー危機と認識し、エネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムが働き、エネルギー消費量は予測を超えて大幅に低下します[1,2]。加えて、私の考えでは、空腹が長時間続くことで、体は最大限に栄養を摂ろうとするために吸収率はアップするのです。

さらに、食欲を刺激するホルモンの分泌が増え、満腹ホルモンの分泌は抑制される[3]。あなたは、無性に食べたくてたまらなくなります。ほとんどのケースで体重の減少は長続きせず、やがてリバウンドして元の体重の範囲に戻ります。

つまり、減量を維持しようとすると、代謝、神経内分泌、自律神経、行動の変化の強調的な作用を伴う適応反応が引き起こされ、減量した体重の維持に対する強い「抵抗」にあうのだ[4]

【関連記事】 ダイエットは長期的には成功なし

    

減量の設定値モデル

(2)『設定体重』 そのものを下げる

私は、肥満の問題は、体重の「設定値」が通常より高くなっていることだと考えています。

(1)でも示したように、肥満者もカロリー制限の食事療法に代謝的抵抗を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられています[5]。動物実験研究も同様に、肥満を高い設定値での体のエネルギー調整状態とみなす見方を示唆しています[5]

よって、正しく痩せるためには、現状維持のベースとなる体重の「設定値」そのものを下げることが必要になるのです。これに関連する文献を引用します。

”体重や肥満に関しては『設定値』というものがあると考えられているが、肥満の問題点は、「設定値が高くなっている」ということにある。(略)

長年にわたる研究で分かったことが二つある。
一つは「どんなダイエット法も効果的であるということ」。
もう一つは「どんなダイエット法も効果的でない」ということ。


ういうことかと言うと、地中海式ダイエットもアトキンス・ダイエット(糖質制限)も低脂質、低カロリーダイエットも、短期的には体重はおちる。それはそうだろう。摂取量を控えているのだから・・・。

しかし、しばらくすると体重は減らなくなり、その後、無常にも増え始める。(略)こうしてどんなダイエット法も失敗する。実は半永久的に体重を減らすには「2段階のプロセス」が必要だ。肥満には「短期的な問題」と「長期的な問題」がある。(引用以上)

(参考文献: ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 120, 358.)

2.体重の設定値を下げるには、どうすべきか?

「The Obesity Code 」の著者 Fung氏が言われる「長期的な問題」とは、体重の設定値が高くなった根本的な原因に対処し、体の抵抗メカニズムを呼び起こさず、設定値そのものを下げることだと私は思っています。

具体的には、空腹を我慢するのではなく、むしろ、繊維質の豊富な食品や消化に時間のかかる食品をより多く食べ、空腹感を減らすことで、体重の設定値を徐々に下げることができると考えます。なぜなら、私の理論上、設定体重の上昇を意味する体重増加の原因の大半は、腸内飢餓のメカニズムによるものだと考えているからです。つまり、その逆を行うことが必要なのです。

今の時点では完全には説明できないですが、野菜・豆・乳製品などのように栄養が豊富で、消化されていない食べ物が腸の中に沢山残る状態は、体にとって「食べ物がまだたっぷりある」というシグナルとなり、その結果、体は危機とは認識せず、代謝、神経内分泌(ホルモン)などの抵抗メカニズムを呼び起こさないと考えています。

そして、空腹感が減ることによって食欲は低下し、吸収率が徐々に落ちていきます。やがて、視床下部を中心とした脳と臓器、末梢組織の協調的な作用により体脂肪は減っていくのではないかと推測します。

■食べて吸収率が落ちるというのは分かりにくいかも知れませんが、例えば、おにぎり1個とオレンジジュースを食べるのを想像してください。


腹ペコの状態で食べれば血糖値は急激に上がるのに対し、バランスの良い昼食を終えた3時間後に食べれば、血糖値はそれほど上がらないのではないでしょうか?

お酒を飲みに行く時でも、10時間近く何も食べないで腹ペコなら、酔いが早く回るかもしれないけど、例えば昼食をしっかり食べ、飲む2時間前にアイスクリームを食べておけば、酔いの回りは遅くなるはずです。

つまり空腹感を減らすように、消化に時間のかかる食品を食べ続ければ、吸収率は落ちていくはずです。

血糖値上昇モデル

3.具体的な食事法は?

ポイントは、炭水化物を減らし、逆にお肉、魚、油脂、繊維質の野菜、海藻、ナッツ、乳製品などを増やし、空腹でいる時間を減らすことだと考えます。(少しお腹が減ったなと思ったら何か食べる。食欲がなくても規則正しく食事する。)
実際には、2つの方法があると思っています。

家族食事

(1)実際に、食事の改善を中心に行う方法

♦炭水化物(ご飯、パン、麺類)の量は1/2~2/3程度に減らす。

♦玄米、全粒粉パン、冷ましたご飯(澱粉が難消化性に変化するので)、アルデンテパスタ、などのG.I.値の低い炭水化物をなるべく摂る。

♦炭水化物以外の食品(肉、魚、油脂、乳製品、ナッツ、野菜、海藻など)はむしろ増やす

♦加工食品、ファーストフード、スナック類をなるべく避け、加工度の低い食品を優先する。

♦最低限、一日3回の食事をし、食間に空腹感があるなら、間食をしてもよい。

♦もちろん、ランニングやジムでの運動と組合わせてもいいが、カロリー消費が目的ではないので、運動の前後に牛乳などを飲んだ方が良い。

<脂質について>

脂質は、私たちにとって大切なエネルギー源でもあるし、同時にある人にとっては太る原因でもあると思いますが、食べ方によってはダイエット効果がある食べ物であると私は考えます。

脂質がもともと ”太る” と考えられたのは、1gあたり9kcalとエネルギー密度が高いからですが、脂質は特に消化に時間がかかるため、頻繁に摂取すると満腹感が持続し、痩せる効果も発揮します(もちろん、人によって異なる)

【関連記事】 脂質についての3つの視点

    

(2)消化酵素の働きを鈍くする。

また、いくら食べてもすばやく消化し満腹感を感じにくい人には、(1)の方法は効果が薄い可能性があります。中には、カロリーが増えた分むしろ太ってしまう人もいるかもしれません。

私の理論では、「設定体重が高い」ことは、栄養の吸収効率が高まっていることと関連があると考えています。加えて、肥満度が高くなるにつれて痩せるのが難しくなるのは、彼らは消化するスピードが早く、そんなに簡単に吸収率が落ちないことが原因だと思っています。したがって、(1)の方法が理論的に必ずしも誤っている訳ではありません。


その場合は、食事の改善と併せて、例えばですが、脂質や蛋白質に対する消化酵素の働きを鈍くする薬や、食欲を低下させる薬などがあれば役に立つかもしれません。胃腸の働きを鈍くしたり、消化する能力を逆に落とすことで、未消化な物質が腸内に多く残るようになり、(1)と同じ効果が得られると考えます。
(もちろん、医師の処方の下で行われるべきです。)

4.低炭水化物ダイエットとの違い

ケトジェニックダイエットのように炭水化物を極端に減らすことは、お勧めできないが、低炭水化物ダイエットと結果的には似た食事法になると思っています。

低炭水化物ダイエットでは、「インスリン分泌を促す炭水化物が体重増加の原因であり、これを制限する代わりに、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は、カロリーを補うためにも自由に食べてかまわない」されています。

しかし実際のところ「食べてよい」ではなく、長期的に体重を落とすためには「食べないといけない」のです。

肉・魚・油脂なども同様に減らせば、従来のカロリー制限ダイエットと同様に空腹を我慢することになり、これまでの研究が明らかにするように、そのようなダイエットは上手くいきません。

meat,fat,oil

私の理論上は、炭水化物は腸内飢餓を引き起こしやすくするという、あくまでも間接的な肥満の原因ですポイントはあくまで、消化の良くない食べ物を多く摂り、未消化物を腸内に多く残すことによって、空腹感を抑えるということなのです。

ですので、必ずしも炭水化物が悪いわけではないのですが、食事中の炭水化物を減らしたほうが、より効果的であると考えているのです。もちろん、即効性のエネルギーとなるグルコースを減らすことで、短期的に痩せるスピードが早まることもありえます。

5. 2ステップの意味

これまで食べるのを我慢してダイエットしてきた人にとっては、少なくとも摂取カロリーは増えるかもしれない。だから「多く食べて痩せる」というのは胡散臭く聞こえるかもしれません。しかし、これは摂取カロリーを減らすことは最終的なポイントではないのです。

♦短期的には、カロリー制限ダイエット程の極端な体重減少はないかもしれないが、摂取カロリーを少し減らしながら、消化の良くない食べ物を多く食べて空腹感を減らすことで、体重が少しづつ減る可能性がある

♦長期的には、それを継続することによって、「食べ物が十分にある」というシグナルが浸透し、視床下部を中心とした脳、臓器、末梢組織との相互作用により[6]設定体重それ自体が下がり、リバウンドしにくい体になるのではないかと考えます。

つまり、正しく痩せるためには「2段階」のプロセスが必要なのです。


現在のところ、体重の設定値に理解を示す一部の研究者でさえ、肥満は治癒不可能な慢性疾患であるとの認識を示す[7]。生活習慣介入と肥満治療薬は設定値を永久的に変更しないため、食事療法によって達成された減量は長続きせず、肥満治療薬による減量も、薬を中止すると体重がリバウンドしてしまうのだ[7]と彼らは言う。

しかし、私の考えでは、それはカロリーを制限する食事療法が根本的に間違っているからです。カロリー削減にフォーカスしたあまり、ダイエットといえば、好きなものも食べれず、空腹に耐えて辛いものと認識されています。このアプローチでは、体の抵抗メカニズムを呼び起してしまうのです。

   

6.健康上のメリット

また、体重がそれほど減らなかったとしても、健康上のメリットは計り知れません。

例えば、野菜や豆類、ナッツ、発酵食品、乳製品なども多少のカロリーを含みますが、それは全く心配する必要ないと私は思います。

多くの栄養士や腸内環境の専門家が言うように、それらの食品は、ビタミン・ミネラルを多く含み、腸内細菌を良好な状態にし、腸内環境を整え、免疫力を高め、血糖値の急上昇を抑えるなどの健康上のメリットの方が多く、生活習慣病の予防・改善にも役立つはずです。加工度の低い肉や魚介類にしても、蛋白質や脂質・ミネラルを含み、人体には欠かせない食材なのです。

まとめ

(1)「太る」という言葉に2つの意味があるのと同様に、「痩せる」にも2通りの意味がある。リバウンドしないためには、体重の設定値そのものを下げる必要がある。


(2) 設定体重を下げるためには、2ステップ必要です。

・短期的には、摂取カロリーを調整しつつ、精製炭水化物や超加工食品を減らし、それ以外の繊維質の豊富な食品や消化に時間のかかる食べ物を増やして空腹感を減らすことで、体重が少しづつ減る可能性がある

・長期的には、それを継続することによって、「食べ物が十分にある」というシグナルが浸透し、脳、胃腸系、膵臓、脂肪組織などの相互作用により[6]設定体重それ自体が下がり、リバウンドしにくい体になると考えます。


(3) 肥満度が高くなるにつれて、食事療法だけでは痩せるのが難しくなる可能性があります。彼らは消化するスピードが早く、満腹感が得られないため、吸収効率が落ちないためと捉えています。その場合は、消化酵素の働きを鈍くしたり、食欲を低下させる薬などを肥満患者に投与することも、場合によっては効果的かもしれません。


(4) 大幅な体重の減少がなかったとしても、バランスの良い食品を規則正しく食べることは、健康の維持や生活習慣病の予防・改善に役立つと考えます。

<参考文献>

[1]Hall KD, Guo J. 「肥満エネルギー学」.Gastroenterology. 2017 May;152(7):1718-1727.e3. 

[2] Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4. 

[3] Jason Fung. The Obesity Code. サンマーク出版, 2019, Page 121.

[4] Rosenbaum M, Leibel RL. 「ヒトにおける適応的熱産生」. Int J Obes (Lond). 2010 Oct;34 Suppl 1(0 1):S47-55. 

[5]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen. 「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.

[6]Wilson JL, Enriori PJ. 「体重をコントロールするために脂肪組織、腸、膵臓、脳の間で対話する」. Mol Cell Endocrinol. 2015 Dec 15;418 Pt 2:108-19. 

[7]Garvey WT. 「肥満や脂肪蓄積による慢性疾患は治癒可能か」. Endocr Pract. 2022 Feb;28(2):214-222. 


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