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2024.01.28
低炭水化物 (ロカボ)ダイエット: 糖質を減らすことだけが重要ではない
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目次
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- ロカボって何?
- ロカボの効果(まとめ)
- 増加する糖尿病・血糖異常
- ダイエットの鍵はインスリンの制御なのか?
- 日本で広がる食事の偏り、質の低下
<まとめ>
アメリカでは1990年代後半から、低炭水化物食のブームがあったと言われていますが、日本では、2015年前後から糖質制限(ロカボ)ダイエットが多くの人に受け入れられブームとなっています。日本では伝統的にお米の文化ですが、戦後は米食よりもパンや麺類を好む人が増え、西洋化の食事と共に肥満が増えてきていると、多くの人が感じているようです。
今回は、痩せるだけでなく、血糖値異常、その他の生活習慣病にも有効とされる、話題のロカボ・ダイエットについて説明したいと思います。
【 私のスタンス:肥満と血糖異常症の問題を分けて考えます。】
一般的に、糖質制限を推奨する専門家は、肥満の原因はカロリーの過剰摂取ではなく、血糖値を上昇させインスリン(注1)の分泌を促す炭水化物(糖質)であると考えているようだ(炭水化物-インスリンモデル)。
加えて、肥満が一因とされるインスリン抵抗又はインスリンの分泌能力低下などによって糖代謝異常となり、最終的に糖尿病などの生活習慣病が発症すると考えられている。
つまり、肥満の問題も血糖異常などの症状も同じインスリンを中心とした一連の流れとして考えられているのですが、私は肥満は炭水化物の異なるメカニズムが原因だと考えているので、分けて説明したいと思っています。
(注1:食後に血糖値が上昇すると、それに反応して膵臓から分泌されるホルモンで、唯一、血糖値を下げる作用があります。余ったブドウ糖はグリコーゲンや中性脂肪に合成され蓄えられるが、その合成を促進するのもインスリンの働き。)
1.『ロカボ』って何?
『糖質制限の真実』(2015)より
日本では、「糖質制限ダイエット」という言葉が一般的には使われていましたが、「制限する」という言葉はどうしてもネガティブな印象を与えてしまいます。そういう訳で、これまでにない別の言葉を使う必要がありました。英語の Low carb から『ロカボ』という言葉をつくり、日本でも普及させたいと考えているのです。
ロカボとは、厳格ではなく "緩い” 糖質制限を意味します。糖質を1食あたり20~40グラムで3食、それとは別に1日10グラムまでのスイーツを食べて、1日の糖質摂取量をトータル70~130グラムにしましょう、というのが定義です。
厳格な糖質制限と違うのは、最低でも70gの糖質を摂取することで、ケトン体が出てくるような極端な低糖質状態になることを避けていることです。
また厳格な糖質制限は食事の幅が狭まりますが、ロカボでは食べられるものの幅はぐんと広がるのです。炭水化物の摂取量(を減らすこと)さえ守れば、肉料理、魚料理、チーズや野菜など様々な料理を食べることができるのです。
(参考文献:山田悟,「糖質制限の真実 :日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて」, 幻冬舎, 2015, P.114)
2.ロカボの効果(まとめ)
日本での低炭水化物ダイエット推進の第一人者である、山田先生の考えをまとめると以下のようになります。
(1)食事によって血糖値が上昇すると、膵臓からインスリンが分泌されるが、インスリンの分泌が過剰だと体重増加につながる可能性がある。日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、太っていなくても血糖異常になる人が多い。2型糖尿病を発症する人の半分以上は肥満 (BMI≧25)ではない。(P.33, 70)
(2)インスリン分泌の頻度が高いほど、また血糖値の上限値が高いほど、膵臓に負担がかかり、やがてインスリンの分泌に支障をきたし糖尿病の発症につながる可能性がある。また血糖の激しい上下動は、老化や細胞の癌化 、認知症(アルツハイマー)、心臓病発症リスクの増加などにつながる可能性がある。(P.35, 63, 68, 70)
(3)血糖値を上げるのは糖質だけである。低糖質の食事にすることで、血糖値の上昇を穏やかにすることができる。
糖質以外の蛋白質、脂質などの栄養素、繊維質には血糖値の急激な上昇を抑える働きがある。つまり白米よりチャーハンの方が血糖値の急激な上昇を抑えれるのである。(P.42, 47)
(4)健康の為に油脂を控えるべきという考えは、日本では疑われることなく長く一般に信じられてきたが、21世紀になってからの様々なデータは、たとえ食べる油脂を控えても、血液中の脂質の指数の改善、心臓病や肥満の予防につながらないと言うことを、明らかにしてきました。
トランス脂肪酸については避けるべきだが、その他の脂質については無理に控える必要はない。肉などの動物性脂肪(飽和脂肪)の摂取についても、日本人だけに限定すると、心筋梗塞や脳卒中の発症率との関連性はみうけられない(2013年データ)。(P.53)
(5)糖質を減らしても、脳はケトン体(脂肪酸から作られる)をエネルギーとして使うことができる。極端な糖質制限では、体にケトン体がたまってくることで血液が酸性に傾き、ケトアシドーシスという状態を引き起こす可能性がある。このようなリスクがある以上、極端な糖質制限はするべきではない。(P.75)
(6)厳格なカロリー制限や低脂肪食を長期に渡り続けられる人はまずいない。緩い糖質制限はカロリーも気にしなくていいので取り組みやすく、他の食事療法と比べても結果が出やすい。その人にはどんな食事療法があっているのかというオプションを広げていくことが大切である。(P.92)
(参考文献:山田悟,「糖質制限の真実 :日本人を救う革命的食事法ロカボのすべて」, 幻冬舎, 2015)
3.増加する糖尿病・血糖異常
国民健康・栄養調査によると、炭水化物の摂取量は過去60年以上に渡り減少し続けている。一日の摂取エネルギーも、1970年代初頭までは増加しているが、それ以降減少傾向にあります。
それにもかかわらず、近年、糖尿病患者や血糖異常などの糖尿病予備軍は増え続けているのです。
これについてのより詳細なデータ (1955~2019) と、私の考える摂取量以外の原因については、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】減少する糖質摂取量、増える糖尿病(血糖異常)
4.ダイエットの鍵はインスリンの制御なのか?
血糖値をコントロールするという意味では、緩めの低炭水化物ダイエットは効果的と思うのですが、肥満の問題についてはどうでしょうか?
「人はなぜ太るのか?」の著者であるゲーリー・トーベス氏によると、「カロリーの摂り過ぎが太る原因なのか?それとも炭水化物か?」は1800年代から議論されており、その理由として、低炭水化物ダイエットではその他のカロリー源(肉・脂質など)の量を気にすることなく食べても痩せることができたからです。
これが、カロリー理論を絶対的に信じ、脂質が心臓に悪いと考える専門家の猛反対を受けた訳ですが[1]、今では介入試験などによって低炭水化物ダイエットの高い減量効果が示され[2]、一定の地位を獲得していると言われています。
【関連記事】炭水化物が太るのか、カロリーが太るのか?論争
低炭水化物を推奨する専門家は、炭水化物が血糖値を上げ、インスリンの分泌を促すから太る原因だと考えているようであり、炭水化物さえ減らせば、インスリン分泌を促さない蛋白質・脂質はカロリーを補うためにも食べても良いとされていますが、私はその説明では不十分だと思っています。
私が付け加えたいのは以下です。
消化の良い精製された炭水化物や蛋白質(加工食品)に偏る食事はすばやく消化され、そういう食事が続くと空腹感が増し、いくつかの条件が重なると腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。
炭水化物のもつ特殊性(希薄効果、プッシュアウト効果)が腸の飢餓状態をさらに加速します。(つまり、腸内飢餓と関係するのはデンプンなどの多糖類であり、砂糖などの単純糖質ではない。)
【関連記事】
炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果
ですからその対処法として、痩せるためには逆の事、つまり炭水化物をある程度減らすだけでなく、その他の消化に時間のかかる食品(蛋白質、油脂、乳製品など)や繊維質を多く含む食品などを相対的に増やすことによって、未消化の食べ物が常に腸内に多く残るようにしないといけないのです。(この点において、グリセミックインデックス[GI]、グリセミック負荷[GL]の考え方はとても重要である。)
もちろん、肉や動物性脂肪(飽和脂肪酸)をいくらでも食べていいというアドバイは個人的に正しいとは思えないが、GI値の低い炭水化物、豆類・ナッツ類などの植物性タンパク質、魚・植物油などの不飽和脂肪酸、乳製品、繊維質の野菜などを組合せ、満腹感を高めることが大切だと考えます。
結果的に緩い糖質制限と似たような食事法になるのですが、炭水化物は肥満の直接的な原因ではなく、腸内飢餓を引き起こしやすくするという間接的な原因であるというのが私のスタンスなので、ケトジェニックの様な厳格な糖質制限には疑問を感じる。
また、私はインスリンが脂肪蓄積を促すとしても、それが根本的な肥満の原因ではないと思っています。
糖質制限を推奨する人の中には、「インスリンの分泌さえ下げれば、カロリーを気にせずに、ステーキ・魚のグリル・チーズ・オイルなど何でも食べてしかも痩せれるのだから、カロリー摂取量ではなく炭水化物が肥満の原因であったんだ。」と説明する方もいますが、その説明は間違っていると考えます。
5.日本で広がる食事の偏り、質の低下
近年、世界中で肥満の増加が深刻な問題となるなかで、太る人にとってはその原因の中心にあるのは間違いなく消化の良い精製された炭水化物であると考えます。
しかし、炭水化物を食べたから全員が太る訳ではなく、炭水化物のタイプ(GI値の高いもの)、食事の偏り、不規則な食生活(朝食抜き、夜遅い食事など)などの要因も関連しているのです。
例えば、カロリーや糖質の「摂取量」だけに着目すると、朝食を抜いたり、昼食をカップ麺・「スナックパンとおにぎり」又はファーストフードなどの簡単な食事で済ませてしまったりすることも悪くない選択に思えるかも知れません。さらに、野菜を食べないことも多少の糖質又はカロリーを減らすことに役立つと思われるかも知れません。
しかし、このような繊維質・栄養に乏しく炭水化物の多い「質の低い食事」と「空腹」を繰り返すことは、肥満や糖尿病・血糖異常症などの発症リスクを増大させる可能性があるのではないでしょうか?
データとしては示すことはできないが、私の知る限り、日本においても工場や作業所における派遣労働者や低所得層における「食事の質」の低下が近年著しいと感じる。
食費を抑えようとする時、一番安くすんで量が多い(一時的な満足感を得られる)のが炭水化物なのである。
参考文献:
[1] ゲーリ・トーベス, 16章「太る炭水化物に関するよもやま話 」,人はなぜ太るのか, 2013, P.177-8
[2] ジェイソン・ファン, 9章「低炭水化物 ダイエットの真相」,The Obesity Code, サンマーク出版, 2019, P.178-9
まとめ
(1)(2)は「減少する糖質摂取量、増える糖尿病(血糖異常)」の記事からの要約
(1)日本での糖尿病患者は、推計を始めた1997年の690万人から右肩上がりで推移し、2016年には1,000万人に達している。血糖異常などの糖尿病予備軍も含めると2016年で2000万人を超える(約6人に1人)。日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、2型糖尿病を発症する人の半分以上は肥満(BMI≧25)ではない。
(2)日本では、糖質摂取量やカロリー摂取量が50年以上前から減少傾向にあり、少なくとも日本において、肥満・糖尿病・血糖異常者の増加は、糖質やカロリーの摂取量だけでは説明できない。グリセミック・インデックス(GI値)の高い食品、砂糖類、バランスの悪い食事、朝食抜きなど不規則な生活などの要因が関係している可能性がある。
(3)カロリーや糖質の「量」だけに着目すると、朝食を抜いたり、昼食をカップ麺・ファーストフードなどの簡単な食事で済ませたり、野菜を抜くことさえも合理的に思えるかも知れませんが、消化の良い炭水化物に偏る「質の低い食事」と空腹の繰り返しは、血糖異常などの病気発症リスク、肥満リスクを増大させる可能性があるのです。
(4)近年の、(A) 肥満リスクの増大と、(B) 血糖異常者の増加は、炭水化物の異なる性質によるものであるというのが私のスタンスです。(B) に関しては、炭水化物を含む食事が血糖値をどの様に上げるのかということと、インスリンとの関係が大きく影響する。それに対し(A) は、消化の良い炭水化物が食べた物(栄養)を希薄にし、いくつかの条件が重なれば、腸内飢餓が引き起こされることと関連している。
つまり私の理論上では、肥満の根本的な問題は、腸内飢餓により設定体重そのものがアップすることであり、炭水化物は間接的にそれに影響しているのです。
(5)肥満や血糖異常のリスクを低下させるためには、炭水化物の量を減らすことだけが重要ではない。
低GIの穀類の摂取、他の食材(肉・魚・野菜・ナッツ類、乳製品、海藻など)を食事に組合わせること、規則正しく食べる(例えば、一日3回)ことなども重要である。
これらはすべて消化を遅らせ、吸収の速度を緩やかにし、血糖値を安定的に保つことに役立つ。「セカンドミール効果」や「レジスタントスターチ」の概念もこの点において重要である。
特に痩せるためには、消化に時間のかかる食品(蛋白質、脂質など)や繊維質を多く含む食品を増やすことによって未消化の食べ物が常に腸内に多く残るようにすることがむしろ重要なのです。これによって空腹感が抑えられ、順に吸収率は低下するので、空腹感をコントロールすることが減量達成の鍵となる。
(6)砂糖などの単純糖質は血糖異常などとは大いに関係があると考えるが、腸内飢餓を引き起こす原因となるのはデンプン、小麦などの多糖類である。