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2024.01.28
減少する炭水化物摂取量、増える糖尿病(血糖異常)
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<目次>
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- 炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)
- 私の考える血糖異常の増加の背景
<まとめ>
以下の記事をまだお読みでない場合は、併せて、そちらもお読みください。
【元の記事はこちら】
低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない
この記事では、炭水化物(糖質)摂取と血糖異常などの発症リスクとの関係について、私なりにその原因・背景を考察してみたいと思います(肥満の問題については、この記事では言及しません。)
1.炭水化物・脂質・エネルギーの摂取量の推移(1955~2019)
まず、厚生労働省が実施している「国民健康・栄養調査」を基に、一人一日あたりの炭水化物・脂質・カロリー摂取量の推移を見てみると以下のようになります。
■炭水化物の摂取量は、戦後間もない1955年には 411 gで総摂取エネルギーの 78.1 %を占めていたが、それ以降減少し続け1995年には 228 g、2019年には 248 g(総摂取エネルギーの 52.1 %)になっています。
■戦後、経済が発展するにつれ、脂質摂取量は1972年の 50.1 gまで急激に増加したが、1975年頃からほぼ 55 g前後で推移し、2000年前後からは一旦減少傾向にあった。1975年以降の年次変動は余り大きいものではない。
■一日の摂取エネルギーも1955年の 2,104 kcal から1971年の 2,287 kcal までは増加していますが、それ以降減少傾向にあり、2019年では、1,903 kcalとなっています。
それにもかかわらず、糖尿病患者、血糖異常者は増え続けているのです。
糖尿病患者[*1]は推計を始めた1997年の 690 万人から右肩上がりで推移し、2016年には1千万人に上った。
血糖異常などの糖尿病予備軍[*2]も含めると2016年で2千万人を超える(約6人に1人)。(参考:「糖尿病ネットワーク」)
[*1] HbA1c値が6.5%以上の「糖尿病が強く疑われる人」を含む。
[*2] HbA1c値が6.0%以上、6.5%未満で「糖尿病の可能性を否定できない」と判定される人。
2.私の考える血糖異常の増加の背景
以上のデータでお分かりの様に、日本における糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質摂取量やカロリー摂取量だけでは説明がつかない。
ロカボダイエットの主導者である山田先生によると、日本人は欧米人に比べインスリンを分泌する能力が弱く、太っていなくても血糖異常になる人が多いとのことだが、私が考えるその他の要因は以下です。
(1)運動量の低下
多くの専門家も指摘されているように、PCやスマホ、ゲームなどの普及に伴い運動量が低下していることが一因として考えられる。(肥満に関しては、私の理論上では、運動量の低下は本質的な肥満の原因ではない。)
(2)統計上の問題
■国民健康栄養調査では、設定された単位区から層化無作為抽出によって(300の単位区内に在住する)約 6,000 世帯が選ばれるのだが、2019年の調査では協力世帯は 2,836 世帯の 5,900 人であったという。強制ではないため、男性・若者・独身者の集団で協力が少ない傾向にあると言われる[1]。
■平均値に隠された上限・下限の大きな開き(ブレ)があるのかもしれません。理想的なバランスの良い食事をする人々もいる一方で、食生活の乱れが目立つ人々もいます。糖質の摂取量においても、ダイエットで少なく食べている人がいる一方で、個別でみれば生活習慣病リスクが高い人は糖質を過剰に摂取していたり、又はインスタント食品・ファーストフード等に偏ったバランスの悪い食生活をしているのかも知れない。
(3)食事の頻度、時間帯など
食事の量・質だけでなく、回数、時間帯、食べ順によっても吸収が左右される。
特に朝食抜きで1日2食の場合、昼食の糖質量が同じであっても吸収率が高まり、血糖値が急速に上がると言われている。
それに対し、朝食(ファーストミール)で食物繊維が豊富な食品などをしっかり食べておけば、昼食後やそれ以降の食事(セカンドミール)の血糖値上昇にも影響を与え、低く抑えられるということが、「セカンドミール効果」として知られている(1982年にトロント大学のジェンキンス博士によって発表された)。
(4)食事バランス
■食事バランスが大事である。糖質以外の肉・魚類、油脂、乳製品、野菜(繊維質)を組合わせて食べることで、胃の滞留時間も長くなり、糖の吸収も穏やかになるので、同じ糖質量でも血糖値の急激な上昇を抑えることができるであろう。
多くの人が太りたくないがために、脂質を減らす傾向は、肥満だけでなく血糖値異常者の増加につながる可能性があるのです。
■1970年代以降、外食産業におけるチェーン店などの増加に伴い、すばやく食べれる食事(牛丼、カレー、ラーメン、うどん、ファーストフードなど)の摂取機会が増えた。そういう食事は野菜も少なく、大部分は炭水化物であり、血糖値を上げやすいのではないだろうか? 健康的に見えるザル蕎麦であっても、単品では血糖値が上がりやすいと山田先生も指摘されている(山田悟, 第5章, 「糖質制限の真実」,幻冬舎, 2015, P144)。
また、多くの日本人は炭水化物が好きである。「ラーメンと炒飯」の様に異なる炭水化物(米と小麦製品)をダブルを食べるセットメニューが多い。
量は少なくても、おにぎり1個とスナックパン(又はカップ麺)、の様な組合せでは血糖値が上がりやすい。
(5)炭水化物(糖質)の質
■農水省統計によると、米の1人当たりの年間消費量は、昭和37年度(1962)の 118 kgをピークに減少傾向となっており、令和2年度(2020)の消費量は半分以下の 50.8 kgにまで減少しています。また、1世帯当たりの年間支出金額の推移を見ると、平成26年(2014)以降はパンの支出金額が米の支出金額を上回っています。
米の消費量が近年激減するなかで、その代わりに菓子パン、スイーツ、キャンディー、ソフトドリンクなど血糖値を上げる糖質が増えているはずで、炭水化物摂取量というデータだけでは十分とは言えない(参考:日本ローカーボ食研究会)。
■そんな中で、糖質50 gを含む食品を摂取した後の血糖値・持続時間などによって数値化されたグリセミック・インデックス(GI)という指標は有益である。また、GI値に、対象の食品に含まれる炭水化物の割合をかけて算出されるグリセミック負荷(GL)という指標もある。
食後の血糖値の急激な上昇を抑える観点で、 GI・GL値の低い食品に着目することが重要です(注1)。パン、白米、麺類、スナック菓子、芋類などはGI値が高い食品と言われるが、玄米、全粒粉パン、豆類、ナッツなどはGI値が低い。
(注1:砂糖のように急激に高い血糖値へ上昇するものの、速やかに下降するような食品はGI値では表現しきれないと言われている。)
■食品に含まれるデンプンの中には、消化されずに大腸まで届くレジスタントスターチ(難消化性デンプン)と呼ばれるものがあることが分かっている。
例えば、米・芋類・パスタに含まれるデンプンは加熱されて糊化したあと、冷ますとその構造が変化し、一部がレジスタントスターチとなることがあります。(レジスタントスターチには腸内環境を整えるなど、その他の多くのメリットが発見されている。)
現在より保温ジャーが一般的でなかった 1970~80年頃までは、お米の消費量は今より多かったかもしれないが、お弁当などで「冷めたご飯」をたくさん食べていたのではないでしょうか?
■国立がん研究センターは、1990年代後半に「糖質の摂取量と2型糖尿病罹患との関連」を調べるため5年間の追跡調査(糖尿病や循環器疾患、がんの既往などのない45~75歳の約6万5千人の男女を対象)を行った。これによると、女性においては、単純糖質(砂糖、果糖など)やスターチの摂取量の多い人に糖尿病の罹患率が高かったことが判明した[2]。
(6)調理の進化、加工食品など
■近年の調理技術の向上や加工食品が増えたことにより、肉・魚、野菜など含むすべての食品はソフトになり口の中でとろけるようになった。そのような食品はすばやく消化され、胃の滞留時間が短くなるため、糖質の吸収が早まる可能性があると私は考える。
■また多くの加工食品・お菓子などには人工甘味料が使用されている。人工甘味料自体は血糖値を上昇させないものの、習慣的な使用は、味覚や腸内細菌叢(フローラ)の変化を介し、糖代謝に悪影響を及ぼしている可能性を指摘する専門家もいる[3][4]。(参考:農畜産業振興機構「人工甘味料と糖代謝」)
まとめ
(1)日本では、1955年の統計以降、炭水化物(糖質)摂取量は一貫して減少している。摂取カロリーも過去50年に渡り減少傾向にある。少なくとも日本では、近年の糖尿病患者・血糖異常者の増加は糖質やカロリーの摂取量だけでは説明できない。
(2)炭水化物(糖質)と一概に言っても、血糖値の上がり方は異なる。1970年前後からの急速な食の欧米化と共に、日本国内におけるお米の摂取量はピーク時(1962年)の半分以下に落ち込んでいる。その代わり、血糖値を上げやすい粉物(パン類・麺類・スナック菓子)、砂糖(スイーツやソフトドリンク)の摂取が増えていると考えられる。お米は粒であり、粉物などに比べ比較的消化の過程は緩やかであるはずだが、同じお米であっても、精米度合い、炊き方(水分)、冷まし方によって血糖値の上がり方が異なる。
(3)食事のバランス(食材の組合せ)、食事の頻度、摂取の時間帯、食べ順などによっても血糖値の上がり方に違いがでる。
例えば、消化の良い炭水化物(高GI) に偏る食事、スイーツやソフトドリンクの頻繁な摂取、朝食抜き、早食いなどの食習慣は、一日の糖質摂取量は多くなくても、インスリン分泌の頻度をあげ、血糖値の上下動を激しくし、膵臓に負担をかけるのではないかと考えます。
(4)血糖異常のリスクを低下させるためには、食品の糖質含有量だけでなく、GI値やGL値のように、血糖値の上がり方を意識した食事が大切ではないでしょうか?高GI食品や砂糖類の摂取量を減らし、低GI食品 (全粒穀物、「肉・魚などのタンパク質」、ナッツ、乳製品)、オイル、非でんぷん質の野菜など の摂取を増やし、食事全体としての血糖値上昇を抑えることが重要です。
一日3回規則正しく食べる、野菜などから先に食べる、冷めたご飯を食べる―ことでも血糖値の上がり方が緩やかになるということが知られています。
(5)個人的な意見としては、日本の伝統的なお米を主食とするバランスのとれた食事は、肥満・血糖異常のリスクを増加させるものではないと思っている。日本では四季折々の野菜や魚介、伝統的な発酵食品に恵まれているにも関わらず、近年は高GIな炭水化物や肉製品、インスタント食品などを好んで食べる人が増えていると感じる。
(肥満原因も含めた、包括的な低炭水化物ダイエットの効果については、以下の記事をご覧ください。)
【関連記事】低炭水化物(ロカボ)ダイエット:糖質を減らすことだけが重要ではない
[1] 日本肥満学会, 第4章「肥満症診療ガイドライン2022」,ライフサイエンス出版, 2022-12, P28.
[2] 金原理恵子、後藤淳 他,「前向きコホート研究における中年成人における砂糖およびデンプンの摂取量と2型糖尿病リスクとの関連性」
[3] Pepino MY, Bourne C. Non-nutritive sweeteners, energy balance, and glucose homeostasis. Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2011 Jul;14(4):391-5. doi: 10.1097/MCO.0b013e3283468e7e. PMID: 21505330; PMCID: PMC3319034.
[4] Suez J, Korem T, et al., Artificial sweeteners induce glucose intolerance by altering the gut microbiota. Nature 514, 181–186 (2014). https://doi.org/10.1038/nature13793