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カロリー

2022.12.20

カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由

目次

  1. そもそも Atwater係数 とは?
  2. 消化は試験管の中で燃やすのとは違う
  3. 腸内飢餓のメカニズムからの視点
     <結論>

<はじめに>

「1カロリーは1カロリーだ」という言い回しがある。
これは、「ブロッコリーでも、ごはん・肉・オリーブオイルでも、摂取源に関係なく、食べた1カロリーは、体内でも1カロリーである」という一部の有識者の考えであり、その考えを体重管理に当てはめると、食べる物は何でもいいから、トータルの1日の摂取カロリーだけを気にすることになる。

  
もちろん人間の体はそんなに単純ではないし、多くの研究者がこれに警鐘をならしている。

私はこれを説明する上で、体の「内部」で起こる反応(吸収された後)と「外部」で起こる反応(吸収される前)を分けて説明すべきと考えました(注1)。今回は体の外部での問題として、食品ラベルのカロリー表示のベースとなっている、アトウォーター(Atwater) のエネルギー換算係数について考えてみたいと思います。

胃腸は体の外部

多くの腸内細菌の学者などが認識するように、胃や腸などの消化器官は体の「外部」であり(腸内悪玉菌が直接体に悪さをしないのも体の外部だから)、私がこのブログで説明してきたこと、つまり「吸収率が重要である」という考えと完全に一致するのである。

(注1:「食事誘発性熱産生」は吸収された後に使われるエネルギーだが、消化に関することなので「外部」の反応としても考えたい。)

1. そもそも Atwater係数とは?

1800年代には、食品を燃やして周囲との温度変化を測定することで食品中の熱量(カロリー)を測定する方法が化学者によって開発されていった。食品を燃やすことは、私たちの体が食品を分解しエネルギーを得る過程と似ていたのである。


食品のカロリーについて私たちが知っていることの多くは、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、コネチカット州ウェズリアン大学のウィルバー・アトウォーターの研究からきていると言われる。彼は、人間の代謝とさまざまな食品のエネルギー含有量を理解することを目的としたさまざまな実験を行った。

研究者

彼は、ボランティアの人にいろいろな食べ物を食べさせ、食べ物と排泄物の燃焼熱の差を計算することで、彼はボランティアが吸収したカロリーを概算したのだ。また、アトウォーターは体内では消化されない食物繊維や(注2)、タンパク質が吸収された後にその一部が尿素として尿中に排泄されることを考慮に入れていたとされる。

アトウォーターの実験から120年以上たった今でも、このアトウォーター係数は、すべての食品のカロリー計算の基礎となっている[1]

(注2:現在は食物繊維なども大腸で腸内細菌による発酵分解を受けて短鎖脂肪酸となり、多少のエネルギーを生むことが分かっている[2]。)

主要栄養素

現在、食品メーカーなどで広く使用されている一般的なアトウォーター係数は、1グラムあたり、タンパク質と炭水化物が4kcal、脂肪が9kcal、アルコールは7kcalで、これは食品の種類にかかわらず、すべての食品に適用される

特定のアトウォーター係数の使用も認められているが、それは食品群ごとに異なる係数が使われている[3]

また、この係数はその当時のアメリカ人の平均的な日常食を元に作成された数値なので、日本では、穀類・大豆製品・油脂類・動物性食品など主要な食品については、日本人を対象とする研究によって求められた係数が使われているという[4]

2. 消化は試験管の中で燃やすのとは違う

私達は食べ物を摂取し、それを様々な消化酵素によって、複雑な食物分子を単糖やアミノ酸などの単純な構造に分解し、それを吸収することでエネルギー源を体の中に取り込みます。当たり前ですが、これは実験室内で食品を燃やすのとは全く違うプロセスである。

  
ロブ・ダン
氏(ノースカロライナ州立大学)によると、食品ラベルに記載されるカロリー値は推定値か近似値に基づくもので、正確に反映されたものではないという。

最近の研究では、ある食品から得られる総カロリーを正確に計算するためには、その食品の細胞壁の構造の違い、調理法の違い、異なる食べ物を消化するために使うエネルギー(食事誘発性熱産生)の差、腸内の何億というバクテリアが人間の消化をどの程度助け、逆にカロリーの一部を自分用に盗んでいくのか、といった目まぐるしい要因を考慮しなければならないことが分かっている[5]


(1) 野菜の中でも消化性に違いがある

野菜と一概に言っても、葉や茎の固さは同じではありません。ある種の野菜の茎や葉の細胞壁は丈夫なのに対し、ホウレン草、キュウリ、レタスなどの野菜は柔らかで90%以上は水分です。
また、同じ種類の野菜であっても、成長するほど細胞壁が固く丈夫になり、消化が困難になる傾向があります。

特にトウモロコシ、木の実のような種子は細胞壁がしっかりしており、食品は貴重なカロリーを細胞壁の内に残したまま、一部が消化されずに体内を通過することができるのです[5]

米国農務省のジャネット・A・ノボトニーらの研究(2012年)によると、人々がアーモンドを食べるとき、ラベルに記載されている170 kcalではなく、1食あたりわずか129 kcalを摂取することが判明しました。

細胞壁固い野菜

ピーナッツ、アーモンド、クルミなどナッツ類は、タンパク質、炭水化物、脂肪が同程度の他の食品よりも細胞構造がしっかりしており、その細胞壁が消化を制限していることが証明され始めているのであるアトウォーター係数ではナッツ類の消化率が過大評価されている可能性があるのです[6]
   


(2) 調理方法によってカロリーは変化する

またロブ・ダン氏によると、現代のカロリー表示の最大の問題点は、食べ物から得られるエネルギー量を劇的に変化させた食品の調理・加工する方法を考慮していないことだと言われている。

私たち人類は、生の食べ物に火を入れることを覚えた。煮たり、焼いたり、炒めたり、発酵させたり、さまざまな加工を行い、食べやすく柔らかくすることを覚えた。それによって、食品から抽出するカロリーを劇的に増加させたはずである[5]

さらに工業的な食品加工は、食べ物を高温・高圧の中にさらすだけでなく、空気を加えソフトに仕上げることで、さらにカロリーを吸収しやすくしているとの指摘もある。

例えば、消化の良くないとされるコーンはポタージュに、生のピーナツは焙煎しピーナツバターに加工される。このようにすることで、摂取できる栄養やエネルギーは飛躍的に増加したと考えれるであろう。つまり同じ豚肉でも、すべて同じでない。ブロックで焼くのと、パテにするのとでは消化で使われるエネルギーも、栄養の吸収のスピードも変わってくるのである。


(3) 消化・免疫の為に必要なエネルギー

消化に要するエネルギーも同じでないことが研究で明らかになっている。これは食事誘発性熱産生と呼ばれ、タンパク質はアミノ酸に、脂肪は脂肪酸に、炭水化物はグルコースに変換され吸収されるのだが、その際に大きなエネルギーを必要とすることが分かっている。タンパク質が分解される際に、酵素がその緊密な結合を解きほぐす必要があるため、脂肪の数倍ものエネルギーを消化に必要とするそうです[7]


また全粒粉と精白された小麦でも異なる。2010年に行われた研究では、ひまわりの種、穀粒、チェダーチーズが入った600または800カロリーの全粒粉パンを食べた人は、同じ量の白パンとプロセスチーズ製品を食べた人に比べて、その食べ物を消化するために2倍のエネルギーを消費したことが分かった。その結果、全粒粉パンを食べた人は、摂取カロリーを10%少なくすることができたとい言う[8]

肉ユッケ、生レバー

また日本人や韓国人は文化的に生魚や生肉を食べるのが好きだ。しかし生の肉などは危険な微生物がたくさん潜んでおり、私たちの免疫システムが病原体を攻撃したり、菌を特定したりするためにエネルギーを使うことが判明していると言われる[5]

生のタルタルステーキよりも、同じ量の火を通した肉の方が消化にかかるエネルギーも少なく、有効となるカロリーが多い可能性があると言われている。


(4) 消化酵素・腸内細菌の違い

牛乳に含まれる乳糖を分解するのに必要なラクターゼという酵素は、ほとんどの赤ちゃんは持っているが、成人になるにつれ分泌が減ると言われている。

またお米やスパゲティーなどのデンプンは調理した後に放置され冷めると、一部のデンプンが再結晶してヒトの小腸では消化されない難消化性に変化することが分かっている(レジスタントスターチ)。

 
さらに、特定の民族にしか存在しない微生物もいる。例えば、多くの日本人の腸内には、海藻を分解するのに適した腸内細菌がいると言われている。この腸内細菌は、生の海藻に付着していた海洋細菌から、海藻を分解する遺伝子を盗んだものであることが判明している[5]

   


(5) 計算方法によって違いがでる

一般的なアトウォーター係数は、当時のアメリカ人の平均的な日常食を考慮して、炭水化物・脂質・タンパク質の消化吸収率を97, 95, 92 %とし、それを補正して、1グラムあたり、タンパク質と炭水化物が 4kcal、脂質が9kcal、アルコールが7kcalとしたものである[9]タンパク質であれば植物性か動物性かの違いがあるし、炭水化物では単糖か多糖類で代謝可能なエネルギー値が若干異なるが、それらを平均して導かれた値なのである。

その他にも、食品をいくつかのグループに分け、そのグループの代表的な食品について求めた係数をグループ全体に適用する特定のアトウォーター係数もある。

アメリカの食品医薬品局(FDA)では、これらを含め合計5つの測定方法を認めており、食品会社が選択する方法によっては表示カロリーにバラつきがでると指摘する方もいる[10]。そういう曖昧さを積み上げていくと、1日当たりの摂取カロリーは、大きく変わることがありうるだろう。
   


<この節の総括>

ロブ・ダン氏は次のように指摘される。

(1)アーモンドの例のように、すべての食品ごとに、アトウォーター・システムを修正することは可能である。しかし、その場合、すべての食品ごとに排泄物を再調査する必要があるだろう。


(2)しかしカロリー計算を全面的に見直したとしても、食品から抽出されるカロリーの量は、食品と人間の体や多くの微生物との複雑な相互作用によって決まるため、正確な数値になることはないであろう。とりわけ、消化の過程は非常に複雑であり、誰にでも合う確実なカロリー計算のための公式を導き出すことはおそらく不可能であろう。


(3)それよりも、食べ物から得られるエネルギーについて、人間の生物学的な観点からもっと慎重に考えるべきでしょう。加工食品は胃や腸で簡単に消化されるため、少ない労力で多くのエネルギーを摂取することができます。
一方、野菜やナッツ、全粒粉などは、カロリーの割に消化に労力を要し、加工食品よりもはるかに多くのビタミンや栄養素を含み、腸内細菌を幸せな状態に保ってくれるのです[5]

    

3.腸内飢餓のメカニズムからの視点

アトウォーター氏含め当時の研究者・栄養学者は、人々が十分な栄養を摂取できるように尽力されたし、その係数に基づくカロリー計算システムには大きなメリットがある。
しかしそれは一部で間違った形で認識され、今や肥満や体重増加の問題も引き起こしているのではないだろうか?肥満の問題がいつまでたっても解決されない理由は、多くの人が食品のカロリー値にこだわり過ぎているからだ。


どういうことかと言うと、例えば、加工度の低い全粒粉のパンとナッツ、チキンソテーの食事(400kcal)を食べたとしよう。消化にかかるエネルギーなどを考慮した結果、実質的に摂取カロリーを10%少なくできた(360kcal) と仮定して、「360kcal 分の白パンとチキンテリーヌを食べれば一緒ではないか」という議論は全くナンセンスである。

全粒粉のパン、ナッツは消化されない固い繊維質が最後まで残るため、腸内では「食べ物がまだある」というメッセージだが、白い食パンと消化の良いタンパク質などの組合せは、すばやく消化され、私の理論の3要素(+1)の条件を満たせば「食べ物がもう無い」という腸内飢餓のメッセージを小腸を通して脳に送るだろう。

つまり毎日の摂取カロリー合計を減らしたにも関わらず、太る原因となることがある。

▽私はこのブログ全体を通して、設定体重(set-point weight)の違いが「肥満の人と痩せている人の根本的な違いである」ということを説明しているのですが、設定体重が高いことは「腸の吸収効率が高い」ことと関連しており、それは腸内飢餓によってアップします。

そして腸内飢餓を引き起こす重要な要素の1つが「消化力」であるので、消化率も吸収効率も私の理論上は極めて重要である。にもかかわらず、被験者の平均値を元にした数値だけを「全て」と信じれば、それらを無視することになるのである。多種多様な人々の消化率や吸収率は実験に参加した被験者の平均値では語れないと思う。

  
■アトウォーター係数での吸収率の問題については、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】摂取カロリーを単純合計することに意味はない

   

結 論

アトウォーター係数はその食品がどれだけのエネルギーを含んでいるのかの尺度だが、肥満の問題を扱うには不十分である。消化に要するエネルギーや食品組成などを考慮し、アトウォーター係数をより正確にしたとしても、数値だけで判断するのであれば肥満の問題は解消しないと考えます。

一つの案として、加工度の高い食品にマーク、加工度の低いものにマークなどをつける「信号機」システムを導入し、消費者に注意喚起してはどうか、ということが一部の研究者の中で提案されているようだが[11]、それには私も賛成である。また、満腹度、噛む回数、消化のスピード(難消化性)などを組み合わせた信号機システムも可能だ。


今、私達に必要なことは、いかにも科学的に見える「カロリー計算」という見かけの正確性から少し離れ、伝統的な食事・食習慣を見直すことではないだろうか。

伝統食

ロブ・ダン氏も指摘された事と重複するが、伝統的な野菜料理・豆料理・ナッツ・小魚、加工されていない肉・魚、乳製品、発酵食品、全粒粉のパン(ごはん)などを食べることは、カロリー上のメリットだけでは説明ができない。

それらの食品は加工食品よりもはるかに多くのビタミンやミネラルを含み、繊維質は腸内細菌を良好な状態に保ち、適度な満腹感を与え、急激な血糖値の上昇を予防するなど、様々な健康上のメリットを与えてくれるのです。

食べ方によっては、摂取カロリーなど気にせず、痩せることも可能であるはずです。

参考文献

[1]Giles Yeo. 「食品パッケージのカロリー表示は間違っている」. 2021.

[2]Japan Food Research Laboratories. 「食品の熱量について」. 2003 Jul.

[3]The Nutrition Coordinating Center (NCC). Primary Energy Sources.

[4]高田和子. 「摂取したエネルギーの体内での吸収と利用」. 体力科学. 2007. Pages 56, 287-290.

[5]Rob Dunn. 「カロリー計算が間違っている理由を科学が明らかに」. 2013.

[6]Novotny JA et al. 「アトウォーター係数におけるアーモンドの実測エネルギー値との相違」. Am J Clin Nutr. 2012 Aug;96(2):296-301.

[7]Westerterp KR. 「食事誘発性熱産生」. Nutr Metab (Lond). 2004 Aug 18;1(1):5. 

[8]Barr SB, Wright JC. 「自然食品と加工食品の食後エネルギー消費量」. Food Nutr Res. 2010 Jul 2;54. 

[9]高田和子. 2007.「摂取したエネルギーの体内での吸収と利用」. 体力科学. Pages 56, 288.

[10]Cynthia Graber, Nicola Twilley. Why the calorie is broken. BBC future. 2016.

[11]Richard Wrangham, Rachel Carmody. Why Most Calorie Counts Are Wrong. Harvard University. 2015.
            

2022.09.25

摂取カロリーを減らすと、体は自動的に消費を減らす

目次

  1. 運動以外の「消費エネルギー」は一定ではない
  2. 摂取カロリーを減らした時に何が起きるのか?
  3. 摂取と消費は相互に依存している(私の感想)
    <まとめ>

以下の記事で、「ダイエット(食べる量を減らす、運動をする)が上手くいかなかった」という研究結果をいくつか見てきましたが、多くのダイエット経験者が感じるのは『減った体重が思ったよりもはるかに少ない』ということではないでしょうか?

【関連記事】ダイエットは、長期的にはほぼ成果なし

今回は単に、『摂取カロリーを減らせば、体にどんな反応が起こるのか』について見ていきたいと思います。これまでに、従来のカロリー制限系のダイエットをしたことのある人にとっては、身に覚えのあることだと思います。ほとんどが引用になってしまうのですが、とても興味深い内容なので紹介します。

1.運動以外の「消費エネルギー」は一定ではない

「The Obesity Code」Dr. ジェイソン・ファン著(2019年)より引用

"私たちは摂取カロリーのことは気にするくせに、「運動以外で消費されるカロリー」のことはほとんど考えない。摂取カロリーを計算するのは簡単にできるが、体全体のエネルギー消費量の計算は複雑だ。

エネルギーがどう消費されるかはホルモンによって自動的にコントロールされるため、私たちが意識的にコントロールできるのは運動によるエネルギー消費だけとなる

「脂肪の蓄積にこれくらい、新しい骨の形成にはこれくらいのエネルギーを振り分けよう」と自分で決めることはできない。

だから、運動以外で消費されるエネルギーは「常に一定である」というわかりやすい仮説が生まれたのだが、これは完全に間違いである

ジョギング

基礎代謝量、食事による熱発生効果、非運動性熱産生、運動後過剰酸素消費量、それから運動によって消費されたものをすべて足し合わせたものが、「総エネルギー消費量」だが、この数値は、摂取カロリーやその他の要因で、人によっては50%も前後する。(略)

仮に、私たちが一日に2,000 kcalの化学エネルギー (食べ物)を摂り入れるとしよう。この2,000 kcalはどのような代謝活動に使われるだろうか? 可能性として挙げられるのは、次のようなものだ。

・熱の発生 ・たんぱく質の合成 ・新しい骨や筋肉の形成・認知(脳) ・心拍数の上昇 ・1回拍出量(心臓が1回の拍動で送り出す血液の量)の増加 ・身体運動 ・解毒作用(肝臓、腎臓) ・消化(すい臓、腸) ・呼吸(肺) ・排泄(腸および結腸) ・脂肪の生成

五臓六腑(図)

私たちは、摂取したエネルギーが燃やされて熱になっても、たんぱく質の合成に使われてもまったく気にしないのに、ことエネルギーが脂肪として蓄えられるとなると気になって仕方がなくなる。

だが、人間の体が過剰なエネルギーを消費する方法は、体脂肪として蓄えるほかにも無数にあるのだ。"(略)

(ジェイソン・ファン. 2019. The Obesity Code. サンマーク出版. Pages 67, 74-6.)

2.摂取カロリーを減らした時に何が起きるのか?

<ワシントンでのカロリー制限実験>

"1919年、ワシントンのカーネギー研究所で、摂取カロリーを減らしたときにエネル ギーの総消費量がどのように変化するかについての詳しい研究が行われた。

研究対象とな ったボランティアは、1日1,400 kcalから2,100 kcal程度に食事を制限する半飢餓状態におかれ、経過を観察される。これは通常の摂取カロリーより30 %削減された食事である(今日の減量のための食事療法では、ほぼ同じレベルのカロリー 制限が課されている)。

その結果、実験参加者の総エネルギー消費量は 30%も減少し、平均して、実験前のおよそ3,000 kcalから1,950 kcalに減っていた。100年近くも前から、摂取カロ リーは消費カロリーに深く関わっていることが明らかだったわけだ。 
   

<ミネソタ飢餓実験>

その数十年後の1944年~45年、今度はアンセル・キーズ博士(1904~2004年)が飢餓実験を行っている。(略)
ミネソタの実験では、カロリー制限をしている時期と、飢餓状態からの回復期における人間の状態を理解する目的で行われた。(略)

実験内容はこうだ。被験者は平均身長 178センチ、平均体重 68・3キロの健康で、平均的な体格の若い男性36人。
始めの3か月、被験者は1日の摂取カロリーを 3,200 kcalとする、ごく標準的な食生活を送った。次の6か月は半飢餓状態にするため、1,570 kcalのみが与えられたが、目標である体重24%減(もとの体重比)を達成するよう摂取カロリーの調整が行われたため、1日の摂取カロリーを 1,000 kcal未満に制限された男性もいた。

炭水化物

与えられた食事は高炭水化物のものばかりで、ちょうど 戦後の荒廃したヨーロッパで手に入る食べ物と同じようなもの(ジャガイモ、パン、マカ ロニなど)が与えられた。肉や乳製品などはほとんど与えられなかった。加えて、彼らは 運動として週に22キロ歩かされた。
カロリー制限の時期が終わると、3か月間のリハビリ期間に入り、この間、徐々に摂取カロリーを3,000 kcalまで増やしていく。


いったい何が起こったのか。
実験を始めるまで、被験者たちは一日 約3,000 kcalを摂り、消費していた。それが突然、摂取カロリーを1日約1,500 kcalに減らされたことで、体の機能は30~40%のエネルギー削減を余儀なくされ、彼らの体内では混乱が生じたのだ。 

  • 体温が下がる。その結果、常に寒けを覚える。
  • 心臓のポンプ機能が弱くなり、心拍数と1回拍出量が減る。 
  • 血圧が過度に下がる。
  • 脳の認知機能が弱くなる。倦怠感を覚え、集中力が欠如する。
  • 動けなくなり、身体活動が不活発になる。
  • 髪や爪が生え変わらなくなり、爪が割れ、髪が抜ける。

毎日1,500 kcalしか摂取しないのに、体が毎日3,000 kcalのエネルギーを使い続けたとしたら、いずれ死に至る。当然である。だから、体はエネルギーのバランスをとるため、自動的に1日の消費カロリーを1,500 kcalに抑えようとするのだ。(略)ミネソタ飢餓実験の被験者たちは35・3キロほど体重が落ちる計算だったが、実際に落ちたのは16・8キロだけで、予測の半分以下にとどまった。


そのあと、被験者の体重はどうなっただろうか? 

半飢餓状態にあるとき、体脂肪は体重よりもずっと速く落ちていった。体に力を与えるため、体内に蓄積されていた脂肪から先に使われていくからだ。回復期に入ると、被験者の体重はおよそ12週間で元に戻った。だが、体重はその後も増え続け、結果的に実験前の体重よりも重たくなってしまった。(略)

ダイエット

摂取カロリーを減らすと消費カロリーも必然的に減るので、「摂取カロリーを減らせば 体重が減る」という理論の根幹となる仮定条件が、そもそも間違っているのだ。この結論は、これまでに何度も証明されてきた。

それでも私たちは、「今回のダイエットこそはどうか成功しますように」と願い続けている。

うまくいくことはない。カロリー制限をしたり、1回の食事量を減らしたりしても、倦怠感と空腹感を覚えるだけなのだ、と。最悪なのは...減った体重がすべて元に戻ってしまうことである。"(引用以上)
(ジェイソン・ファン. The Obesity Code. Pages 78-87.

3.摂取と消費は相互に依存している(私の感想)

「ミネソタ飢餓実験」について少し気になった点は、被験者が実験に入る前に食べていた 3,200 kcalが平均体重68キロの人が必要とする1日の摂取カロリーより高い気がした。これをベースに試験開始後のカロリー(1,570kcal)と比較するのは適正なのかということである。
もう一つは、この実験では被験者は肉や乳製品はほとんど与えられなかったということだが、微量栄養素(鉄、カルシウム、銅、亜鉛)やビタミン、タンパク質などは代謝に関わる栄養素もあるし、その不足は様々な病状を引き起こす。つまり被験者に起こった様々な症状は単に『カロリー摂取量』だけの問題ではないはずだ。この点は考慮して欲しい。
しかし、実験の本来の目的、その規模、過酷さを考えるとこのデータは貴重なものであると思うし、尊重しないといけないと思う。


▽私は痩せているのでダイエットはしたことはないが、同じ様な体の反応はもちろん経験がある。
30代の時、京都の和食店で働いていたが、忙しい桜や紅葉・年末の時期は休憩も食事もなしで12時間以上働く時もよくあった。体が疲れているので、無駄な動きはしないようになり、指先は冷たくなる。栄養分や酸素を細胞に運ぶために心臓の鼓動が激しくなる。元気に振舞ってはいても口数は減り、仕事の後の食べ物のことしか考えなくなる。


現在は調理の仕事は辞めているが、健康診断の時(朝食を抜いているので)、私の脈拍数は1分間に35程度の時がある。医者に「低すぎるからペースメーカーを入れた方がいい」と言われたこともあるが、断っている。

私は血液が少ないのは自分が分かっているから、血液を無理に循環させても別のところに歪(ひずみ)が来てしまうのではないかと思ったし、体が無駄なエネルギーを使わないためにワザと代謝を低く調整しているのだとも思っている。すべては、自分の意思とは関係がない。ホルモンのなせる技である。

ロボット

ゲーリー・トーベス氏が、「人はなぜ太るのか」で説明されたように、私たちはロボットではない。人間を含め動物はすべて命を最優先にするため、脳・心臓・肺・肝臓などをストップさせることはできない。
そのため食事を制限された動物は無意識に不活発になったり、優先度の低い可能なところから少しづつ代謝を減らすと考えるのは妥当ではないだろうか?

摂取カロリーと消費カロリーは、相互に依存している。数学的に言うなら独立変数ではなく、従属変数である。[1]

(引用元: [1] ゲーリー・トーベス,「人はなぜ太るのか」, P.89)

まとめ

(1) 運動以外で消費される(基礎代謝などの)消費エネルギーはホルモンにより自動でコントロールされるが、その値は一定ではない。摂取カロリーを減らせば、消費されるエネルギーも減ることが確認されている。

  
(2) 1919年、ワシントンのカーネギー研究所で行われた研究では、摂取カロリーが30 %削減されると総エネルギー消費量もおよそ30%も減少した。

  
(3) 1944年に行われたミネソタ飢餓実験では、被験者たちは摂取カロリーを約3千kcalから約1,500 kcalに減らされたことで、体の機能は30~40 %のエネルギー削減を余儀なくされた。体重減少だけでなく様々な症状が確認された。 

  
(4) 戦争、飢饉または科学実験で半飢餓状態におかれた人たちは、いつも空腹を感じるだけでなく、無気力になり、エネルギー消費量も少ない。体温が低下するため、彼らは常に寒さを感じる傾向にある。私たちが摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存している
     

2017.06.11

1日あたり20キロカロリーの重要性とは?

目次

  1. 1日あたり20kカロリーで何が変わるのか?
  2. 足し算、引き算では出来ないこと

私は、「人の体には現状を維持しようとする機能がある」と言いましたが、それと関連する面白い記事があったので紹介します。今回は全て引用になりますが、ご了承下さい。

【関連記事】 「一番優先されているのは現状維持」

1.1日あたり20kカロリーで何が変わるのか?

(「人はなぜ太るのか?」 【ゲーリー・トーベス著】より引用)

"体脂肪を毎年新たに2ポンド(約1kg)ずつ、25年間に50ポンド(約23kg)増やすためには、私達は毎日、何キロカロリー多く食べなければならないのか?

答えは1日当たり、20キロカロリーである。

【1日当たり、20kcalの超過 ×365日】とすれば、毎年7千kカロリーをやや上回る量のエネルギーを脂肪として蓄積し、結果として2ポンド(約1kg)の体脂肪が増加する。

脂肪の蓄積が「入るカロリー/出るカロリー」によって決まるということが真実であれば、「25年間に50ポンド(約23kg)増やすためには、毎日、平均でたったの20kカロリーを余分に摂取するだけでよい」ということである。それを元に戻すためには、毎日の摂取エネルギーを20kカロリー少なくするだけでよい。

20kカロリーは、ハンバーガーやクロワッサンの一口よりも少なく、ポテトチップス枚よりも少なく、ビールの60ml以下である。

米国国立衛生研究所(NIH)が言うように、体重を維持するために必要なことが、「摂取するエネルギーと消費するエネルギーを均衡させること」であるとすれば、1日あたり平均20kカロリーを過剰に摂取した場合には、最終的には肥満になるだろう。

自問してほしい。毎日、エネルギーの均衡点を20kカロリー超えることで、徐々に肥満となるのであれば、どうすれば痩せたままでいることが可能なのだろうか?

ビジネスマン

▽実際に、痩せた状態を維持している人たちはかなり多い。
肥満や過体重の人達でさえも、重いなりに、彼らの体重を維持している。さらに太り続けていないのであれば、摂取するカロリーと消費するカロリーを、平均で1日あたり20kカロリー以下に均衡させている。

ほとんど正確に知ることのできない『エネルギー消費量』と釣り合うようにするとしたら、いったい誰がそんなに正確に食べることができるのだろうか?これが、20世紀の前半の「入るカロリー/出るカロリー」が世の中の常識になる前に、この算数に関して研究者達が抱いた疑問である。"

(ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 68-9.)

2.足し算、引き算では出来ないこと

<1936年>
"当時の米国における栄養と代謝の第1人者とされた、コーネル大学のユージン・デュボア (Eugene Du Bois)は、20年間にわたり体重を1kg以上増やさないように管理している75kgの男性は、「入るカロリーと出るカロリー」の誤差を0.05%以内に調節していると計算し、「その正確さに匹敵する機械はほとんどない」と書いた。

デュボアは「私達はいまだに、なぜ太る人がいるのかを理解していない」と書いた。

運動と食事

また彼は「この栄養が過剰な社会において、なぜすべての人が太らないのか?」とも述べ、「身体の活動量と食物の摂取量が激しく変動するなかで、一定の体重を維持することほど不思議な現象はない」と付け加えた。

多くの人たちが何十年も痩せたままでいる事実(現在ではデュボアの時代よりは少ないが)、そして肥満の人達でさえいつまでも太り続けることはないという事実は、その体重調整において、カロリー理論で説明される以上の 『何か』 が働いていることを示唆する。"(引用以上)

( ゲーリ・トーベス. 「人はなぜ太るのか」. Page 70.)

2017.05.24

カロリーの祖、ノールデン氏の文書(日本語訳)

まだの方は、こちらの記事を先にお読み下さい。
「カロリー意味あるの?カロリーの歴史はやはり神話なのか?」

▽ゲーリー・トーベス氏によると、
1900 年代の初頭に「私達は、消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るんだ」(カロリーの原則)ということを初めて言ったとされるのがカールフォン・ノールデン氏(ドイツ人医師、1858~1944)です。
今回はそのノールデン氏の本を翻訳しました(一部のみ)。
  

■インターネットのアーカイブはこちらからご覧になれます。("Obesity"=「肥満」p.693~)

■英文はこちらから(p.693~695)

■日本語訳はこちらから(p.693~695)


ウェキペディア(Wikipedia)によると、この本は論文等ではなく出版本(1907年)と考えられますが、その当時、ノールデン氏がどれほどの影響力をもっていたかというのは、1905年10月の New York Times の記事を見てもお分かり頂けると思います(この記事も私が独自に入手いたしました)。
ノールデン氏が、アメリカで6回の講演を行うという内容です。

  

この中で、ノールデン氏のことが書かれています ↓↓↓

(日本語訳)
ノールデン教授は、腎炎や肥満、その他の代謝障害による慢性疾患の研究者として最も著名な人物である。
彼は、この医学分野の多くの研究の著者(創始者)であり、世界の基準として認められている。

(日本語訳)
教授はCothamホテルに滞在し、多くの来訪者を受けている。彼のニューヨークでの知人は医療専門家だけではない。彼の個人病院では数多くの著名なニューヨーカーが治療を受けているためだ。彼がいつドイツに戻るのかは未定だが、おそらく帰国までの間に複数の主要な医療センターを訪問するであろう。(以上)

▽この著書のその後については、まだ調べているところですが、ノールデン氏が、肥満や糖尿病の権威であったからこそ、あっという間にカロリーの原則「入るカロリー、出るカロリー」が世界中に広まってしまった可能性はあります。
  

2017.03.27

カロリーと肥満の関係は熱力学で説明できるのか?

目次

  1. 「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則
  2. 人体は化学反応の塊である
  3. 食べたカロリー量と体に吸収された量は同じではない
    (1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?
    (2)エネルギー摂取量が増えるとき

   <まとめ>

まず、こちらの記事を先にお読みください。

 カロリーの歴史はやはり神話なのか?

1900年代初期にカール・フォン・ノールデン(ドイツ人の糖尿病専門家)が「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」と初めて主張されました。

つまりこの主張が現代まで脈々と続いて、多くの専門家は「カロリーの摂り過ぎや運動不足が太る原因である」と言う主張に強い確信をもつようになったようです[1]。今回は、その理論の根拠とされた「熱力学の法則」(エネルギー保存の法則)について説明したいと思います。

1.「入るカロリー / 出るカロリー」と熱力学の法則

「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)

熱力学には3つの法則があるが、専門家たちが「人はなぜ太るのか?」を決めているとするのは第一法則である。

この法則は『エネルギー保存の法則』としても知られ、「エネルギーはつくられることも壊されることもなく、単に1つの形から別の形へと変わる」ということを示しているだけである。

たとえば、ダイナマイトを1本爆発させると、化学的に結合したニトログリセリンの潜在エネルギーが熱と爆発の運動エネルギーへと変換される。
すべての質量はエネルギーからできているため、別のいい方をすれば、私たちはゼロから何かを、または何かからゼロをつくることはできない。

花火

これ(熱力学の第一法則)はとても単純なため、専門家たちがどのように法則を解釈するかが問題となる。

この法則は「何かが大きくなったり小さくなったりするには、より多くのエネルギー又はより少ないエネルギーが、そこから出るよりもそれに入らなければならない」としているのである。この法則はなぜそれが起きるのかについては何も示していないし、その原因と影響については何も言っていない。

(略)論理学者はこの法則には、原因についての情報が全く含まれていないと言うだろう。
      

▽ここで「人はなぜ太るのか」について話す代わりに「部屋がなぜこんでいるのか?」という話を考えてほしい。

ここまで私たちが論議してきたエネルギーは、脂肪組織だけではなく、人間のからだ全体に存在する。つまり10人の人間はそれ相当のエネルギーをもち、11人はより多くもち....という具合である。(略)

もしあなたが私に「部屋がなぜこんでいるのか?」という質問をしたとして、私が「そうだね、それは部屋を出た人よりも入った人のほうが多いからだよ」と答えたとすれば、おそらくあなたは私が賢いか、あるいはバカであると思うであろう。

あなたは「もちろん、それは明白だ。しかし、何故か?」と聞くであろう。

実際、「出るよりも入る人が多いから混んでいる」というのは、同じことを2つの違う言い方で表すことであり、意味がないのである。

▽さて、肥満に関する社会通念の論理を借りて、この点を明らかにしたい。

私が「あのね、出るよりも入る人が多い部屋は、混んでいるだろう。熱力学の法則を避ける方法はない」と言ったとする。するとあなたは、「それはそうだが、それがどうした?」と答えるか、私は少なくとも、あなたがそう言うことを期待する。なぜなら、私はまだ原因についての情報を与えていないからである。

「過食が私達の肥満の原因である」と結論づけるために熱力学を利用すると、このようなことが起きる。

eating snack

▽米国国立衛生研究所(NIH)は、インターネット上で「肥満は、人間が消費する以上のカロリーを食物から摂取すると起きる」といってい る。

NIHの専門家たちは実際のところ、起きる」という言葉を使うことにより、過食が肥満の原因であるとはいわず、単に必要条件であるといっているのである。

専門的にいうと彼らは正しいが、そのとき「わかったよ、だからどうした? 肥満が起きたとき、次に何が起きるかということは話してくれるけど、なぜ肥満が起きるかについては話してくれないんだね?」というかどうかは、私たち次第である。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス . 2013.「人はなぜ太るのか」.  Page 83-6.)

2.人体は化学反応の塊である

(「やせたければ脂肪を摂りなさい」ジョン・ブリファ著より引用)

第1法則は、「エネルギーはつくり出すことも消滅させることもできない」というものです。言い換えると、エネルギーをひとつの形態から別の形態に変換することはできても、宇宙のなかのエネルギーの総量は一定のままなのです。

この法則が体重管理にどう当てはまるのでしょう?
ある人の体重が長年安定しているとしましょう。第1法則によると理論上は、この人が食べ物のかたちで摂取するカロリーは、その人が代謝と活動で消費するカロリーと等しいことになります。つまり 「入るカロリー = 出るカロリー」です。


ところが、熱力学の第1法則は実は「閉鎖系」についての法則です。
この系は、周囲の環境と熱やエネルギーのやり取りはできても、物質のやり取りはできません。これは人間に当てはまるのでしょうか? 

化学反応

当てはまりません。
人間の体は実際、おもに食物や糞尿などの老廃物というかたちで、物質を周囲の環境とやり取りしています。

さらに厳密に言うと、第1法則は化学反応が起こらない系についての話です。しかし人体は基本的に化学反応の塊です。

したがって、やはり熱力学の第1法則は、体重管理に関することには当てはまりません。 (引用以上)
(ジョン・ブリファ. 2014.「やせたければ脂肪を摂りなさい」. Page 58-9.)

3.食べたカロリー量と、体に吸収された量は同じではない

2人の著者が熱力学と体重管理に関する素晴らしい指摘をしてくださいました。これらの考えを踏まえて、私も熱力学と私の理論の関係について2点言及したいと思います。


(1)何をもって「摂取カロリー」とするのか?

私も基本的に、ある人の体重が長年安定しているなら 『体に入るエネルギーと、体内で基礎代謝や活動に使われるエネルギー』は釣り合わないといけないと思っています。しかし問題はどの時点で私たちが「摂取」したと考えるかである。

食べる瞬間

私たちが食べ物を口に入れた時点でカロリーを計算し、それを『摂取カロリー』 と考えるなら、何割かの人にとって、それは消費されたエネルギーとは釣り合わなくても不思議でない。

なぜなら、ブリファ氏が指摘されたように、私たちの体は「閉鎖系」ではないからだ。

腸内細菌学者が「胃腸は体の外部」と考えるように、腸から実際に吸収されたエネルギーを摂取カロリーと考えるのであれば、より「閉鎖系」に近づくはずだ。

          

もちろん、1人1人の吸収効率の違いを計算するのは不可能であるため、現在のところ、私たちはアトウォーター係数を元に個別の食品のカロリー値を決め、それらを合計することによって一日の総摂取カロリーを決定するのだが、あくまでそれらは推定値か近似値である[2]ということを知っておくべきである。

実際に吸収される栄養やエネルギー量は、調理の仕方、食品の消化性(加工度)、食品の組合せ、運動の強度、空腹度合などによっても変化すると私は考えている。

ノールデン氏の主張「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」はある意味で正しいが、どの時点で「私達がエネルギーを摂取したのか」については曖昧であるのです。
   

(2)エネルギー摂取量が増えるとき

私の腸内飢餓メカニズムを元に説明すると、長年同じ体重を維持している人が、普段食べているカロリー摂取量(例えば、毎日約2,000kcal) や糖質の摂取量を大幅に減らしても、腸内飢餓を引き起こす「3要素+1」の基準を満たせば、体重がアップすることがある (これは絶対的な吸収率がアップし、設定体重が上昇したことを意味する)。

【関連記事】 

 偏食と不規則な生活が腸内飢餓をつくる(3要素+1)


もちろん太るのは、その後に元の食事に戻したときであるが、この場合、吸収率そのものが以前よりアップしているので、体重の増加には体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も含まれる。つまり、食べる量や摂取カロリーは以前と同じであっても、以前よりも多くのエネルギーや栄養素を体内に取り込んでいるので、体が大きくなったといえるだろう。

トーベス氏の言葉を借りれば、「10人で混んでいた部屋が11人になった」と言えるが、この場合、それを引き起こした原因は腸内飢餓であると言える。

まとめ

(1)専門家たちが、「消費するより多くのカロリーを摂取するから太る」と考える根拠は『エネルギー保存の法則』(熱力学の第一法則)である。

  
(2)人の体は化学反応の塊で、「閉鎖系」ではないため、実際に食べた(口に入れた)カロリー合計と消費カロリーを比較することは意味がない。この場合、「熱力学の法則」は成り立たない。

  
(3) 実際に腸で吸収されたカロリーをベースに考えると、より「閉鎖系」に近づき、代謝や活動によって消費されたカロリーと釣り合うはずである。

  
(4) 腸内飢餓が引き起こされれば、以前と同じ量を食べていたとしても、設定体重そのものの上昇を示唆する体重増加が発生することがある。
この場合、吸収率そのものがアップし、体により多くのエネルギーや栄養素が取り込まれることを意味するので、体重の増加は体脂肪だけでなく、徐脂肪組織の増加も関係する。

<参考文献>

[1]Gary Taubes. 2010. 「人はなぜ太るのか」. メディカルトリビューン. Page 82. 

[2]Rob Dunn. 2013.「科学が明らかにしたカロリー計算の誤り」. Scientific American.

2017.03.07

カロリー意味あるの?カロリーの歴史はやはり神話なのか?

目次

  1. 「入るカロリー / 出るカロリー」説の誕生
  2. 今もなお、増え続ける肥満
  3. ノールデン氏の書物

私はリサーチのプロにお願いし、国立国会図書館で『カロリーの摂取量が消費量よりも多いから太る』というような関連の論文を1900年前後から探してもらいましたが、今回は探すことはできませんでした。(このブログの最後に若干の成果を報告します。)
やはり頼りになるのは、この本(「人はなぜ太るのか」)しかありません。ほとんどが引用になるのですが、ご了承ください。

1.「入るカロリー/出るカロリー」説の誕生

(「人はなぜ太るのか?」ゲーリー・トーベス著より引用)

1900年代初期にドイツ人の糖尿病専門家 カール・フォン・ノールデン(carl von Noorden)「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから肥満になる」と初めて主張して以来、専門家もそうでない人も、ともかく熱力学の法則(エネルギー保存の法則)により、これが真実だと決められていると主張してきた。

そうでないと主張すること、つまり私たちが過食と座りがちな行動と対をなす「罪」以外の原因によって肥満になるかも知れないこと、あるいは意識的に食べる量を減らさなくても、あるいは運動を増やさなくても脂肪が減るかもしれないことは、コロンビア大学の医師ジョン・タガートが1950年の肥満に関する会議の挨拶で「感情的で無根拠」と断言したように、いつも「インチキ」として扱われてきた。彼は「私達は、熱力学の第一法則 の妥当性に絶対的な確信をもっている」と付け加えた。

宇宙

そのような確信は誤りではない。しかし、それは肥満になることについて「熱力学の法則」が他の物理学の法則以上に物語ることを意味するのではない。

ニュートンの運動の法則、アインシュタインの相対性理論、量子論などが宇宙の特性を示すものであることはもはや疑問の余地はない。しかし、熱力学の法則は 「なぜ人は太るのか?」 については説明していない。

このたった1つの単純な事実(熱力学の法則)を専門家達が理解できなかったために、驚くほど間違った助言がなされ肥満問題の拡大につながった。

熱力学の法則が肥満の説明になっているという誤った解釈がなかったら、「消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太るのである」という見解そのものが存在しなかったであろう。
(ゲーリ-・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. メディカルトリビューン. Page 82-3.)

(~略~)"1934年、ヒルデ・ブルッフ(Hilde Bruch)というドイツの小児科医が米国(ニューヨーク)に移住した。彼女はそこでの肥満の子供の数に驚嘆したという。診療所だけでなく、街頭、地下鉄、そして学校に肥満の子供があふれていた。それは、マクドナルドの1号店の生まれる20年も前のことであり、さらに付け加えると、その年は大恐慌の真っ只中である。

ブルッフは肥満の子供の治療のために尽力した。多くの肥満の子供たちは、医師から指示される通り、食べる量を減らし体重をコントロールすることに多大な労力を費やしたにもかかわらず、結局は太ったままであったという。

医者

ブルッフの時代の医師も今日の医師たちも考えが足りないわけではない。彼らは単に、私達が太る理由は明白で議論の余地のないとする『欠陥のある信念体系(パラダイム)』を持っているだけである。

太る理由は、食べ過ぎているか運動が少なすぎるか、その両方であり、したがってそのをすることが治療になると医師たちは言う。(~略~)

▽世界保健機関 (WHO) は「肥満と過体重の根本的な原因は摂取したカロリーと消費したカロリーのエネルギー的不均衡である」といっている。

消費する以上のエネルギーを摂取すれば (科学用語ではプラスのエネルギーバランス)太り、摂取する以上に消費すれば (マイナスのエネルギーバランス)やせる。

食物はエネルギーであり、私たちはそれを「カロリー」として測定する。したがって「消費する以上のカロリーを摂れば太り、消費するよりも少なく摂ればやせる」のである。

運動

体重に関するこの考え方は非常に説得力があり広く普及しているため、 現在それを信じないというのは、ほとんど不可能である。たとえ私達がそれに反する証拠 (日常生活でいくら意識的に食べる量を減らし、 運動量を増やしても成功しない)をたくさん持っていたとしても、「私たちが摂取・消費するカロリーによって肥満が決まる」 という概念よりも、自分たちの判断と意志の力のほうを疑うだろう。"
(「人はなぜ太るのか」, Page 10-14.)

2.今もなお、増え続ける肥満

肥満女性
(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)

"肥満の流行を考えてみよう。
50年前、表向きは米国人の8~9人に一人が肥満と考えられていたが、今日では3人に1人が肥満であり、過体重まで含めると3人に2人となる。

この数十年間の肥満の蔓延において「入るカロリー/ 出るカロリー」のエネルギーバランスの概念が幅をきかせたため、公衆衛生を担当する役人たちは、その原因を、私達が彼らの指示(運動をすること、食事を減らすこと)を守らないからだと思い込んでいる。

1998年マルコム・グラッドウェル (ジャーナリスト)は、雑誌 「The New Yorker」でこの矛盾をついた。

彼は「私達は摂取するカロリーを減らし、運動をしなければ体重が減らないことを教えられてきた」と書いた。さらに、「実際にこの勧告についていける人がほとんどいないということは、私達の力不足、あるいは勧告に欠陥があるからである。医学の通説は自然と前者の立場を、ダイエット本は後者の立場をとる傾向にある。医学の通説が過去にどれほどの間違いを犯したかを考えると、それは不合理ではない。彼らの勧告が正しいかどうかを検証する価値はある」 と述べている。"
(「人はなぜ太るのか」, Page 14-5.)

(ゲーリー・トーベス氏)
"肥満は、エネルギーバランス、あるいは「入るカロリー/ 出るカロリー」または過食による異常、熱力学とは何の関係もない。もし私達がこれを理解できなければ、「なぜ太るのか?」という問題に対し、これまでの慣習的な考え方へと後退し続けてしまう。それがまさに1世紀にわたって続く泥沼である。"(引用以上)
(「人はなぜ太るのか」, Page 83.)
    

3.ノールデン氏の書物

テレビ番組ではあいかわらず、医師や栄養士が「消費された以上に食べれば太るのは小学生でも分かることです・・」「太る原因は食べ過ぎか、運動不足です・・・」と自信満々に言っているのを見ると、私は本当に嫌な気持ちになるんです。
しかしそれって、凄く薄っぺらで、いかに根拠のない事柄であるかがお分かり頂けたかと思います。

以下の記事で「熱力学の法則」についてより詳しく説明します。

【関連記事】→『肥満とカロリーの関係は熱力学で説明できるのか』

また冒頭で、若干の成果といいましたが、カール・フォン・ノールデン氏の書(論文?)を入手することができました。これも翻訳して、皆さんに紹介いたします。
      

ノールデンの書
ノールデン書(メタボリズム)

「代謝と実践医学」(Chapter Ⅲ、”Obesity(肥満)” )

2015.06.27

摂取カロリーを単純合計することに意味はない

目次

  1. アトウォーター係数は平均値に基づく
  2. 消化吸収率は皆が同じではない
  3. 肥満は体重の「設定値」理論で説明できる
    <まとめ>

その日の摂取カロリーを正確に計算し、ダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない、という話をしたいと思います。私達が摂取カロリーを計算する時に使う食品のカロリー値にはアトウォーターのエネルギー換算係数(炭水化物、タンパク質4kcal/gなどの係数)が使われていますが、その正確さについてはいろんな問題が指摘されています。
【関連記事】カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由


私はその中でも、消化率や吸収率が平均的な数値に基づいていることが問題であると思っており、その問題点について説明します。(今回は吸収されるまでの過程であり、吸収された後の代謝過程やホルモン分泌の違いなどについては言及しません。)

1. アトウォーター係数は平均値に基づく

一日の摂取カロリー

「あなたの体が必要とするカロリーより多く摂取すれば太り、摂取するカロリーより多くのカロリーを燃やせば痩せる」(注1)と言われています。

この理論は、非常に単純であり、ある意味で核心をついているとも言えますが、「体が必要とするカロリー」「摂取するカロリー」という表現が曖昧なため危険です。

体が実際に消費するカロリーは基礎代謝でさえ変化していると言われるし[1]、体が実際に吸収しているカロリーも常に変化するので(私の考え)、単純に食品のカロリー値を合計して比較しても、正確な数値を導き出すのは難しいと考えます。


アトウォーター係数は、単にその食品のもつ吸収可能な平均エネルギー値を示すものですが、何時に食べるか、何時間おきに食事を摂るか、どの食品をどの様に組み合わせるかによって、吸収率がどの様に変化するかについては調査されていないようです。

また、この係数は被験者の平均値なので、すべての人の消化吸収率を同じとして考えているのです[2]

(注1)1878年、ドイツの栄養学者マックス・ルブナーは「等力価法則」と呼ばれる法則を作り上げ、栄養の基本はエネルギーの等価交換であると主張し、1900年代初頭にドイツの内科医、カール・フォン・ノールデンによって肥満の研究に応用されました。

([A calorie is a calorie] From Wikipedia)

2.消化吸収率は皆が同じではない

私はすごく痩せていたので、消化力が弱く、常に消化吸収の問題を抱えていました。まるで自分が実験台のようでした。脂っこい食事や繊維質の多い食事を食べ過ぎると胃がもたれ、7-8時間たっても空腹にならず、その状態で無理して食べると、さらに痩せました。

アトウォーター係数では、脂質は物理的燃焼度が1グラムあたり9.4 kcalで消化吸収率が95%で設定されているので、9kcalの熱量と言われるのですが[3]、私を含め消化に手こずる人にとっては、その数値は意味がありません。
以下で、私の経験に基づき、一個人において吸収率がどの様に変化するかについて説明します。

(1)吸収率は一定ではなく、空腹や運動で高まる

痩せたいと思う人が、カロリー摂取量を減らし自身を半飢餓状態にすると基礎代謝量も低下するということも実験で証明されていますが[1]、私は吸収率も同じではないと考えます。

吸収率は、空腹が長時間にわたり続く時や運動後に高まります。これはエネルギー源だけでなくカルシウムや微量元素含めすべての栄養素についても言えるでしょう。

腹ペコ時又は疲れている時にお酒を飲むと悪酔いしたり、またラーメン・スイーツなどを食べると血糖値が急激に上がることがありますが、それは体が栄養を必死に摂ろうとしているからです。

血糖値上昇

もう少し具体的に言うと、700 kcalの昼食を400 kcalにして夕食まで我慢したとしても、お腹の中には朝食もまだ残っており、そこから栄養を摂ろうと体は必死に頑張っているはずです。体に蓄えられている栄養を使う場合でさえ、先に使われるエネルギー源があるので、すべてが体脂肪の減少につながる訳ではありません。また、空腹が数時間続けば夕食を摂ったときの吸収率も高まると考えるので、減らした300 kcalを毎日、例えば2週間、合計しても計算通りに体脂肪は減らないでしょう。(また体重減少に伴い基礎代謝も落ちるので、予想よりも少ない体重減少で体は均衡状態になると言われる。)


それとは逆に、空腹でもないのに3~4時間おきに無理して食べ続けると吸収力は相対的に低下します。3~4時間かけて消化され胃袋をやっと出て、『これからさらに吸収するぞ・・・』という時に、また胃に別の食べ物が運ばれてくるわけだから、体は『また、食べ物が入ってきたぞ。あれから栄養を摂ればいいや・・・』という風になるわけです。

先ほどの血糖値の例で言うと、食事の2時間前にアイスクリームを食べておけば、食事での血糖値の上昇は緩やかになるはずです。

プロテインと女性

バーベルを使用した激しい運動をする人が、食事の合間にプロテインや牛乳を飲むことは必要かもしれませんが、軽い運動をする一般の人がこのような食べ方をすると、吸収率が低下し、消化のためのエネルギー(食事誘発性熱産生)は増加するのでダイエットに効果がある場合があります。

(2)食品の組合せによって吸収率が変化する

食事中の食品をどの様に組み合わせるかによっても、空腹感や吸収率に違いがでてくるのです。

一例として400 kcalの朝食(トースト、ハム、目玉焼き)について考えてみましょう。たとえカロリーが増えたとしても、朝食にゴボウサラダ、チーズ、豆、キノコソテーなどを加えれば、昼食時の空腹感は和らぎ、昼食時の血糖値の上昇も抑えることができるはずです。(NHK「ガッテン流、脱糖尿病の新ワザ」2011年)

繊維たっぷり料理

繊維質を多く含む食品や、消化に時間のかかる食品を常に食べることで、体の中では未消化物がたっぷりある状態が続き、その結果、空腹感が抑えられ吸収率が低下することが一部の理由と考えます。繊維質そのものが吸収を若干抑えるという可能性もあります。

ですから、たとえ摂取カロリーが増えたとしても、このような食べ物を毎日の3回の食事に加えることは、ダイエットに効果がありえます。


逆に摂取カロリーを減らしたとしても、繊維の乏しく加工度の高い食品ばかりを食べていると、すばやく消化されるために体は労力を使わずに多くのカロリーを得ます[2]。常に空腹感を感じるため吸収率は上がり、血糖値のアップダウンを繰り返すことも考えれます。

(3)脂質が常に太るわけではない

エネルギー源となる、炭水化物、タンパク質、脂質の組合せでも違いがでます。

カロリーの理論に基づくと、脂質は1グラムあたり9kcalなので「沢山食べれば太る」というふうに、私達は、栄養士や医師、テレビなどを通して教えられています。

三大栄養素

しかし、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、タンパク質や脂質を食べたいだけ増やす食事は、一日の摂取カロリーが増えたとしても被験者に体重が減少したという研究結果が1970年代まで繰り返し報告されています[4]

2008年にイスラエルで行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)でも、「地中海食ダイエット」、「アトキンス・ダ イエット」(低炭水化物)は、「低脂質ダイエット」に比べ体脂肪減少に大きな効果があることが確認されています[5]

もちろん、タンパク質の消化に使われるエネルギー(食事誘発性熱産生)が高いことや、刺激されるホルモンに違いが出ることが知られていますが、私が付け加えたいのは吸収率です。

上記(2)と同じ理由で、消化の良い精製された炭水化物を減らし、消化のよくない脂質や肉類(特に加工されないブロック)などを相対的に多くした食事は、未消化物質が長時間に渡り腸内に残るので、空腹感を抑え、吸収率を低下させダイエットに効果があるでしょう。脂質を毎食あるいは、間食にも取り入れることでより多くの効果を得ることができるはずである

もちろん脂質、タンパク質を早く消化できてしまう人や民族はこの効果が薄い可能性があるのですが、私を含め脂質をすばやく消化できない人にとっては、脂質を多く摂取することは太る原因とはならないでしょう。

これはアメリカにおいて、1976~1996年にかけて低脂質ダイエット(高炭水化物)を推進した結果、BMI 30以上の人が1977年から劇的に増加したとするデータ[6]とも関係するのではないかと思っています 。

【関連記事】脂質における3つの視点

    

3. 肥満は、体重の「設定値」理論で説明できる

体重増加の2パターン

上記「2」の説明は一個人における吸収率の変化ですが、私がこのブログを通して言うように、根本的な太り過ぎと痩せの違いは、設定体重(set-point weight)の値の違いであると思っています。

カロリーの摂取量や運動によって、多少太ったり又は痩せたりするのは、設定体重の範囲内(図のA)ですが、設定体重そのものがアップするのは腸の飢餓メカニズムなので、摂取するカロリー量とは直接関係ありません。

そして私の理論上、この設定体重が高いことは、平均的な体重の人に比べて「吸収効率が高い」ことと関連しており、すべての吸収される栄養が増加すると考えるので、体重の増加は体脂肪だけでなく、筋肉量の増加なども含みます。

今の時点では、アトウォーター係数の矛盾を指摘して、設定体重がどう変化するかを説明をすることはできないのですが、必ず腸の飢餓状態で人が太ることを証明したいと思っています。

まとめ

(1) 大量調理(給食や老人ホーム)などの場合に、平均的な目安として一日の摂取カロリーを計算することに意味があるが、それをダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない。過体重・肥満という概念においては別の問題が多くある。

(2) アトウォーター係数では消化吸収率は被験者の平均値だが、人の消化吸収の過程は複雑であり平均値では語れない

(3) 空腹感や運動によって吸収率は変化すると私は考える。食事の時刻や間隔、どの食品をどの様に組み合わせるかも結果に影響する。

(4) 肥満の根本的な原因は、体重の「設定値」が高いことが原因であり、摂取カロリーを減らすことで一時的な減量にはなっても、長い目では効果が薄い。
      

<参考文献>

[1] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. サンマーク出版. 2019. Page 67.

[2] Rob Dunn. 「カロリー計算が間違っている理由を科学が明らかに」. 2013.

[3] Japan Food Research Laboratories. 「食品の熱量について」. 2003 Jul. 

[4] ゲーリー・トーベス. 「人はなぜ太るのか」. 2013. メディカルトリビューン. Pages 164-175.

[5] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 177-179.

[6] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 54-55.

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