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遺伝子 Vs 生活環境
2024.10.04
重要性を増す体重の「設定値」理論:環境と行動要因とは何か?
目次
- 「設定値」理論への理解の進展
- 設定値モデルにおける問題点
- 体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
- なぜ腸内飢餓で設定体重がアップするのか?
これまでのブログ記事で説明してきた通り、私は人にはそれぞれ個別の体重の「設定値」があり、それがどの様に上昇するのかを理解することが、肥満問題の解決の糸口だと思っています。
今回は、近年の体重「設定値」理論に関する研究の進展と、設定値に影響を及ぼす環境的、行動的要因ついて私の意見を述べたいと思います。
1.「設定値」理論への理解の進展
<肥満と減量の試み>
♦太っている人が、「痩せている友人の方が太っている人よりも常に多く食べている」と主張するのは、真実かもしれないということである。(略)
肥満患者の中で私たちの理解を大いに必要としているのは、1日1,000kcal 程度のカロリー摂取を守っているにもかかわらず、減量が1週間に1kgにも満たない人たちである。このような人々が存在することは疑いなく、メタボリック病棟で、「ごまかし」が事実上不可能な条件下で、気付かれずに研究することができる。通常、このような人は、おそらく40kg太っていて、すでに20kgほど減量している中年女性である。彼らはしばしば抑うつ状態で、低体温であり、代謝率が低い。低カロリー食に対するこの代謝適応の性質はわかっていない(1973年当時)が、1920年以前から知られている現象である。(J S Garrow, 1973) [1]
♦肥満者にとって、さまざまな治療法で一定の減量は可能ですが、減量した体重を長期的に維持することははるかに困難であり、ほとんどのケースで体重が元に戻ってしまうと言われる[2]。29の長期減量研究のメタ分析では、減量した体重の半分以上が2年以内に元に戻り、5年後には減量した体重の80%以上が元に戻りました[3,4]。
さらに、持続的な減量に成功した人の研究では、体脂肪を減らした状態を維持するには、おそらく生涯にわたってエネルギーの摂取と消費に細心の注意を払う必要があることが示されています[5]。
<肥満者の代謝値>
♦1930年までに、体表面積のより正確な計算により、肥満者の代謝率が正常であることが示され、代謝低下説は好まれなくなった[6]。
♦1日のエネルギー消費(TEE)には、食物の熱効果(DIT)、身体活動消費(PAEE)、安静時エネルギー消費(REE)の3つの要素があるが、平均体重100kgと70kgの男性のエネルギー消費を比較したモデルケースについて見ると、100kgの男性の方が一日のエネルギー消費量 (TEE) は高くなる[7]。
一般に信じられていることとは逆に、肥満の人は一般的に、痩せた被験者と比較して絶対的な安静時エネルギー消費(REE)が高いです。それは、肥満では体脂肪とともに代謝が活発な除脂肪質量が増加するためです[7,8]。
身体活動消費(PAEE)は、「自発的な運動」と「日常生活の活動」に分けられる。PAEEは体重に比例するため、肥満の人は一般的に身体活動が少ないにもかかわらず、身体活動にかかる毎日のエネルギーコストは肥満でない人と同程度であることが多い[7,9]。また、肥満の人は食物摂取量が多くなる傾向があり、食べ物の熱効果(DIT)も高くなります[7]。
<エネルギー消費の動的変化>
♦肥満の予防は、摂取カロリーと消費カロリーのバランスを取らなければならないという単純な帳簿管理の問題であると誤って説明されることが多い[10]。
このモデルでは、エネルギーの摂取量と消費量は行動によってのみ決まる独立したパラメータと考えられており、肥満者は単に、食べる量を減らして運動量を増やすだけで、累積食事カロリーの不足 7,200kcalごとに1kg(3500 kcal ごとに1 ポンド)の割合で着実に体重を減らすことができると考えられている[7,11]。これは減量の静的モデル(static model)と呼ばれるが、生理学的に不可能であることが分かっています[7,12]。
(3500 kcalルールは、単純すぎると認識されているにもかかわらず、科学文献に登場し続けており、2013年時点で 35,000 を超える減量教育ウェブサイトで引用されています。)[12,13]
♦現在では、エネルギー摂取量と消費量は相互に依存する変数であり、お互いに、また増減する体重によって恒常性シグナルの影響を受けることがわかっています[7,14]。
食事や運動によってエネルギーバランスを変えようとする試みは、体重減少に抵抗する生理学的適応によって阻止されるのです[7]。
<体重の設定値理論>
♦近年では、恒常性制御の影響が認識され、体はエネルギーバランスを操作する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持するという証拠が増えつつある[12]。
1953年、ケネディーは体脂肪の蓄積が規制されることを提案しました[15]。1982 年、栄養学者のウィリアム ベネットとジョエル グリンは、ケネディの概念を拡張して設定値理論を開発しました[16]。このモデルは広く採用され、1990年代のレプチンの発見以降強化された[7,12]。
個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を減らし、ホルモンの調節を通じて食欲の増加を引き起こし、行動の変化を通じて食べ物の好みを変え、体重を設定値の範囲に戻します[7,16]。
♦減量研究では、体内の脂肪蓄積量は中枢神経系を介したメカニズムによって保護されており、脂肪組織、消化管、内分泌組織からの信号を介してエネルギー摂取量(EI)と消費量(EE)を調整し、恒常性を維持し、体重の変化に抵抗することが示されています(設定値モデル)[12,17]。
♦エネルギー危機の際にエネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムは、適応性熱産生 (AT)または代謝適応 として知られています[7,12]。
ATは、体組成の変化とは無関係に、摂食不足に関連する安静時エネルギー消費量(REE)の低下として定義されます[12]。
♦痩せ型または肥満型の個人が体重を 10% 以上減らし続けると、24 時間エネルギー消費量が約 20%~25% 減少します。この体重維持カロリーの減少は、脂肪と除脂肪量の変化のみに基づいて予測される量より 10~15% 低い値です[17,18]。
肥満の個人も、食事療法による減食に対するしてこのような代償的な代謝的調整を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられる可能性があります。肥満動物の実験研究でも同様に、肥満を、高い設定値での体内エネルギー調節の状態と見なす見方を示唆しています[19]。
♦体重を減らした元肥満の被験者と、BMI が一致する肥満ではなかった被験者を比較して 適応性熱産生(AT) を調査した横断研究のメタ分析では、肥満経験のある被験者は肥満経験のない対照群と比較して安静時エネルギー消費量(REE)が3~5%低いことが報告されている[20]。
つまり、肥満の女性が 100kg から 70kg に体重を落とした場合、体重がずっと一定だった 70kgの女性よりも、70kgを維持するために必要なエネルギーが少なくて済むことを意味する[6]。肥満のラットと正常体重のラットによる動物実験においても同様の結果が示されている。
このことから、肥満の人が、「痩せた仲間と同じかそれ以下しか食べていないのに体重は減らない」という頻繁な主張には、通常認められている以上の信憑性が与えられるべきです[19]。
♦一方、1960年代にバーモント州でイーサン・シムズ教授が囚人に対して行った過食実験で示されたように、一時的な過食による体重増加も、体重を設定値の範囲に戻すような代償機構を誘発します。
しかし、一部の研究者はこれらは体重減少を保護する機構よりも弱い可能性があると指摘する。この非対称性は、長期間の飢えなどのカロリー制限期間中に生き残るために脂肪を蓄えるという進化上の利点によるものである可能性があります[16,17]。
♦また、実験的な半飢餓および短期的な摂食不足の後に過食症が実証されており、これはおそらく体脂肪と除脂肪組織の両方の喪失から生じる恒常性シグナルの結果です[7,21]。
♦この理論はまた、人の体重設定値は人生の早い段階で確立され、特定の条件によって変更されない限り比較的安定したままであることを示唆しています。ただし、結婚、出産、閉経、加齢、病気などの要因により、生涯を通じて設定値が変化する可能性があります[16]。
その一方、設定点理論は、設定点制御に関与するすべての分子メカニズムが解明されていないため、理論のままであり、一部の研究者はこの理論が単純すぎると考える可能性があります[16]。
2.設定値モデルにおける問題点
しかし、設定値モデルには問題があると指摘する研究者もおられます。
体脂肪を制御するそのような強力な生物学的フィードバックシステムが存在するのであれば、なぜ西洋諸国の多くの人が人生の大半で体重が増えるのか?特に、このモデルでは、1970年頃から世界の多くの社会で観察された肥満の増加傾向を説明できないことだという[22]。
これに対し一部の研究者は、減量の持続に対する代謝的抵抗は強力である一方、持続的な脂肪増加に対する抵抗は生理的に長続きしない可能性があると指摘する。肥満の有病率が着実に増えていることからも、体が太ることの方が痩せることよりも促進されることが示唆されている[17,23]。
マウスにおける動物実験では、高脂肪食を与える食事で最初の3~4週間はエネルギー消費量の増大と交感神経系緊張(SNS)の増加を示す一方、高脂肪食を数カ月摂取すると、これらの変化はもはや明らかではなくなるという[17,24]。
また別のマウスによる動物実験では、ポテトチップス、チーズクラッカーなどの嗜好品を主とする高エネルギー食の長期摂取によって、設定値の上昇を示唆する、不可逆的な体重増加が生じたとの報告もある[19,25]。
脂肪細胞数の増加がその原因と考えられている[19,26]。
▽これらの説明は初めは、理にかなっているようにも聞こえるが、私の意見としては、これだともはや「設定値」ではないし、なぜ体がより高い設定体重でも頑なに減量の維持に代謝的な抵抗を示すのかは説明できないと考える。
また人間に置き換えた場合、高カロリーな食品を頻繁に食べている人が肥満になっている訳ではない。
以下のような矛盾が浮上する。
(1) なぜ肥満が西洋社会の低所得層で頻繁に発生する傾向があるのか[22,27]、また発展途上社会の比較的裕福な層で頻繁に発生するのか?[28]
(2) 1950年代から世界で確認される、貧しい集団における低栄養と肥満の混在[29]。
(3)なぜ大学入学後、結婚後、出産後、アジアから欧米に移住した後、などの環境変化で体重が増える人がいるのか[22]?
私は、繰り返し言うように、体重の設定値がアップするのは腸内飢餓が原因だと考えており、これらの矛盾もすべて説明できると思っている。以下のセクションで、それをより具体的に説明したいと思います。
3.体重の設定値に影響を及ぼす環境・行動要因
2012 年、米国臨床内分泌学会(AACE) は肥満を慢性疾患として指定しました。他の慢性疾患と同様に、肥満の病態生理は複雑で、遺伝子、生物学的要因、環境、行動の相互作用が関係していることが、その根拠の1つとされています[30]。
体重の設定値理論に興味を示す一部の研究者は、慢性疾患としての肥満が治癒可能かどうかは、遺伝子と環境要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が調整されるのかを理解することが必須であると指摘する一方で、多くの重要な環境的・社会的影響を説明するのに苦労しています[22]。
■私も、①遺伝的、生物学的要因と、②環境・行動要因の相互作用によって、体重の設定値が変化すると考えていますが、今回は主に②について説明します。
1970年代からの生活環境の変化を考える時、ほとんどの研究者は、社会が豊かになった結果、高カロリーな食品が増え、体を動かす機会が減ったことが肥満の蔓延を助長したと非難します。つまり、彼らは太るためにはプラスのエネルギーバランスが必要だと考えるからです。
しかし逆説的に、肥満の増加は減量の試み(ダイエット)の増加と一致しているという事実[31]は、私たちのエネルギーバランスに対する考えが間違っていることを示唆します[12]。
過食実験でも示唆されたように、「一時的な過食による体重の増加」と、「長期的に起こる不可逆的な体重の増加」は異なります。慢性疾患としての肥満は、むしろ飢餓・ダイエット後に体重がより増加する事例のように、マイナスのエネルギーバランスや「食べ物が不足している」という体のシグナルから生じると私は考えるのです。
【関連記事】
過食実験は、「過食」が肥満の原因でないことを示唆する
1970年代から、生活環境の変化に伴って私達の体に影響を及ぼしているにもかかわらず、まだ認識されていないのは、何度も言うように「腸内飢餓」です。
腸内飢餓は「腸全体(又は小腸)で、食べた物がすべて消化された状態」を言い、現代の豊かな先進国、発展途上国、あるいは貧困層でも起こりうるのです。繊維質がほとんど無く、すべての物質が消化された時に、私たちの体が「食べ物がない」と認識するのです。
おそらく、1970年以前の世界の多くの地域では、次の食事まで丸一日食べれなかったとしても、腸の中には繊維や固い細胞壁などの未消化の物質が残ったに違いありませんが、現代のような消化の良い、精製炭水化物、[超]加工食品、ファーストフードが多くあふれる社会では、食べ方によっては、8~10時間程度でも腸内飢餓は起こりうるのです。
【関連記事】
なぜ現代人のほうが飢餓状態であると体は認識するのか?
腸内飢餓は、消化の良い精製炭水化物(パン、麺類、米など)、工業的に食べやすく加工された肉・魚製品、ファーストフード、スナック菓子などの頻繁な摂取と、野菜などの不足、そして空腹を長時間我慢している状況下(朝食抜き、夜遅くの食事、不規則な食習慣)で引き起こされやすくなります。
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偏食と不規則な生活が腸内飢餓をつくる(3要素+1)
■上述2節のラットの動物実験では、90日にわたる「高エネルギー食」の摂取が、設定値の上昇を示唆する不可逆的な体重増加をもたらしたとありますが、この実験(Rolls他、1980年)での『太らせる餌』はスーパーマーケットで売られる嗜好性の強いポテトチップス、チーズクラッカー、クッキーなどが主であり、エネルギーベースで、いわゆる工業的に加工精製された炭水化物を47.5%(脂肪:42%、蛋白質:10.5%)含んでいます[25]。しかもラットは空腹にならないと食べないし、同じものばかり食べ続けることができる。
それに対し、対照ラットに与えられたのは固形飼料ですが、それは挽き割の小麦・大豆・トウモロコシや魚粉などから作られた可能性があります。つまり、50年以上前の私達の食事と同様に、繊維や植物の固い細胞壁などの消化されにくい成分が多く含まれていたと考えることもできます。よって、嗜好性の強い「高エネルギー食」が不可逆的な体重の増加をもたらしたとする結論には、私は疑問を投げかけます。
4.なぜ腸内飢餓で設定体重がアップするのか?
以下で、腸内飢餓の誘発により体重の設定値がアップするメカニズムを説明します。
一部想像も含みますが、私に何度か起こった事実を元にしており、信じてもらえないかも知れませんが、少なくとも私においては100%正しいです。
■いま仮に長年に渡って70kgの体重を維持している人がいるとしましょう。忙しい時や、食べ過ぎた時などに多少の体重の変動があるとしても、その男性の体重は70kgを中心として動いており、設定体重は70kgとします。
腸内飢餓が引き起こされると、腸(又は小腸)をインターフェイス(接点)として、脳に「食べ物がない」というシグナルが伝達されます。
すると、体はより多くの栄養を吸収しようとし、小腸の絨毛(ジュウモウ)又は微絨毛に付着する微細な物質が剥がれ(図1)、それによって、吸収する面積が広がり絶対的な吸収率がアップします。
つまり、体重の増加には、少なくともある程度までは、体脂肪だけでなく、筋肉など徐脂肪組織の増加も伴うと考えています。
(通常は未消化な繊維質や脂質などが多少残るかも知れませんが、完璧にすべての食べ物が消化された状態では、短期間に激太りする可能性があります。)
その結果、体重の釣り合うポイント(設定値)はわずか3~4日でアップし平衡状態に達すると考えます(図2)。
体重の増加は「過剰なカロリーが毎日少しづつ蓄積されることによって起こる」のではなく、300gかもしれないし、500gかも知れませんが、ある時一機に上昇します。
ダイエットなどをしていると、知らないうちに設定値はアップし、ダイエット終了後に以前より数キロ体重が増加してしまう場合が想定されます。
一度、体重のバランスポイントがアップすると痩せにくいのは、絶対的な吸収率がアップしている為であり、「1」の引用でも示したとおり、肥満は「高い設定値での体内エネルギー調節の状態」であり、肥満者にとっては「自然な生理学的状態である」という考えには、私も同感です。
より詳しくは、以下の記事をご覧ください。
【関連記事】 腸の飢餓でなぜ太るのか?
<私の理論の証明方法>
1年に3kg程度の最高体重更新の場合は、その原因が何であったのかを確かめるのは困難かも知れませんが、私が提供する食事メニューによって、カロリーや炭水化物の摂取量を減らしたとしても、数カ月以内に大幅に(5kg~10kg程度)人を太らせる(最高体重を更新)ことができると考えています。その前後のデータを観測することで、体の内部で何が起こったのかを調べることができるはずです。
<参考文献>
[1]Garrow JS. 「食事と肥満」. Proc R Soc Med. 1973 Jul;66(7):642-4. PMID: 4741395; PMCID: PMC1645095.
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[3] Hall KD, Kahan S. 「減量した体重の維持と肥満の長期管理」. Med Clin North Am. 2018 Jan;102(1):183-197.
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[29] Gary Taubes. Why We Get Fat. New York: Anchor Books, 2011, Pages 31-40.
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2021.09.30
貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない
目次
- 栄養不良と肥満の事例
- 私達はどうすればいいのか?
- 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる
大部分は本からの引用になりますが、最後に私の経験との関連について述べます。
【関連記事】→ 豊かだから太るのか、貧困が太るのか?
1. 栄養不良と肥満の事例
(「人はなぜ太るのか?」より引用)
同じ集団に存在する肥満と栄養不良、または低栄養(カロリー不足)の組み合わせは、今日の専門家たちが何か新しい現象であるかのように語るも のであるが、実はそうではない。80年前にはすでに1つの集団に栄養不足(低栄養)が肥満と共存している状態があったのである。
(ゲーリ・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 32)
(1930年代:ニューヨーク,マンハッタン)
1934年、ヒルデ・ブルッフという若いドイツ人の小児科医が米国、ニューヨークに移住した。彼女はそこで肥満の子供の数に驚愕し、後に「肥満の子供たちが、診療所だけではなく、街頭、地下鉄、そして学校にあふれていた」と記している。
しかし、これは1930年代中頃のニューヨークでのこと。
今日私たち がファストフードと考えているケンタッキーマクドナルドの1号店が生まれる20年も前のことであり、 スーパーサイズ や高果糖のコーンシロップが登場する半世紀前だった。
さらに重要なことは、1934年は大恐慌のどん底であり、炊き出し、パンの 配給、そして空前の失業の時代であったことである。
米国の労働人口の4人に1人が失業者で、米国人の10人に6人が貧困状態にあった。ブルッフや仲間の移住者たちが、地域の子供たちの肥満の多さに驚かされたニューヨークでは、子どもの4人に1人が栄養不良といわれていた。こんなことがありうるだろうか?
ブルッフによれば、これらの子供たちが食べる量を減らして体重をコ ントロールしたり、少なくとも今までより食べる量を減らすことを考えながら人生を過ごしたにもかかわらず、結局、太ったままであったということはまぎれもない事実だった。(Pages 10-11)
(1930年代、スー族)
シカゴ大学の2 人の研究者が米国先住民の南ダコタに住むスー族を研究した。彼らは「住むのにふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。
それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告には、居留地の成人女性の40%、男性の25%、子どもたちの10%が「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。
研究者の一人(フルデリカ)が「少なからぬ怠惰」 と呼んだ居留地での生活が彼らの肥満の原因であった可能性もあるが、研究者たちはスー族において別の関連する事実に注目した。
それは成人女性の5分の1 、男性の4分の1、 子供たちの4分の1が「極端に痩せていた」ことである。
居留地の食事の多くは政府の配給に頼っており、カ ロリーと蛋白質、必須ビタミン類とミネラルが不足していた。これらの食事の栄養不足の影響を見逃すわけにはいかない。研究者らは「統計をとったわけではないが、何気なく観察しただけでも、これらの家族の間で虫歯・O脚・ただれ眼・失明が高い頻度で存在することに気付かないわけがなかった」と報告している。(Page 31)
(ブラジル、サンパウロにて)
これは2005 年に医学雑誌に掲載されたジョンズホプキンス大学、栄養センター長である、ベンジャミン・カバレロの論文「栄養の矛盾-発展途上国における低体重と肥満」からの抜粋である。
カバレロはブラジル・サンパウロの スラム街にある診療所を訪問した経験を述べている。
彼は、待合室の様子について「慢性低栄養の典型的な症状を示す、痩せて発育を阻害された幼い子供を連れた母親たちであふれていた。発展途上国の貧しい都市部を訪れてこの光景に驚く人たちは、残念ながらほとんどいないだろう。しかし驚くなかれ、これら栄養不良の幼児を抱く母親たちの多くが肥満なのである」と記した。
もし私達が、母親たちの肥満は食べ過ぎが原因であると信じ、子供達がやせて成長が止まっているのは十分な食物を与えられていないからだと理解するなら、子供達の成長に必要なカロリー(栄養)を母親が余分に食べていたと仮定することになる。
言い換えれば、母親たちは、彼女たち自身が過食するために、子供たちを意識的に飢えさせようとしていたことになる。これは私たちが知る母性行動の すべてに反する。
カバレロは次にこの現象が示唆する問題点について、
「低体重(低栄養)と肥満の共存は公衆衛生上の計画に対する挑戦を突きつけており、それは低栄養を減らす計画の目的が、明らかに肥満予防の計画と相反するからである」と説明した。
簡単にいえば、肥満を防ごうと思えば、人々が食べる量を減らさなくてはならないが、低栄養を防ごうと考えれば、食物の供給を増やさなくてはならないということだ。私達はどうすればよいのか?(Pages 38-9)
2. 私達はどうすればいいのか?
(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)
1970年代の初期、栄養学者と研究熱心な医師たちは、これらの貧しい集団における重度の肥満に関する観察を議論し、時にその原因について偏見なく論じた。
英国からジャマイカの糖尿病専門家へと転身したロルフ・リチャーズは1974年に(肥満と貧困に関し)「先進国での高い生活水準と比べて、西インド諸島に存在するような比較的貧しい社会に見られる高い肥満率を説明することは難しい。
これらの地域において栄養不良と低栄養 は生後2年間によくある異常で、ジャマイカの小児科病棟への入院のほぼ 25%を占める。低栄養は小児期初期から10代はじめまで続く。女性の集団では、肥満は25歳からはっきりと現れ、30歳以上では肥満率が非常に高くなる」と論じている。
リチャーズのいう「低栄養」は十分な食物がなかったことを意味する。生まれてから10代はじめまで、西インド諸島の子どもたちは極端にやせていて、成長は足踏みした。彼らにはより栄養のある食物ではなく、より沢山の食物が必要であった。
それから肥満が現れ、これは特に女性に顕著で、彼らが成年に達するにつれ急加速した。これは1928年にスー族で、またその後チリで観察された組み合わせで、同じ集団や同じ家族内で栄養不良と肥満が共存していた。
肥満を「一種の栄養失調」と呼ぶことに、道徳的判断、信条、過食と怠惰への遠回しな皮肉は込められていない。
それは単に食料供給に何か問題があるといっているだけで、私達にはそれが何なのかを突き止める義務があるのかもしれない。
同じ集団や家族の中でさえも起きる低体重と肥満の共存は、公衆衛生上の計画に対する挑戦を促すのではない。私達の肥満および過体重の原因に関する信念に対して挑戦状を突き付けているのである。
(Pages 38, 40)
3. 低栄養(低体重)と肥満の共存はありうる
<低栄養と肥満について>
まず、「低栄養と肥満は矛盾したメッセージではない」ということを私の経験に基づいて説明したいと思います。
繰り返しになりますが、私が30キロ台に激ヤセした中で、初めは高カロリーの食べ物をたくさん食べていたけど全く太ることができず、ある時、腸全体を飢餓状態にすれば太れるということに気が付いたんです。
一番飢餓状態を作りやすくするのが、消化の良い精製された炭水化物(ごはん、食パン、うどん、デンプンなど)と良質のタンパク質を少しだけ食べること(そして、その他の物を食べないこと)でしたが、エネルギーやその他の体に必要な栄養が不足してフラフラになっていました。
逆にミネラルやタンパク質などの栄養を補うために牛乳や卵、野菜、豆、小魚などの食品を摂ると、栄養の状態は一時的に回復しましたが、それと同時に、それ以上太ることもありませんでした。私の場合は消化できなかったからです。
つまり食事に対する、消化の良い精製炭水化物の比率が高いほど(量ではない)、繊維質の野菜や脂質、その他の消化の良くない食品が少ないほど、腸内飢餓が起こりやすく、設定体重がアップする可能性があります。
ビタミンやミネラルの欠乏によって病気が引き起こされるというのは確かに考えられますが、低栄養と肥満は矛盾したメッセージではないのです。
<低体重と肥満の共存について>
またカバレロ氏の言及された『貧困層での低体重と肥満の共存』について説明すると、同じグループで同じものを食べたとしても、体の中においては異なる結果になる場合があります。
腸の中ですべて消化した人は、私の腸内飢餓 理論により設定体重が徐々にアップし、最終的に肥満になるかもしれません。
しかし、同じように食べたとしても、すべて消化できなかった人は低栄養で痩せたままです。ほんの少しの消化されない食べ物が腸内に残るだけで、腸内飢餓は起きにくくなるのです。(特に、極端な痩せの状態は消化する能力まで低下させるので、腸内飢餓を引き起こすのがさらに難しくなる。)小さな違いが時に大きな結果の違いにつながります。
▽また現代に当てはめると、それは私達の社会で起こっている現象と同じではないでしょうか?
ある人がそれほど食べないのに太っている場合、その人は運動不足か代謝が低いと考えられがちです。また、多く食べても痩せている人を見ると、その人は動いてエネルギーを消費しているか代謝がいいと考えがちです。多くの研究者は、何らかの理由をつけて「太る原因は、食べ過ぎているか身体的な不活発である」という理論に当てはめようとしているだけです。
しかし先入観を捨ててこれらを見ると、同一グループにおける「痩せと肥満の共存」と同じ現象であると言えるでしょう。肥満・過体重は必ずしも過食の結果ではないのです。
2021.05.12
親子の体型が似るのは遺伝か、それとも生活環境か?
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目次
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- 養子の体型は「生みの親」に似るのか、「育ての親」に似るのか?
- 別々に育てられた双子の体重は?
- 体重に変化を与える環境要因とは?(私の考え)
- 幼少期の体型が継続する?
<まとめ>
肥満は親から子供に遺伝するのでしょうか?
例えば、小学生の頃のクラスの同級生を思い出してみよう。
100%がそうではないにしても、両親が痩せていれば子供も痩せていることが多く、両親が太っていれば子供も太っていることが多い、というのはある程度想像できる。
ここで問題は、それが遺伝子によるものであるのか、それとも生活環境によるものなのかということである。そのような調査があったのでご紹介します。
1.養子の体型は「生みの親」に似るのか、「育ての親」に似るのか?
(「The Obesity Code」医学博士ジェイソン・ファン著)より引用
”肥満の子にはたいてい肥満の兄弟がいる。肥満の子どもは肥満の大人になり、肥満の大人は肥満の子どもをもつ。「子どもの頃に肥満だった人が、大人になっても肥満になるリスク」は高い。これらは、否定しようがない事実だ。(略)
肥満に悩む者がいる家族は、肥満に結びつく遺伝的な特性を共有している。だが、肥満が社会にまん延したのは1970年代に入ってからだ。人間の遺伝子が、これほど短期間に変化するはずはない。遺伝子が肥満の原因だとすれば、個人が肥満になるリスクについては説明がつくかもしれないが、全国的な肥満の増加の説明にはならない。
家族は同じ環境で生活する。同じようなものを、同じような頻度で、同じように食べる。 また、家族は車を共有し、肥満を誘発するような化学物質に同じようにさらされる。これらのことから「現在の生活環境が肥満の主な原因」だと考える人が多い。(略)
カロリーの摂り過ぎが肥満の原因だと考える従来の理論からすると、食べる量が増え運動量が減る、この『有毒な生活環境』こそがいけないのだと人々の暮らしを真っ向から非難することになる。実際に、私たちの生活習慣は1970年代からかなり変化している。(例:車、TV、PC、ファーストフード、砂糖、高カロリーな食べ物、など)
ゆえに、肥満に関する現代の理論では遺伝的な要素は勘案されないことが多く、主にカロリーの摂り過ぎが肥満につながると考えられている。「食べるのも運動するのも自発的な行動である。つまり遺伝的な要素はほぼ見当たらない」というわけだ。
では、本当に、人間の肥満に遺伝子はかかわっていないのだろうか?”
(ジェイソン・ファン. 2019. The Obesity Code. サンマーク出版. Pages 56-7.)
”遺伝と環境的要因が肥満にどのような影響を与えているのかを調べるには、古典的な方法としては、「養子を迎え入れた家族」を研究してみるといい。
たいてい生みの親の情報は未公開であることが多く、研究者が容易に入手することはできない。だが幸いデンマークで、養子縁組に関する情報が比較的完全な形で残されており、双方の情報も記録されていた。そこでアルバート・J・スタンカード博士は、デンマークで養子になった540人の成人をサンプルとして取り上げ、それぞれ「生みの親」と「育ての親」との比較を行った。
もし肥満に最も影響を与えているのが環境的な要因だとすれば、養子は養父母に似るはずで、逆に、もし遺伝的要素が最も影響を与えるのであれば、彼らは「生みの親」に似るはずである。
その結果、養父母と養子の体重に、相関関係は全く見られなかった。養父母が痩せていても太っていても、養子が大人になったときの体重に違いは出なかったのだ。とても太っている養子がとても痩せている養父母に育てられている事例もあった。(略)
一方、養子を生みの親と比べたところ、全く異なる結果がでた。こちらは双方の体重に一貫した相関関係が見られたのだ。生みの親は育児にほとんど、あるいはまったく関与しておらず、食事の大切さや運動の習慣を教えていない。それにもかかわらず、太っている両親の子供を、痩せている親のもとでで育てたケースでも、子供はやはり肥満になった。(略)
この発見は、研究者にとってかなり衝撃的だった。
カロリーに主眼をおいたそれまでの一般的な理論では、食習慣、ファーストフード、甘いお菓子、運動不足、車の普及、遊び場の不足などの「環境的要因と個人の行動」が肥満を助長する重大事項とされていた。だが、スタンカード博士は、「実際には、肥満と環境的要因は関係がない」という研究結果を打ち出した。"
(The Obesity Code. Pages 57-9.)
2.別々に育てられた双子の体重は?
"環境的な要因を見分けるのに有効な手法として、「別々の環境で育てられた一卵性の双子研究」もある。スタンカード博士は1991年、別々に育てられた一卵性・二卵性の双子と、一緒に育てられた一卵性・二卵性の双子について調査した。
またしてもその調査結果は、肥満研究者たちに衝撃を与えるものだった。
「肥満を決定づける要素のおよそ70%が遺伝によるもの」という結果が出たのだ。
(~略~)だが同時に、これだけ肥満が蔓延しているのは遺伝だけが要因ではないとも言える。肥満の発生率はこの数十年、比較的一定に推移してきた。それが1970年代から急激に広がっている。人間の遺伝子がそんな短期間に変化するはずがない。この矛盾はどう説明すればいいのだろうか?"
(The Obesity Code. Pages 59-60.)
3.体重に変化を与える環境要因 とは(私の考え)
この調査では、生みの親と養父母のデータを比較できたということで、非常に興味深い調査であると思う。しかし、その結果だけで「遺伝子の影響が環境要因よりも大きい」と断言できるだろうか?
著者が言われるように、近年(1970年頃~)の肥満の増加は間違いなく、私達の生活環境の変化(私達が食べている物、不規則な生活)が影響しているといえるだろう。
若い頃スリムであった人でさえ、ある年代から何か(一人暮らし、出産、子育て、仕事のストレスなど)をきっかけに10キロ、20キロと短期間に体重を増加させることがある。ダイエットに挑戦するたびに、体重が増加していく人もいる。
つまり食べ物や生活環境が変われば、体型も変わることがある、ということを私達は知っている。
▽ここで、体重に変化をもたらす『環境の変化』とは何だろうか?
この調査では、別の家庭で子供を育てること、又は双子が別々で暮らすことで、生活環境に変化があったと考えているのだが、この調査には問題がある。
養父母として子供を引き取るくらいの家であれば、ある程度は収入に余裕があり、ある程度バランスの良い食事を1日3回、子供に食べさすのではないだろうか?家庭によって献立や摂取カロリーは違うだろうが、多少食べるものが変化したくらいでは、それは、体重に変化をもたらす「環境の変化」とは言えない。
養父母が痩せているからと言って、同じ食事を摂れば痩せる訳ではないのである。
それとは逆に、体重・体型が大きくプラスに変化するのは、設定体重そのものがアップする時 (図-B) だと私は考えており、それは腸内飢餓によって引き起こされるのである。
そして、腸内飢餓の誘発には最低4つの条件が必要であるため、養父母と一緒に暮らしたからといって、設定体重を変化させる訳ではない。
【関連記事】腸内飢餓をつくる3要素+1
日本では過去数十年で、私たちの伝統的な食習慣が失われ、食事の西洋化や働き方の多様性が進んでいる。
その変化の中で、バランスの悪い食事(消化の良い炭水化物、加工食品、野菜不足など)と不規則な生活(朝食抜き、夜遅い食事など)が重なる時に腸内飢餓が引き起こされる可能性が高くなる。
これが私の言いたい、近年の肥満流行をもたらしている「環境的な要因と個人の行動」と言うべきものであって、遺伝的要因ももちろん否定できないが、環境的要因はかなり大きいと考える。
今や同じ家で生活する血のつながった家族であっても、同じ食べ物を、同じ時間に、同じ頻度で食べている訳ではない。
母親があえて別々のものを食べさすことはないだろうが、朝食を食べない子供、夜の遅いお父さん、好き嫌いで野菜などを食べない子供、昼を簡単に済ます主婦など、家族の中でも食べ方が多様化してきているのではないだろうか?
家族の中で一人だけ極端に肥満の子供なども数人見たことがあるが、それは私から言えば、同じ家族であっても体重に変化を与える『環境の変化』の結果と言えるだろう。
4.幼少期の体型が継続する?
ここで1つ注目すべきことは、幼少期(例えば3才~5才頃)の体型(痩せてたり、太っていたり)が大人になっても継続しやすいということだと思っている。小学1、2年の頃の同級生を思い出しても、太っていた女子・男子が(彼らは決して大食いではなかったが)、数十年経っても似たような体型であることが多い。
私の理論から言えば、設定体重が変化していないということであり、この調査においても、設定体重に大きな変化をもたらす環境変化がないのであれば、子供の頃の体型などが基本的に優先されるのではないだろうか?
ただ、幼少期の体型(肥満・痩せ)が何によるものなのか?遺伝なのか、それとも離乳食を含めて、幼少期の食事の与え方なのかは疑問の残るところであった。
まとめ
(1) 遺伝と環境的要因が肥満にどのような影響を与えているのかを調べる「養子を迎え入れた家族」の研究では、養父母と養子の体重に、相関関係は全く見られなかった。一方、養子を生みの親と比べたところ、双方の体重に一貫した相関関係が見られた。また別々に育てられた双子における調査でも、「遺伝による影響がはるかに大きい」という結論に達した。
(2) 多くの研究者はそれまで「環境的な要因と個人の行動が近年の肥満の流行を招いた」として非難していたが、この調査では環境要因よりも遺伝がはるかに影響していると結論づけた。
しかし、私はこの調査には問題があると考える。子供が養父母の元で暮らすこと、又は双子が別々で育てられることは、必ずしも設定体重に変化を与える環境要因とは言えない。
(3)もちろん遺伝の影響は無視できないと思うが、近年の肥満の流行は、私達の食べている物や生活習慣の変化などが組み合わさって起こっていると考えます。体重や体型が大きくプラスに変化するのは、設定体重がアップする時であって、それは腸内飢餓によって起こる。
(4)設定体重に大きな変化がなければ、幼少期の体型が続くのではないかと私は考える。しかし幼少期の体型が何によって決まるのか?遺伝か、それとも離乳食を含めて幼少期の食事の与え方なのか、については疑問に思うところである。
2020.01.16
昔に比べ、なぜ現代人の方が飢餓状態であると体は認識するのか?
目次
- この50年で、私達の食事はどの様に変わったのか?
- 豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
- 歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない
1.この50年で、私達の食事はどのように変わったのか?
50年前と言えば、万博のあった1970年(昭和45年)、ちょうど私が生まれた頃である。高度成長の真っただ中だったと思うけど、食卓の風景は今(2020)とかなり違った気がする。
私の家は大阪高槻の山間部で農家(シイタケ栽培、米)だった。ニワトリも20羽ほど飼っていた。
朝の食卓には必ずと言っていいほど、ご飯に味噌汁、漬物があり、野菜の煮物や魚の干物などがあった。家族がそろってしっかり食事をしていた記憶がある。パンももちろん食べたけど、うちは父が力仕事だったから、ご飯は毎朝あったな~。
■食事風景が大きく変化した1970年代
私達の食事が徐々に変化していったのは、1970年以降だと思うんだ。
私は子供の頃、あまり連れて行ってもらった記憶はないけど、
マクドナルド(1971年~)、ケンタッキー(1970年~)などのファーストフード店
ファミリーレストラン(すかいらーく1号店:1970年)、牛丼チェーンなどが次々と出店。
セブンイレブン1号店(1974年)、その後コンビニエンスストアが全国に増えた。
カップ麺などのインスタント食品や冷凍食品が増加していった。
給食のパンに慣れた私達は、アメリカの思惑通り、ご飯よりもやパンなどの小麦製品を好むようになり、それに伴い、骨のある魚よりも肉や加工食品を好んで食べるようになった。
固いものよりも、柔らかい物を好むようになり、昔は定番であった、ヒジキや切干大根、金平、おからなども昔にくらべ食べなくなった。
野菜は柔らかくなるまで調理され、肉や魚もミンチやすり身などに加工され、食べやすく消化がよくなった。
(成人における肥満者(BMI25 以上)の割合は、男性では昭和 55(1980)年以降増加傾向にあり現在3割に達しており、女性では2割前後で推移してきた[厚生労働省資料より])
生活スタイルもデスクワークが増え、夜型の生活、朝食も食べない人が増えた。おそらく世間で肥満が増えていったのは、この頃からではないだろうか?(今では、100キロ級の女性を街中で見ることも珍しくなくなった。)
カロリー摂取量が増えたことが肥満・過体重の原因と思われるかもしれないが、1970年の国民の一日の平均カロリー摂取量は2210kcalであったにもかかわらず、2010年には1849kcalにまで減少しているのである。[1]
(参考文献[1]:香川靖雄, 「時計遺伝子ダイエット」, 2012, P15)
それよりも私の理論との関連で言わせてもらえば、現代の食事は、繊維質に乏しく、消化の良い精製炭水化物、加工された肉・魚製品、ファーストフードなどに偏ることが多い。組合せによれば、容易に腸内飢餓状態を作り出せるのである。
特に、一日2食(朝食又は昼食を抜く)、軽い昼食、遅い夕食などの食習慣の変化、又はダイエットによる食事制限などによって、多くの人が空腹を長時間にわたり我慢している状況下で、腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。
2.豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
同じような状況を説明するのに、配給制化で肥満が増えたピマ族を引き合いに出したい。引用するのは2回目であるが、この部分は非常に重要で、肥満・糖尿病すべての解決のキーとなるだろう。
(参考文献:「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
ピマ族というアリゾナに住む、アメリカ先住民を考えてみよう。ピマ族は1850年代を通じて極めて成功した狩猟者・農民であった。彼らは罠を仕掛けて獲物を捕まえたりすることに熟練していた。また彼らは、近くを流れるギラ川の魚や貝を食べ、畑ではトウモロコシ、豆、麦、フルーツなども育て、家畜も飼育していた。(略)
しかし1870年までにその地は他の移住者に荒らされ、ピマ族は彼らが言う「飢餓の時代」を生きるようになった。毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。
1901~05年に、この地を訪れた人類学者は、ピマ族が(特に女性)いかに太っていたかについて述べた。
この観察において注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の一つから、最も貧しい民族の一つになったばかりだったということだ。何がピマ族を太らせたにせよ、豊かさとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。(略)
なぜ彼らは、豊かな狩猟・農耕時代に太らず、配給になってから太ったのか?
おそらく答えは、摂取した食べ物の種類、つまり量よりも質に問題がある。(略)1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に、私達の多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にでなく、質的にであった。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス, 2013,「人はなぜ太るのか」, メディカルトリビューン, Page 27-9)
【関連記事】→「豊だから太るのか、貧困が太るのか?」
食事の面について言うと、1970年当時の日本人は、現代(2022)よりもいろんなものを食べたと思う。コンビニエンスストアなどなかったし、お母さんの家庭料理が基本で、季節によって異なるいろんな野菜や魚などの食材を食べた。
それに対し現代の食事は(全員ではないが)、消化の良い炭水化物と肉製品がベースで、食べる食材の種類が劇的に減った気がする。普段は多くの人が太ることを気にして空腹を我慢し、たまに贅沢をしてご褒美的に美味しいものを食べる。状況こそ違うが、腸の内部に焦点をあてれば、ピマ族が配給制下で現代食を食べるようになって太ったのと同じであると言える。
3.歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない
(「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
(「肉を食べるべきか、それとも野菜か?」からの引用)
ある食べ物が人間の食事の一部である期間が長いほど、それはおそらく有益で害が少ない(私たちはその食べ物に適応している)ということである。
そして、もしある食べ物が人間の歴史において新しいものであるか、最近になって大量に摂取するようになった場合、適応する十分な時間がなかった可能性が高く、それは害になる。(略)
ここでの疑問は「私達がおそらく遺伝的に適応している状態とは何か?」ということである。(略)
事実上、私達の遺伝子は、農業を1万2千年前に始める以前に、私達の祖先が採取・狩猟生活者として生きていた250万年の間に作られた。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス,「人はなぜ太るのか」, Page 182)
▽著者は、「炭水化物を大量に摂取する現代の食事は遺伝的に適合しておらず、肉やその脂身を食べることの方が遺伝子レベルでは私達に適合していて害が少ないのではないか」という趣旨でこの文章を書かれたと思う。
私は、飢餓メカニズムを説明するためにこの一節を引用させてもらいます。
もし神様が、『人々が食べ物にありつけない時のために体脂肪を蓄えれる』ように遺伝子の設計図を書かれたとしよう(そう考える方が理にかなっている)。
食べ物がすべて消化された状態をもって『食べ物のない状態』(飢餓状態)とされたのなら、イノシシの肉や木の実、固い細胞壁をもつ野菜、精白されてない穀物などを食べていた狩猟時代・農耕時代は、丸一日食事にありつけなくても腸の内部は完全な飢餓状態にはなりにくかったであろう(腸が7~8mと長い為)。
それに対し、現代のような、すばやく消化される食品(精白された米・小麦、デンプン、加工された肉・魚製品、ファーストフードなど)を多く摂る食事は、わずか半日でも組合せによっては飢餓状態になる場合がある。
すべて判断しているのは腸全体(又は第2の脳と言われる「小腸」)であり、腸の中では、昔よりも現代の方が、「食べ物がない」状態と認識される場合があると私は考える。
最後に
「日本の食文化は世界的に見ても健康的だ」と言われることがあるが、私はそれは最大でも2000年頃までの過去の遺物だと思う。今や伝統的な日本の食事形態は一般家庭から消えつつある気がしている。ファーストフードを食べて育った子供が、今や50代・60代になり、そしてその子供たちが30代になる。こうして約50~60年あれば(約2世代)、いとも簡単に伝統的な料理を食べる機会が薄れていき、食文化が劇的に変化するのだ。
そして食事の移行と共に、かつては多くなかった糖尿病、腎臓病、心臓病、癌、脳卒中などの病気が欧米と同様に増えてきているように感じる。