トピックス

2015.06.27

摂取カロリーを単純合計することに意味はない

目次

  1. アトウォーター係数は平均値に基づく
  2. 消化吸収率は皆が同じではない
  3. 肥満は体重の「設定値」理論で説明できる
    <まとめ>

その日の摂取カロリーを正確に計算し、ダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない、という話をしたいと思います。私達が摂取カロリーを計算する時に使う食品のカロリー値にはアトウォーターのエネルギー換算係数(炭水化物、タンパク質4kcal/gなどの係数)が使われていますが、その正確さについてはいろんな問題が指摘されています。
【関連記事】カロリー計算:アトウォーター係数が完全ではない理由


私はその中でも、消化率や吸収率が平均的な数値に基づいていることが問題であると思っており、その問題点について説明します。(今回は吸収されるまでの過程であり、吸収された後の代謝過程やホルモン分泌の違いなどについては言及しません。)

1. アトウォーター係数は平均値に基づく

一日の摂取カロリー

「あなたの体が必要とするカロリーより多く摂取すれば太り、摂取するカロリーより多くのカロリーを燃やせば痩せる」(注1)と言われています。

この理論は、非常に単純であり、ある意味で核心をついているとも言えますが、「体が必要とするカロリー」「摂取するカロリー」という表現が曖昧なため危険です。

体が実際に消費するカロリーは基礎代謝でさえ変化していると言われるし[1]、体が実際に吸収しているカロリーも常に変化するので(私の考え)、単純に食品のカロリー値を合計して比較しても、正確な数値を導き出すのは難しいと考えます。


アトウォーター係数は、単にその食品のもつ吸収可能な平均エネルギー値を示すものですが、何時に食べるか、何時間おきに食事を摂るか、どの食品をどの様に組み合わせるかによって、吸収率がどの様に変化するかについては調査されていないようです。

また、この係数は被験者の平均値なので、すべての人の消化吸収率を同じとして考えているのです[2]

(注1)1878年、ドイツの栄養学者マックス・ルブナーは「等力価法則」と呼ばれる法則を作り上げ、栄養の基本はエネルギーの等価交換であると主張し、1900年代初頭にドイツの内科医、カール・フォン・ノールデンによって肥満の研究に応用されました。

([A calorie is a calorie] From Wikipedia)

2.消化吸収率は皆が同じではない

私はすごく痩せていたので、消化力が弱く、常に消化吸収の問題を抱えていました。まるで自分が実験台のようでした。脂っこい食事や繊維質の多い食事を食べ過ぎると胃がもたれ、7-8時間たっても空腹にならず、その状態で無理して食べると、さらに痩せました。

アトウォーター係数では、脂質は物理的燃焼度が1グラムあたり9.4 kcalで消化吸収率が95%で設定されているので、9kcalの熱量と言われるのですが[3]、私を含め消化に手こずる人にとっては、その数値は意味がありません。
以下で、私の経験に基づき、一個人において吸収率がどの様に変化するかについて説明します。

(1)吸収率は一定ではなく、空腹や運動で高まる

痩せたいと思う人が、カロリー摂取量を減らし自身を半飢餓状態にすると基礎代謝量も低下するということも実験で証明されていますが[1]、私は吸収率も同じではないと考えます。

吸収率は、空腹が長時間にわたり続く時や運動後に高まります。これはエネルギー源だけでなくカルシウムや微量元素含めすべての栄養素についても言えるでしょう。

腹ペコ時又は疲れている時にお酒を飲むと悪酔いしたり、またラーメン・スイーツなどを食べると血糖値が急激に上がることがありますが、それは体が栄養を必死に摂ろうとしているからです。

血糖値上昇

もう少し具体的に言うと、700 kcalの昼食を400 kcalにして夕食まで我慢したとしても、お腹の中には朝食もまだ残っており、そこから栄養を摂ろうと体は必死に頑張っているはずです。体に蓄えられている栄養を使う場合でさえ、先に使われるエネルギー源があるので、すべてが体脂肪の減少につながる訳ではありません。また、空腹が数時間続けば夕食を摂ったときの吸収率も高まると考えるので、減らした300 kcalを毎日、例えば2週間、合計しても計算通りに体脂肪は減らないでしょう。(また体重減少に伴い基礎代謝も落ちるので、予想よりも少ない体重減少で体は均衡状態になると言われる。)


それとは逆に、空腹でもないのに3~4時間おきに無理して食べ続けると吸収力は相対的に低下します。3~4時間かけて消化され胃袋をやっと出て、『これからさらに吸収するぞ・・・』という時に、また胃に別の食べ物が運ばれてくるわけだから、体は『また、食べ物が入ってきたぞ。あれから栄養を摂ればいいや・・・』という風になるわけです。

先ほどの血糖値の例で言うと、食事の2時間前にアイスクリームを食べておけば、食事での血糖値の上昇は緩やかになるはずです。

プロテインと女性

バーベルを使用した激しい運動をする人が、食事の合間にプロテインや牛乳を飲むことは必要かもしれませんが、軽い運動をする一般の人がこのような食べ方をすると、吸収率が低下し、消化のためのエネルギー(食事誘発性熱産生)は増加するのでダイエットに効果がある場合があります。

(2)食品の組合せによって吸収率が変化する

食事中の食品をどの様に組み合わせるかによっても、空腹感や吸収率に違いがでてくるのです。

一例として400 kcalの朝食(トースト、ハム、目玉焼き)について考えてみましょう。たとえカロリーが増えたとしても、朝食にゴボウサラダ、チーズ、豆、キノコソテーなどを加えれば、昼食時の空腹感は和らぎ、昼食時の血糖値の上昇も抑えることができるはずです。(NHK「ガッテン流、脱糖尿病の新ワザ」2011年)

繊維たっぷり料理

繊維質を多く含む食品や、消化に時間のかかる食品を常に食べることで、体の中では未消化物がたっぷりある状態が続き、その結果、空腹感が抑えられ吸収率が低下することが一部の理由と考えます。繊維質そのものが吸収を若干抑えるという可能性もあります。

ですから、たとえ摂取カロリーが増えたとしても、このような食べ物を毎日の3回の食事に加えることは、ダイエットに効果がありえます。


逆に摂取カロリーを減らしたとしても、繊維の乏しく加工度の高い食品ばかりを食べていると、すばやく消化されるために体は労力を使わずに多くのカロリーを得ます[2]。常に空腹感を感じるため吸収率は上がり、血糖値のアップダウンを繰り返すことも考えれます。

(3)脂質が常に太るわけではない

エネルギー源となる、炭水化物、タンパク質、脂質の組合せでも違いがでます。

カロリーの理論に基づくと、脂質は1グラムあたり9kcalなので「沢山食べれば太る」というふうに、私達は、栄養士や医師、テレビなどを通して教えられています。

三大栄養素

しかし、糖質制限ダイエットに見られるように、炭水化物を減らし、タンパク質や脂質を食べたいだけ増やす食事は、一日の摂取カロリーが増えたとしても被験者に体重が減少したという研究結果が1970年代まで繰り返し報告されています[4]

2008年にイスラエルで行われたDIRECT試験 (食事介入による無作為比較試験)でも、「地中海食ダイエット」、「アトキンス・ダ イエット」(低炭水化物)は、「低脂質ダイエット」に比べ体脂肪減少に大きな効果があることが確認されています[5]

もちろん、タンパク質の消化に使われるエネルギー(食事誘発性熱産生)が高いことや、刺激されるホルモンに違いが出ることが知られていますが、私が付け加えたいのは吸収率です。

上記(2)と同じ理由で、消化の良い精製された炭水化物を減らし、消化のよくない脂質や肉類(特に加工されないブロック)などを相対的に多くした食事は、未消化物質が長時間に渡り腸内に残るので、空腹感を抑え、吸収率を低下させダイエットに効果があるでしょう。脂質を毎食あるいは、間食にも取り入れることでより多くの効果を得ることができるはずである

もちろん脂質、タンパク質を早く消化できてしまう人や民族はこの効果が薄い可能性があるのですが、私を含め脂質をすばやく消化できない人にとっては、脂質を多く摂取することは太る原因とはならないでしょう。

これはアメリカにおいて、1976~1996年にかけて低脂質ダイエット(高炭水化物)を推進した結果、BMI 30以上の人が1977年から劇的に増加したとするデータ[6]とも関係するのではないかと思っています 。

【関連記事】脂質における3つの視点

    

3. 肥満は、体重の「設定値」理論で説明できる

体重増加の2パターン

上記「2」の説明は一個人における吸収率の変化ですが、私がこのブログを通して言うように、根本的な太り過ぎと痩せの違いは、設定体重(set-point weight)の値の違いであると思っています。

カロリーの摂取量や運動によって、多少太ったり又は痩せたりするのは、設定体重の範囲内(図のA)ですが、設定体重そのものがアップするのは腸の飢餓メカニズムなので、摂取するカロリー量とは直接関係ありません。

そして私の理論上、この設定体重が高いことは、平均的な体重の人に比べて「吸収効率が高い」ことと関連しており、すべての吸収される栄養が増加すると考えるので、体重の増加は体脂肪だけでなく、筋肉量の増加なども含みます。

今の時点では、アトウォーター係数の矛盾を指摘して、設定体重がどう変化するかを説明をすることはできないのですが、必ず腸の飢餓状態で人が太ることを証明したいと思っています。

まとめ

(1) 大量調理(給食や老人ホーム)などの場合に、平均的な目安として一日の摂取カロリーを計算することに意味があるが、それをダイエットでの体重管理にあてはめてもあまり意味がない。過体重・肥満という概念においては別の問題が多くある。

(2) アトウォーター係数では消化吸収率は被験者の平均値だが、人の消化吸収の過程は複雑であり平均値では語れない

(3) 空腹感や運動によって吸収率は変化すると私は考える。食事の時刻や間隔、どの食品をどの様に組み合わせるかも結果に影響する。

(4) 肥満の根本的な原因は、体重の「設定値」が高いことが原因であり、摂取カロリーを減らすことで一時的な減量にはなっても、長い目では効果が薄い。
      

<参考文献>

[1] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. サンマーク出版. 2019. Page 67.

[2] Rob Dunn. 「カロリー計算が間違っている理由を科学が明らかに」. 2013.

[3] Japan Food Research Laboratories. 「食品の熱量について」. 2003 Jul. 

[4] ゲーリー・トーベス. 「人はなぜ太るのか」. 2013. メディカルトリビューン. Pages 164-175.

[5] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 177-179.

[6] ジェイソン・ファン. 「The Obesity Code」. 2019. Pages 54-55.

2015.05.04

脂質(脂肪)についての3つの視点

目次

  1. 低脂肪食はダイエットに効果がなかった
  2. 脂質における、3つの側面

(エネルギーの持続性 / 太ることの抑止 / ダイエット効果)

多くの人は、「高脂質な食事を食べると太る」と常識のように言いますが、オイルや脂肪を沢山摂っても痩せることができたという研究結果もあります。どちらが真実なのでしょうか?

私の結論から申し上げると、どちらも真実である(間違っていない)ということです。
私がこのブログで何度も言う通り、「太る」という言葉には2つの意味があり、私の理論に基づくと、脂肪には3つの視点があると言えるでしょう。今回はそれを説明します。

1.低脂肪食はダイエットに効果がなかった

▽『炭水化物が人類を滅ぼす』の著者である夏井 睦氏(日本人医師)は自身が糖質制限(炭水化物抜き)をする中で、「脂肪はカロリーを気にすることなくいくら摂っても太らない。糖質を制限することで痩せることができたし、空腹を我慢することもなく体調もすごくよくなった」と言われています。

▽「瘦せたければ脂肪を沢山摂りなさい」の著者であるジョン・ブリファ氏(イギリス人医師)は著書の中で、いろんな食事を長期間摂取してもらう相対実験で、「低脂肪食にダイエット効果がないこと、高脂質な食事のほうがダイエット効果があること」を述べておられます。

「瘦せたければ脂肪を沢山摂りなさい」より引用

常識的には、ダイエットを成功させるための鍵は摂取カロリーを下げることにあり、そのために展開するべき重要な戦略は、脂肪を減らすことだと言われています。脂肪は炭水化物やタンパク質と比 べて、2倍のカロリーがあります。しかも、脂肪には「体脂肪」という意味もあります。どうやらそのせいで、脂肪は本質的に太るもとだと見なされるようです。

その結果、あなたも過去のダイエ ットで、一生分の無脂肪牛乳を飲み、皮なしの鶏胸肉を食べたかもしれません。

他方、低炭水化物ダイエット(アトキンス法など)で卵、クリーム、チーズ、バターのような 脂肪たっぷりの食べ物をおなかいっぱい食べても、自分の体脂肪が少しずつ消えていくのがわかる、という経験をしたことのある人も大勢いるでしょう。そんな経験をすると、少なくとも疑問はわきます。 「私たちが口にする脂肪は、最終的に体脂肪として蓄えられる運命にある」という一般常識は本当な のでしょうか?
(ジョン・ブリッファ. 2014.「痩せたければ脂肪をたくさん摂りなさい」. Page 45)
         

ブリファ氏は著書の中で以下のように結論づけています。

  • 食事脂肪の摂取量に体重との強い関連はなく、脂肪摂取量が増えると体重が減少することを示す証拠もある。
  • 低脂肪食は減量に効果がない。
  • インスリンが体脂肪の蓄積を促す主要な因子であり、食事脂肪がインスリン分泌を直接促すことはないので、太るもとである可能性は限られている。
  • 脂肪だけの食事は勧められないが、脂肪たっぷりの食事がダイエットに役立つ可能性がある。
    (Pages 53,57)

私は研究者ではないので、インスリンが体脂肪の蓄積においてどの様に働くのかについては、今は言及をさけますが、なぜ低脂肪食が減量に効果がなく、脂肪を多く含む食事に減量効果があるのかは、私の理論でも説明できると考えています。
             

2.脂質における、3つの側面

そこで私の実体験に基づく考えなのですが、脂肪を摂取して太ったという人、あるいは痩せれたと言う人、両方とも間違いではないけど、それは脂肪のもつ性質の一つの側面であるということです。これは、カロリーに固執すると見えなくなってしまいます。摂取する対象(誰が)やその摂り方(量、回数)などにより、3つの効果が期待できます。
                   

(1)エネルギーが持続する(当然体にも蓄えられる)

食事脂肪

脂質は重要なエネルギー源であり、1gあたりkcalの熱量を供給します。また、細胞膜やホルモンの構成成分として重要な栄養素であり、その他にも私達の健康には欠かせないいくつかの重要な働きをもっています。

しかし、糖質やタンパク質に比べ消化に時間がかかるため、以下のような特徴があると言えるでしょう。

  • 腹もちがいい(満腹感が持続する)。
  • 胃の滞在時間を長くするため、ご飯と一緒に食べても血糖値が急激に上がりにくい。
  • エネルギーが長時間持続する。
設定体重up

私は、"太る" という言葉には2つの意味があると言いましたが、設定体重に戻ろうとする場合 (図のA)においては、エネルギーの総量として太る原因になるものと考えます。

とりわけ脂肪に対して消化力の強い人、その中でも体重を低く抑えるためにダイエットに力を注いでいる人や、無駄な脂肪をそぎ落としムキムキの筋肉を目指している人は、お菓子やケーキ・揚げ物などの高カロリーな食べ物を食べれば、数日で体重が一機に増えることでしょう。

多めの炭水化物と一緒に食べた時や、一日2食の時に太る効果はてき面のようです。

このイメージによって、多くの人は「痩せるために脂肪やオイルを摂りましょう」という画期的な提案を拒否し、この理論が社会で受け入れられ難くなっています。
   

(2)太ることの抑止効果

上記グラフの(B)の部分、設定体重そのものがアップする場合においては、どちらかと言うと(注1)抑止効果として働きます。体重の設定値がアップするのは腸内飢餓のメカニズムですが、脂肪は消化に時間がかかる為、未消化物が腸内に残りやすく、腸内飢餓を起こりにくくします。(注1:脂肪に対する消化力の強い人では、少しくらいなら抑止力とならない場合があります。)

高脂肪食

実際、脂肪の消化はほぼ腸から始まるのですが、脂肪が十二指腸に入ると、脂肪の消化吸収を促進するホルモン(コレシストキニン:cholecystokinin)が分泌されますが、これは同時に胃の働きを阻害すると言われています。

それによって胃の排出作用が抑制され、食べ物が胃の中に長くとどまったりするため、人によっては、満腹感、膨満感の原因となる場合があります。

いずれにせよ、脂肪の消化は他の栄養素に比べ複雑であり、腸内飢餓を防止する傾向があります。

例えば、痩せている人が 「太りたい」という時などは、過度の脂肪摂取は太ることを抑止します。「あの人は、お菓子や焼肉、揚げ物など沢山食べるのになぜ太らないんだろう?」なんて不思議に思ったことはありませんか?

実は、低脂肪で消化の良い食事のほうが、設定体重そのものをアップさせるという意味においては太りやすい、と言えます。
         

(3)ダイエット効果(大きく分類すると「抑止効果」に含む)

ブリファ氏の言われる通り、「低炭水化物ダイエットにおいて、脂肪摂取量を増やすとダイエット効果が期待できる」というのは、全員に当てはまる訳ではないけど、ある意味正しいと私も考えています。

一般的には、炭水化物と違って脂質がインスリンの分泌を促さないことが要因と考えられているようですが、それについては私は今は言及を避けます。それ以外に、私の理論上で追加して言いたいのは以下です。


脂肪が完全に消化されるまでの時間は、食べる量や食材の組合せなどによって異なりますが、6~8時間に及ぶ場合もあります。それゆえ、こまめに(4~5時間おきに)脂肪分・オイルを摂り続けることで、腸の広範囲にわたり未消化物が残ることとなります。そうすると、空腹感が抑えられ、相対的に吸収力が低下していきます(人によっては、膨満感、下痢などの症状を引き起こすことがある)。

また、低炭水化物ダイエットで見られるように、炭水化物をある程度減らし、脂肪や肉・野菜・ナッツなどを増やすことで、濃密な栄養が腸に送られるため、さらに消化に時間がかかり、それを継続することでダイエット効果は高まると考えています。

【関連記事】炭水化物が人を太らせる:希薄効果、プッシュアウト効果

  
  

まとめ

(1)脂質が1gあたり9キロカロリーだからと言って、脂質を摂ると必ずしも太る訳ではない。
脂肪に対する消化力の強い人、中でも普段から体重を低く抑えている人にとっては太る原因だが、食べる対象(誰が)や食べ方(量、回数)によっては、体重増加の抑止やダイエット効果として働く。

 
(2)脂肪は、他の栄養素に比べ消化に時間がかかるため、未消化物が腸内に残りやすくなる。それによって腸内飢餓は起こりにくくなるため、体重の設定値がアップしないという意味において、体重増加を抑止する傾向がある。

 
(3)低炭水化物で高たんぱく・高脂質の食事ではダイエット効果がある可能性がある。脂質は炭水化物と異なりインスリン分泌を促進しないことが主な理由として一般的に考えられている。
私の理論上で付け加えれば、消化の悪い脂質を4~5時間おきに摂取することで、腸内に未消化物が広範囲に残るため、空腹感を抑え、吸収率が低下する。その状態を継続すればダイエット効果がありうる。

2015.03.25

偏食と不規則な生活が腸内飢餓をつくる(3要素+1)

目次

  1. 腸内飢餓を加速する "3要素” とは?
  2. もう一つの重要な要素『+1』とは?

1.腸内飢餓を加速する ”3要素” とは?

設定体重(set-point weight)をアップさせるのは空腹(腸内飢餓)のメカニズムであるといいましたが、その腸内飢餓を作りやすくする『3要素+1』についてお話したいと思います。

【まず、以下のブログをお読みください】
「私の言う、(腸内)飢餓の定義」

不規則な生活

日本で、カロリー以外で太る原因としてよく言われるのが・・・

バランスを欠いた食事
・ファーストフード、ジャンクフード
・糖質(炭水化物)の摂り過ぎ
・野菜不足
生活のリズムの乱れ(不規則な生活)
・遅い夕食
・朝食または昼食を抜く
・間食の有無

などですが、どれか1つだけでは腸内飢餓のメカニズムは起こりにくく、3つの要素(+1)が同時に重なった時に、それは起こりやすくなると考えました。

その ”3つの要素” とは、以下のものです。

(1)何を食べるのか?
(2)次の食事までの空腹の時間
(3)その人のもつ消化力の強さ(胃酸、消化酵素など)

【何を食べるのか?】
野菜等の繊維質に乏しく、精製された炭水化物(デンプン)と消化の良いタンパク質(少量でも可)に偏った食事が一番太りやすい。食事中の脂質を少なくすると、消化が早くなるため腸内飢餓はできやすくなります。
決して食べる「量」ではなく、少なく食べていても、食べた物の「質やバランス」により太ることがある。

それに対し、野菜の食物繊維・乳製品・低G.I.食品・脂質・肉などを含むバランスの良い食事は腸内飢餓を起こりにくくする。
また、食べるスピード、噛む回数、食事中の水分摂取などもこの項目に影響を与える。


【次の食事までの時間】
朝食を抜いたり夜の食事が遅くなることを含め、不規則な生活が原因で太ったというのは、食事の間隔の問題です。
つまり空腹を長時間にわたり我慢していることです。

夜遅い食事が必ず太るわけではありません。もし食事が夜遅くになるのであれば、夕方にでも間食(チョコ、牛乳、サンドウィッチなど)して小腹に入れておくことで、腸内飢餓は防ぐことができます。

【消化力について】
胃腸が丈夫で消化する能力が高い人は、消化の遅い人に比べて、早く腸内飢餓をつくりやすくなります。腸内飢餓は、食べた量とは関係なく、腸全体での消化の進行具合で判断しているからです。
個人差があるが、胃下垂であったり、胃腸が弱い人は、腸内飢餓状態をつくることすら難しい場合があります。

もし肥満に遺伝的な要因があるとしたら、私は「消化力の違い」を、まず第一にあげるだろう。そして、それは人種間だけでなく家族間でも異なるかも知れない(もちろん消化力は後天的にも変わる)。

2.もう一つの重要な要素「+1」とは?

3要素以外にもう一つ重要な事を『プラス1』としましたが、それは「連続性」によって説明できます。どういうことかと言うと、今食べた食事の「前の食事」さらに「その前の食事」などをバランスの悪い食事や簡単な食事で済ませているか、否かです。

(朝食:和食の例)

つまり、昼食を簡単に「ハンバーガーとコーヒー」で済ませ、そして夜の9時まで一切何も食べられなかったとします。
しかし、朝食でしっかりと乳製品、サラダ、海藻、豆、バターなど食べていれば腸内飢餓メカニズムは起こりにくくなります。(注:もちろん個人差があります)

小腸

その理由は、腸全体が約7~8m(小腸は約6m)と長いために、食べ物が腸を移動するのに十数時間かかるからです(個人差があります)。

腸内飢餓は腸の全体(あるいは小腸のみ)で判断されているため、この様に、前の食事(さらにその前の食事)、間食の影響も受けます。
「3食きっちりと食べ、バランス良い食事が太りにく」と言われていますが、それは上記で説明したことの裏返しでもあると言えるでしょう。

2015.01.12

”太る” という言葉の2つの意味

目次

  1. 混同して使われていることが問題
  2. 現状維持の基点に戻る場合(A)
  3. 現状維持の基点がアップする場合(B)

先ず、この記事を読む前に
「一番優先されているのは現状維持」  をお読みください。

1.混同して使われていることが問題

普段、私達が何となく使っている『太る』という言葉には、2つの意味があると考えます。混同して使われているために、いろんな誤解が生じていると感じました。

例えば、
「カロリーをたくさん摂れば太る」し
「ダイエットして食事制限したにもかかわらず、リバウンドして以前より太ってしまう・・・」
というようなことです。

私は激痩せした時に気付いたのですが、これが理解されていないために間違った情報が氾濫し、大半の人が間違ったダイエットをしている。そして、これが理解してもらえれば、『食べても太らない』という人の理由もわかるはずです。
  

2.現状維持の基点に戻る場合(A)

まず1つ目は、現状維持メカニズムによる、設定体重(set-point weight)に戻ろうとする場合の『太る』です。

太っている(太り気味)人の多くは、太りたくないという理由から日々の摂取カロリーを減らしたり、運動したりして体重を低く抑えています。その場合、体は設定体重に戻ろうするので、当たり前ですが、カロリー制限を止めて以前の様に食べると太ります。(:一時的な過食によって、設定体重を超えて体重が多少増加する場合もあるが、その場合も設定体重それ自体は変化しておらず、体重の増加は一時的であると考えれる。)


「高カロリーな食品で太る・・・」

「お菓子やケーキを食べたら太る・・・」
と言われますが、ほとんどはこちらの意味です。

「私、食べたらすぐ太る体質なので~」という女性をたまにお見かけしますが、恒常性の機能により体重が戻ろうとするため、ミニダイエット & ミニリバウンドを繰り返しているだけです・・・。


▽俳優の渡辺徹さんは、元々は太っておられたらしいですが、”太陽に吠えろ” でデビューされた時はダイエットして70キロ台だったようです。しかし、結婚される頃(26才)には我慢しきれずガッツリ食べたら、130キロまで太られたそうです。(ダイエットをするたびに最高体重が更新したとも言われていますが、これは後で説明します)

その後、奥様の手料理で一時はマイナス40キロのダイエットに成功したものの、「90キロ➡ 120キロ➡ 85キロ➡ 95キロ➡ 83キロ➡ 101キロ」というように、ダイエットとリバウンドを繰り返されてたというのは有名です~。

(ビーカーに例えると、同じビーカーの中で水の増減を繰り返しているだけ・・・)

設定体重に変化なし

3.現状維持の基点がアップする場合(B)

これに対して、2つ目の『太る』というのは、現状維持の基点となる設定体重の値、それ自体が上がっていく場合です。

カロリーを気にして、食べる量を減らしているにもかかわらず、「この1年で3キロ太った・・・この3年で10キロ太った・・・」というように最高体重が更新していく場合です。

これらは食べる量や、摂取又は消費されるカロリー量に基づくのではなく、どちらかと言えば「空腹」(厳密には、私は『腸内飢餓』と定義しました)のメカニズムによると考えています。

【関連記事】➡ 私の言う、”腸内飢餓”の定義

 
例えば、これまで体重60キロを超えなかった人が、この1年で最高体重を更新し63キロになったとします。この場合、設定体重が60➡63キロになったということで、あなたの現状維持となる基準ライン自体が上昇したということを意味します。

設定体重がアップ

ダイエットしたけど、リバウンドして元の体重まで戻るのは現状維持メカニズム(A)ですが、元の体重より増えてしまうのはこちらの(B)のメカニズムです。それはカロリー制限ダイエットをしている時に腸内飢餓状態が生まれてしまう可能性があるためです。

一般的には「代謝が低下しているときに食べるから、より体重がアップするんだ」と言われていますが、太っている人の方が、基礎代謝が高いことは証明されています。

極論すれば、お相撲さんが太るのは(B)の腸内飢餓メカニズムと(A)のミックスであり、見た目には食べて太っていくように見えますが、ダイエットしたけど、逆に以前よりも太ってしまった人とメカニズム的には同じだと考えます。

【関連記事】➡ お相撲さんが太るのも、飢餓メカニズムと言える
   

2015.01.08

一番優先されているのは現状維持(設定体重とは?)

目次

  1. 人それぞれに現状維持的な機能がある
  2. 「設定値」理論との出会い

1.人それぞれに現状維持的な機能がある

まず体重に関する話を進めていくうえで一番大切なことをお話しますね~。
人にはそれぞれ、その時点での現状維持的な機能が働いているという仮定です。
この現状維持こそ、体重管理において、すべての前提にあるものであると考えています。

現状維持
例えば、3人の女性がいて、

(Aさん)48キロ・・・食べても太れない体質
(Bさん)58キロ・・・油断するとすぐに2キロ太ってしまう
(Cさん)85キロ・・・      〃

1年中を通して忙しい時は少し痩せたり、また食べてゆっくりすれば少し太ったり・・・を繰り返しているけど、細かなカロリー計算しなくても、人の体型ってそれほど変わらないものです。太っている人は太っているし、痩せている人は痩せている。つまり、人ぞれぞれに恒常性の機能に基づく安定的な体重があると考え、私は当初「基本体重」を以下のように定義しました。

基本体重 (Base weight) =過度な運動や仕事はせずに3~5日ゆっくりして、一日のエネルギー必要量に基づくカロリーを摂取したときに戻ってしまう安定的体重。

しかし、公式には証明・定義されていないものの「体重の設定値」「設定体重」という概念が一部の研究者の中で既にあること、また英語に翻訳した「base weight」は研究などで使用される「baseline weight (ベースライン体重)」 と紛らわしいことから、今後は「体重の設定値」又は「設定体重」を使用することとする。

 
この例の場合、Aさんの設定体重は48キロですが、Bさん、Cさんは油断するとすぐに戻ってしまう体重である、それぞれ60キロ、87キロが実際の設定体重と言えます。その体重に戻るように恒常性による現状維持の機能が働いいているということになります。

ですから、3人の体重をカロリー摂取量や消費量だけで規定するのには無理があり、Aさんが毎日、必要とするカロリーの100kcalオーバーの食事を何か月~何年も繰り返せば、それが脂肪として蓄積され、やがて60➡ 70➡ 80キロとなるというのは間違いです。(なる場合もありますがまたそれは別の理由で・・・)


一般的に、太っている(太り気味の)人はカロリー制限して控えめに食べて生活していることが多いため、普段の体重は設定体重より低く、痩せている人は普段からカロリー制限などしていないので、設定体重と普段の体重が近いと言えます。

その為、痩せているAさんは食べても体重は増えないのに対し、Bさん、Cさんは食べるとすぐに太ってしまう・・・ということが考えられます。(:一時的な過食により、設定値を超えてさらに体重が増加する場合もあるが、その場合の体重増加は一時的であり、設定値そのものに変化はないと考えています。)

【関連記事】➡「”太る”という言葉の2つの意味」

■私の好きなボクサーである長谷川穂積選手。
(第26代WBC世界バンタム級王者として10度防衛、第42代WBC世界フェザー級王者)

バンタム級は体重のリミットが53.5キロ。身体が成長するにつれ減量も過酷になり、防衛戦では1か月前後で10キロ以上の減量をしなければいけなかったそうです。しかし試合が終わり食べると、わずか数日で10キロ戻ると言われていました。

それくらい戻るスピードは早いんだなと思います。
今まで、ダイエットされてきた方なら少しは思い当たる節があるのではないでしょうか?

2.「設定値」理論との出会い

私達のほとんどは、日々のエネルギー摂取量、消費量を意識的に調整しているわけではありません。それにもかかわらず、個人の体重は比較的安定しています。

個人の体重の変動は6~10週間で 0.5 %程度に留まります[1,2](Khosha and Billewicz 1964)。横断的データによると、長期間にわたる体重の変化は依然としてわずかで、糖尿病患者でさえも、5年間の体重変化係数は 3.7~4.6 %に留まると言われています[1,3](Goodner and Oglive 1974)。

1970年以降、世界的に肥満が増加している状況では、その体重変化係数はもはや正確ではないかも知れないが、痩せた状態を維持している人は多いし(特にアジア圏)、過体重や肥満の人でさえも、重いなりに、彼らの体重を何十年も維持しているのです[4]。つまり、日々の暮らしで多少の体重の変動はあるにしても、長期にわたり特定の範囲内に体重、体脂肪を維持しようとする体内の調整メカニズムがあるはずです。

近年では、人体の恒常性調整の役割が認識され、体はエネルギーバランスを制御する生理学的メカニズムを使用して、遺伝的および環境的に決定された「設定値」で体重を維持する[5]という証拠が増えつつあります。


個人が体重を減らすと、体は体組成の変化や食べ物の熱効果に基づいて予測されるよりも大幅にエネルギー消費量を低下させ、さらに、食欲を増進させるホルモン変化を誘発し、行動の変化を通じて食の嗜好を修正し、体重を設定値の範囲に戻すのです[6]

このフィードバックメカニズムは減量だけでなく、一時的な過食にも当てはまることが知られています[7]

減量の設定値モデル

私はこのブログを書き始めた時は、この体重の「設定値」に関する理論の存在は全く知りませんでしたが、私がずっと思っていたこととほぼ合致しました。設定値理論を理解することは、肥満の蔓延の防止、効果的な減量法の提案という観点から非常に重要だと考えています。

特に、1970年代からの肥満の世界的な増加原因を説明するには、(I)遺伝的・生物学的要因と、(II)環境・行動要因がどの様に組み合わさって体重の設定値が上昇するのかを理解することが必要だと思っています。私の腸内飢餓理論はそれに役立てると信じています。

詳しくは、以下の記事をご覧ください。

【関連記事】

  重要性を増す「設定値」理論:環境と行動要因とは?

<参考文献>
[1]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen.
「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.

[2]KHOSLA T, BILLEWICZ WZ. 「体重変化の測定」. Br J Nutr. 1964;18:227-39. 

[3]Goodner CJ, Ogilvie JT. 「糖尿病クリニックの患者における体重の恒常性」. 1974 Apr;23(4):318-26. 

[4] Gary Taubes.「人はなぜ太るのか」. 2010, Page 69.

[5]Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4. PMID: 35103583.

[6]Ganipisetti VM, Bollimunta P. 「肥満と設定値理論」. 2023 Apr 25. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2024 Jan–. PMID: 37276312.

[7]Bray GA.「体重増加の苦痛:食べ過ぎの自己実験」. Am J Clin Nutr. 2020 Jan 1;111(1):17-20. 

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