トピックス
2020.01.16
昔に比べ、なぜ現代人の方が飢餓状態であると体は認識するのか?
目次
- この50年で、私達の食事はどの様に変わったのか?
- 豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
- 歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない
1.この50年で、私達の食事はどのように変わったのか?
50年前と言えば、万博のあった1970年(昭和45年)、ちょうど私が生まれた頃である。高度成長の真っただ中だったと思うけど、食卓の風景は今(2020)とかなり違った気がする。
私の家は大阪高槻の山間部で農家(シイタケ栽培、米)だった。ニワトリも20羽ほど飼っていた。
朝の食卓には必ずと言っていいほど、ご飯に味噌汁、漬物があり、野菜の煮物や魚の干物などがあった。家族がそろってしっかり食事をしていた記憶がある。パンももちろん食べたけど、うちは父が力仕事だったから、ご飯は毎朝あったな~。
■食事風景が大きく変化した1970年代
私達の食事が徐々に変化していったのは、1970年以降だと思うんだ。
私は子供の頃、あまり連れて行ってもらった記憶はないけど、
マクドナルド(1971年~)、ケンタッキー(1970年~)などのファーストフード店
ファミリーレストラン(すかいらーく1号店:1970年)、牛丼チェーンなどが次々と出店。
セブンイレブン1号店(1974年)、その後コンビニエンスストアが全国に増えた。
カップ麺などのインスタント食品や冷凍食品が増加していった。
給食のパンに慣れた私達は、アメリカの思惑通り、ご飯よりもやパンなどの小麦製品を好むようになり、それに伴い、骨のある魚よりも肉や加工食品を好んで食べるようになった。
固いものよりも、柔らかい物を好むようになり、昔は定番であった、ヒジキや切干大根、金平、おからなども昔にくらべ食べなくなった。
野菜は柔らかくなるまで調理され、肉や魚もミンチやすり身などに加工され、食べやすく消化がよくなった。
(成人における肥満者(BMI25 以上)の割合は、男性では昭和 55(1980)年以降増加傾向にあり現在3割に達しており、女性では2割前後で推移してきた[厚生労働省資料より])
生活スタイルもデスクワークが増え、夜型の生活、朝食も食べない人が増えた。おそらく世間で肥満が増えていったのは、この頃からではないだろうか?(今では、100キロ級の女性を街中で見ることも珍しくなくなった。)
カロリー摂取量が増えたことが肥満・過体重の原因と思われるかもしれないが、1970年の国民の一日の平均カロリー摂取量は2210kcalであったにもかかわらず、2010年には1849kcalにまで減少しているのである。[1]
(参考文献[1]:香川靖雄, 「時計遺伝子ダイエット」, 2012, P15)
それよりも私の理論との関連で言わせてもらえば、現代の食事は、繊維質に乏しく、消化の良い精製炭水化物、加工された肉・魚製品、ファーストフードなどに偏ることが多い。組合せによれば、容易に腸内飢餓状態を作り出せるのである。
特に、一日2食(朝食又は昼食を抜く)、軽い昼食、遅い夕食などの食習慣の変化、又はダイエットによる食事制限などによって、多くの人が空腹を長時間にわたり我慢している状況下で、腸内飢餓が引き起こされやすくなるのです。
2.豊かな農耕時代に太らず、配給制下で太ったピマ族
同じような状況を説明するのに、配給制化で肥満が増えたピマ族を引き合いに出したい。引用するのは2回目であるが、この部分は非常に重要で、肥満・糖尿病すべての解決のキーとなるだろう。
(参考文献:「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
ピマ族というアリゾナに住む、アメリカ先住民を考えてみよう。ピマ族は1850年代を通じて極めて成功した狩猟者・農民であった。彼らは罠を仕掛けて獲物を捕まえたりすることに熟練していた。また彼らは、近くを流れるギラ川の魚や貝を食べ、畑ではトウモロコシ、豆、麦、フルーツなども育て、家畜も飼育していた。(略)
しかし1870年までにその地は他の移住者に荒らされ、ピマ族は彼らが言う「飢餓の時代」を生きるようになった。毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。
1901~05年に、この地を訪れた人類学者は、ピマ族が(特に女性)いかに太っていたかについて述べた。
この観察において注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の一つから、最も貧しい民族の一つになったばかりだったということだ。何がピマ族を太らせたにせよ、豊かさとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。(略)
なぜ彼らは、豊かな狩猟・農耕時代に太らず、配給になってから太ったのか?
おそらく答えは、摂取した食べ物の種類、つまり量よりも質に問題がある。(略)1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に、私達の多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にでなく、質的にであった。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス, 2013,「人はなぜ太るのか」, メディカルトリビューン, Page 27-9)
【関連記事】→「豊だから太るのか、貧困が太るのか?」
食事の面について言うと、1970年当時の日本人は、現代(2022)よりもいろんなものを食べたと思う。コンビニエンスストアなどなかったし、お母さんの家庭料理が基本で、季節によって異なるいろんな野菜や魚などの食材を食べた。
それに対し現代の食事は(全員ではないが)、消化の良い炭水化物と肉製品がベースで、食べる食材の種類が劇的に減った気がする。普段は多くの人が太ることを気にして空腹を我慢し、たまに贅沢をしてご褒美的に美味しいものを食べる。状況こそ違うが、腸の内部に焦点をあてれば、ピマ族が配給制下で現代食を食べるようになって太ったのと同じであると言える。
3.歴史上で新しい食べ物ほど、体には適さない
(「人はなぜ太るのか?」ゲーリートーベス著)
(「肉を食べるべきか、それとも野菜か?」からの引用)
ある食べ物が人間の食事の一部である期間が長いほど、それはおそらく有益で害が少ない(私たちはその食べ物に適応している)ということである。
そして、もしある食べ物が人間の歴史において新しいものであるか、最近になって大量に摂取するようになった場合、適応する十分な時間がなかった可能性が高く、それは害になる。(略)
ここでの疑問は「私達がおそらく遺伝的に適応している状態とは何か?」ということである。(略)
事実上、私達の遺伝子は、農業を1万2千年前に始める以前に、私達の祖先が採取・狩猟生活者として生きていた250万年の間に作られた。(引用以上)
(ゲーリ-・トーベス,「人はなぜ太るのか」, Page 182)
▽著者は、「炭水化物を大量に摂取する現代の食事は遺伝的に適合しておらず、肉やその脂身を食べることの方が遺伝子レベルでは私達に適合していて害が少ないのではないか」という趣旨でこの文章を書かれたと思う。
私は、飢餓メカニズムを説明するためにこの一節を引用させてもらいます。
もし神様が、『人々が食べ物にありつけない時のために体脂肪を蓄えれる』ように遺伝子の設計図を書かれたとしよう(そう考える方が理にかなっている)。
食べ物がすべて消化された状態をもって『食べ物のない状態』(飢餓状態)とされたのなら、イノシシの肉や木の実、固い細胞壁をもつ野菜、精白されてない穀物などを食べていた狩猟時代・農耕時代は、丸一日食事にありつけなくても腸の内部は完全な飢餓状態にはなりにくかったであろう(腸が7~8mと長い為)。
それに対し、現代のような、すばやく消化される食品(精白された米・小麦、デンプン、加工された肉・魚製品、ファーストフードなど)を多く摂る食事は、わずか半日でも組合せによっては飢餓状態になる場合がある。
すべて判断しているのは腸全体(又は第2の脳と言われる「小腸」)であり、腸の中では、昔よりも現代の方が、「食べ物がない」状態と認識される場合があると私は考える。
最後に
「日本の食文化は世界的に見ても健康的だ」と言われることがあるが、私はそれは最大でも2000年頃までの過去の遺物だと思う。今や伝統的な日本の食事形態は一般家庭から消えつつある気がしている。ファーストフードを食べて育った子供が、今や50代・60代になり、そしてその子供たちが30代になる。こうして約50~60年あれば(約2世代)、いとも簡単に伝統的な料理を食べる機会が薄れていき、食文化が劇的に変化するのだ。
そして食事の移行と共に、かつては多くなかった糖尿病、腎臓病、心臓病、癌、脳卒中などの病気が欧米と同様に増えてきているように感じる。
2019.10.23
寝たきりなのに、食べても痩せるのは?(病院・介護編)
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目次
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- 寝ていれば(動かなければ)太る訳ではない
- 『運動』は太る方向への力、『寝たきり』は吸収を低下させる
- もう一つの原因は『食事の摂り方』
<まとめ>
読者から、「お年寄りや病人がベッドで寝たきりなのに、食べても痩せるのはなぜでしょうか?」「ほとんど動いいていないから、カロリー消費は少ないはずなんですけど・・・」という主旨のメールを頂きました。
今回はそれについて書きたいと思います。
実は私の父も、平成29年の秋に体の硬直化と幻視が出て(私は薬のせいだと思っているのだが)、普通の生活からわずか4か月で「介護5」まで落ちてしまったんです。
昔は「塩をなめても働け・・・」と言っていた父が、今は食べて寝ての繰り返し。
施設での3回の食事は、お粥がベースだけどほぼ食べていますが、体重は、以前は60キロ台だったのが今は40キロ台になっています。(確かにお粥になり糖質なども減っていますが、それ以外の原因を書きます。)
1.寝ていれば(動かなければ)太る訳ではない
このブログを通して何度も言っているように、「カロリーの摂り過ぎ、運動不足が太る原因である」というメッセージそのものが間違っているのである。痩せるために「カロリーを減らしなさい、運動しなさい」というアドバイスがどれほどの間違いをおかして来たかはこのブログで再三説明している通りである。
【関連記事】ダイエット(カロリー制限)は、長期的にはほぼ成果なし
私も若い時に10日ほど入院したことがあるが、朝食も普段なら食べないような量がある。11時半にもなれば昼食が運ばれて来て、お腹もすかないのに、丸々1食ある。夕方5時半になれば「また飯~?」という具合で、何も動いていないのに食事ばかりが運ばれてくる。
もし、動かなければ太っていくのであれば、入院して3回食べている患者はどんどん太っていくことになるが、そんな事はない。普段から仕事で忙しくしていた人やダイエットをしていた人が、動かなくなって数キロ太ることはあるかも知れないが、それは私の言う基本体重(Base Weight)に戻ることを意味しているのです。
2.『運動』は太る方向の力で、『寝たきり』は吸収を低下させる。
『運動』は一時的にカロリーを消費したとしても、最終的にはむしろ太る方向の力です。
一方、病院・施設などで寝たきりになると、これと逆の状態になる訳です。体は動かさない(脳も使わない)から、栄養を摂り込む力(吸収力)は減っていきます。
植物で例えるなら、運動している時は ”太陽があたる” 状態で、寝たきりは ”太陽があたらない日陰の状態” です。その状態で肥料や水をいくら与えても十分に育ちません。
牛乳を例にとって説明すると、寝たきりの人が牛乳グラス1杯を3~5時間おきに飲んだとしても、カルシウムの吸収が増え、骨が強くなるわけではありません。むしろ運動したり、飲んでから何も食べずに8時間、9時間空腹で過ごす方が吸収はアップしていくのです。
以前、引用した部分だけど、もう一度引用させて頂きます。
<「人はなぜ太るのか?」ゲーリ・トーベス著より引用>
肥満治療をする臨床医の多くは、1960年まで、運動により減量できる、また座りっぱなしの生活は体重を増やすという考え方は幼稚だとして退けていた。肥満と治療の専門家ラッセル・ワイダーが行った1932年の肥満に関する講義では、「肥満患者たちがベッドで安静にすることでより多く減量し、その一方、極端に激しい身体活動は減量の速度を低下させる」と語った。
「運動をするほどより多くの脂肪が消費され、減量できるはずであるという患者の理屈きわめて正しいが、体重計が何の進歩も示していないことを見て患者はがっかりする」とワイルダーは述べた。(引用以上)
3.もう1つの原因は『食事の摂り方』
もちろん、70、80歳になってくれば、胃腸(消化、吸収)や体の様々な機能が低下してくると思います。そういう人達が、短い間隔で無理して食事を摂ることは "痩せる方向" にも働きます(もちろん、食欲が旺盛ですぐ空腹になる人は太るかもしれない)。
私が、ダイエットで正しく痩せるためには『空腹をつくらないように、野菜・脂質・肉類などを食べることが必要である』と説明しましたが、その状態になる訳です。以下、2つの点について説明します。
(1)”食べて、すぐ寝る” を繰り返すのが良くない。
まず皆さんも経験があるかも知れないけど、夜寝る直前に食べてすぐ寝ると、朝起きて胃腸がもたれているような経験はないだろうか?これは私の考えですが、立って動いているから、胃がスムーズに蠕動(ぜんどう)運動をして腸に食べ物を送るけど、ずっと寝ていると胃にたまりやすくなるのではないかと思うのです。
つまり胃下垂の人のような感じで、食べ物が胃に残ってしまうのです。胃に前の食事が残っている状態で、次の食事を摂ることを何度も継続して繰り返すと、間違いなく痩せていきます。
(2)脂質や繊維質を多量に摂るのはヘルシーではない
私は、老人ホームで食事をつくる仕事もしていたのですが、栄養士がつくる献立に対しいつも疑問に思うことがある。これも間違ったカロリーや栄養の理論に基づいている。
♦まず1つ目は、油脂を使う料理が本当に多い。
栄養士はカロリーの帳尻を合わすために、朝食から炒め物などを献立に入れることが多い(もちろん、昼・夕食も多い)。
健康な人でも朝から炒め物は食べないだろう。まして、胃腸の弱くなるご老人などに対しては、これらは、食欲を落とすだけでなく下痢などの原因にもなる。
また、ムース食などにしても、ソフトにするために油脂が加えられることがあるが、消化が悪くなり、胃腸の弱ってきた人には健康的とは言えない。
♦2つ目は、毎食たっぷりの繊維質の野菜や海藻類がはいること。
若い人でも食べないような量の野菜・海藻が毎食の献立に入る。特にキノコ、レンコン、ゴボウ、ヒジキ、小松菜、ブロッコリー、インゲンなどは定番である(ほぼ中国産などの冷凍だが)。
これは逆の見方をすれば、ダイエットする人に勧めているような食事なのです。ダイエットをしたい人にとってはヘルシーな食事かもしれないけど、消化する能力が衰えてくる老人に対しては必ずしもそうではない。
自分の意志で「食べたくない」と思う人は適度に残すのでそれほど影響はないが(そのため毎食大量の残飯)、他人の介助で食べるようになると、それも選択できなくなる。
私が30才の頃、祖父が病院に入院し寝たきりだった時、看護師がブロッコリーを口に押し込んでいたのを思い出すが、「なぜブロッコリー食べないといけないんだ・・・」と思っていた。
寝たきりの人のことを考えると、野菜などは少し減らし、消化が良くて栄養のあるもののほうがいいと思うんだ。
まとめ
施設・病院側の都合もあるのだろうが、朝食の提供は大体8時前で、11時半過ぎになると昼食。たった4時間も経っていないのに通常の食事。そして、夕食は5時半から6時前の提供。
胃腸の機能の低下してくる人が、このように短い間隔で油脂や繊維質の野菜をたっぷり摂ることは、体にとって良いこととは思いません。
まして寝たきりになると吸収率が低下し、胃腸の機能のさらなる低下に伴い、胃腸に食べ物がたまりやすくなる可能性があります。
(ある日の昼食)
動いていないから消費カロリーは少ないはずで、「(特に油脂などを中心に)カロリーを増やせば太るはず」という考えは、このブログで何度言っているように間違った理論に基づいています。体の調子が悪くなってきているから ”食べれない" のに、さらに脂質を加えると体調を悪化させる可能性があります(私たちが風邪の時に、炒め物・揚げ物を食べるようなものです)。
カロリーの摂取量よりも、他のいろんな条件が影響することを考慮すべきです。
余談
老人ホームで働いていて思うのは、『食べ残し』の問題に誰も無関心だということ。捨てるのが当たり前になっている。
1~2割の人は完食する人もいるけど、大半の人は年がいくと食べれないのだから、「量を少し減らして質を上げれば」といつも思うんだけど・・・。
栄養士や施設側が量や見た目にこだわるから、同じ料金でドンドン質が低下していっている。
また給食会社なども苦労しているだろうが、わずか1人3食あたり、1300円前後の委託料の中で、材料費や調理師、パートの給与も払わないといけない。当然、中国産の冷凍野菜や、あまり聞いたこともない魚(シイラ、バサ、アブラカレイ etc)、安物の輸入肉などどんどん質の悪い材料にシフトしていく。美味しくないから、お年寄りも食べなくなる。これって私達の未来や環境を考えた時にいいことだろうか?
2019.07.27
多因子疾患としての肥満:環境要因における交絡因子
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目次
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- 「過食するから肥満になる」は単純すぎる
- 環境的・行動的要因の特定は可能か?
- 腸内飢餓は「交絡因子」と言える
<まとめ>
1.「過食するから肥満になる」は単純すぎる
アメリカで2012年に1143人の成人を対象に実施したオンライン調査 (ロイターと市場調査会社イプソスが実施)では、米国の成人の61%が「食事と運動に関する個人の選択」が肥満の蔓延の原因であると考えていることがわかった[1,2]。 肥満になる人は「意思が弱く、食べ過ぎて運動不足だ」と多くのアメリカ人は未だに信じているということである[2]。
日本でも同様に、ニュース番組のアナウンサーや専門家でさえ、「食べ過ぎて、運動しなければ太るのは当たり前ですが・・・」というような発言を繰り返していることから、多くの日本人もそのように信じている可能性が高い。
しかし、科学的研究は「個人の選択」が肥満のあらゆるケースの原因ではないことを示唆している[2]。
養子縁組研究、家族研究、双子研究などに基づく古典的な遺伝学研究によると、BMIの分散(遺伝率の推定値)の約50~70%は遺伝によるものであると言われている(その推定値は、研究デザインや評価方法で異なる)[3]。
(注:私は「子供が、別の家庭環境で育てられることは、必ずしも体重の設定値を変化させる環境変化ではない」ことを、以下の記事で説明しています。)
【関連記事】
親子の体型が似るのは遺伝か、生活環境か?
現代でも肥満の遺伝率は40~70%と推定されている[4]。
一部の研究者は指摘する;多くの異なる遺伝子が、食物の選択、食物摂取、吸収、代謝、身体活動を含むエネルギー消費に関与していることが判明しており、さらに遺伝子同士または遺伝子と環境の相互作用も考慮すると、体重調整の根底にあるメカニズムの複雑さはさらに増すのだと[3]。
1998年に出版された米国国立衛生研究所(NIH)の報告書 において、当時の専門家たちは、「肥満は遺伝子型と環境との相互作用から発症する、複雑で多数の因子が関与する慢性疾患である」と説明した。(ゲーリ・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」.Page 87)
2012 年、米国臨床内分泌学会(AACE) も肥満を慢性疾患として指定した。
まず、他の慢性疾患と同様に、肥満の病態生理は複雑で、遺伝子、生物学的要因、環境、行動が相互に作用していること、次に、肥満は疾患を構成する米国医師会が定める3つの基準を満たしていること、が指定の根拠とされている。
いう[5]。
2.環境的・行動的要因の特定は可能か?
人類全体としての遺伝子が50年、100年という短いスパンに大きく変化することはおそらくないであろう、ということを前提にすると、1970年以降の肥満の世界的な増加傾向は環境的、行動的要因に帰するところが大きいと私は思っています。それについて、もう少し詳しく見ていきたいと思います。
私のブログとも関連する興味深い記述があったので引用します。
(「The Obesity Code」より引用)
体重が増える原因は何だろう?
これまで実に様々な説が提唱されてきた。
カロリー / 褒美としての食 / 糖分 / 精製された炭水化物 / 睡眠不足 / 小麦 / ストレス / 食物繊維不足 / 脂肪分 / 遺伝的性質/ 赤身肉/ 貧困 / 裕福さ / 乳製品 / 腸内細菌 / スナック / 子供の頃の肥満
こうした様々な説が飛び交い、あたかもが互いに両立することなく、肥満の真の原因はたった一つであるかのように争っている。
例えば、最近、巷をにぎわせている「低カロリーダイエット」と「糖質制限ダイエット」をめぐる論争では、どちらかが正しければ、もう一方は間違っているだろうと考えられている。肥満に関する調査のほとんどは、こうした考えに基づいている。
だが、この考え方は間違っている。なぜなら、どの説もいくらかの真実味を含んでいるからだ。(~略~)
(ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 130-131)
おさらいだが、肥満は 「多因子的な疾患」 である、ということを理解しないことが、決定的な間違いである。肥満の原因はただひとつではない。
私たちに必要なのは、様々な因子がどのように絡み合っているのかを理解するための枠組みであり、仕組みであり、筋の通った理論である。現在の肥満理論では、「真の原因は ただひとつで、そのほかのものは偽りの原因である」とされることがほとんどだ。結果として、議論が果てしなく続く。
「カロリーを摂り過ぎると肥満になる」
「いや、炭水化物を摂り過ぎるから肥満になるのだ」
「いやいや、原因は飽和脂肪酸の摂り過ぎだ」
「 赤肉の食べ過ぎだろう」
「いいや、加工食品の食べ過ぎだ」
「いや、小麦の摂り過ぎだ」
「いやいや、糖分の摂り過ぎだ」
「いや、外食がいけないんじゃないか」
・・・こうして、議論は尽きない。どの主張も、部分的には正しいのだから。
それぞれのダイエット(例えば、カロリー制限、低脂質、パレオ、ビーガン)は、別々の側面から肥満の解消に取り組んでいるだけで、どのダイエットにも効果はある。だが、どれも「肥満全体」に対する対処法ではないために長くは効果が続かないことに注意しよう。肥満が ”多因子性” のものであることを理解しないままでは、互いに非難しているだけで終わってしまう。(引用以上)
(「The Obesity Code 」. Pages 360-361.)
肥満の多因子性についての著者の指摘は鋭いと思う。「過食するから太る」というような単純なものではなく、肥満はいろんな要因が複雑に絡み合って起こるということを、私達はまず理解しないといけないのである。
しかし私が言いたいのは、私の腸内飢餓の理論を元にすると、複雑な環境的・行動的要因はある程度集約できると思っています。
どういう事かと言うと、私達が目にする、肥満原因としてしばしば非難される要因は複雑に絡み合っていて説明がつかないこともありますが、目に見えない「腸」の部分にフォーカスすると、かなりクリアになるということです。
3.腸内飢餓は「交絡因子」と言える
まずおさらいですが、”太る”という言葉に2つの意味があるということを理解して下さい。多くの人が言う、「多く食べて太る」というのは、下図の(A)の部分です。
また、これまでの肥満に関する介入研究のほとんどは、摂取カロリーを減らすか、糖質・脂質の摂取量を調整したり、又は運動を増やしたりする比較研究だと思うのですが、彼らがやっている実験は、同じく(A)の部分です。
もちろん個人差はあれ、摂取カロリーを減らし、運動を取り入れれば、誰でもいくらかは痩せるであろう。
しかし、それは著者が言われるように、肥満に対する根本的な対処法ではないためにリバウンドはつきものという訳です。
▽それに対し(B)の設定体重がアップする時(腸の飢餓のメカニズム)に、いろんな要因がかかわってきます。
例えば、朝食抜き/ 遅い夕食/ 食事回数/ 精製された炭水化物/ 加工食品/ 食物繊維の摂取不足/ バランスの悪い食事、などは肥満の一因と言われますが、それは図の(B)の部分に関連することです。
ここで大切な事は、上記の因子1つ1つは肥満とは関連しているように見えても、両者の間に直接的に肥満を引き起こす『因果関係』がある訳ではありません。むしろ、これらは腸内飢餓に影響を与える因子であり、肥満と因果関係があるのは腸内飢餓であると考えます(この場合、腸内飢餓が「交絡因子」と言えるかもしれない)。
これらいくつかの条件が組み合わさって腸内飢餓が起こるのであり、目では見えない7~8メートルもあると言われる腸全体(又は小腸)の部分においては、かなりの割合で、ピンポイントで決まると言えます。
【関連記事】→ 腸内飢餓をつくる(3要素+1)
まとめ
(1)肥満がどのように、そしてなぜ起きるかについての私たちの理解は未だに完全ではない。肥満は、他の慢性疾患同様、その病態生理は複雑であり、遺伝子、生物学的要因、環境、行動の相互作用が関係している、という考え方が社会で受け入れられつつある。
(2)太る原因だとしばしば非難される多くの要因(例えば、精製炭水化物、加工食品、脂質、朝食抜きなど)は、別々の側面から議論されているだけである。研究者は自分の研究分野(例えば、レジスタントスターチ、朝食を食べることの価値、糖質制限の効果、ホルモン、腸内細菌など)には精通しているかも知れないが、それは必ずしも肥満全体をとらえていないので、一つ一つの理論が一人歩きしてしまうことがある。
今私達に必要なのは、一つ一つの理論がどの様に絡み合うのかという枠組み(フレーム)であり、その点から、私の理論は役に立てると考えている。
(3)肥満の根本原因は、「設定体重」の部分が高くなっていることであり、それは腸内飢餓によって引き起こされると考えています。
腸内飢餓は「私達が食べる物」や食習慣(朝食抜き、遅い夕食、食事回数など)と密接に関係し、体重増加(結果)にも直接的に影響するため「交絡因子」と言える。
つまり、私達の見ることのできない腸の内部の動きに焦点をしぼると、体重増加の原因はより明確になると私は考えています。
<参考文献>
[1]Begley S. America's hatred of fat hurts obesity fight. Reuters. May 11, 2012.
[2]Jou C. 「肥満の生物学と遺伝学 — 1世紀にわたる研究」. N Engl J Med. 2014 May 15;370(20):1874-7.
[3]Speakman JR, Levitsky DA, Allison DB, et al. 「セットポイント、安定点、およびいくつかの代替モデル」. Dis Model Mech. 2011 Nov;4(6):733-45.
[4]McPherson R. 「肥満の遺伝的要因」. Can J Cardiol. 2007 Aug;23 Suppl A(Suppl A):23A-27A.
[5]Garvey WT. Is 「肥満や脂肪に蓄積による慢性疾患は治療可能か?;セットポイント理論、環境、医薬品」. Endocr Pract. 2022 Feb;28(2):214-222.
2019.04.05
正しく痩せるためには2段階のプロセスが必要(体重の設定値)
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<目次>
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- 『痩せる』にも2通りある
- 体重の設定値を下げるには?
- 具体的な食事法は?
- 低炭水化物ダイエットとの違い
- 2ステップの意味
- 健康上のメリット
<まとめ>
- 『痩せる』にも2通りある
これはダイエットブログではないのですが、太る理由を書いている以上、痩せる方法も必然的に分かるはずであり、書く必要があると感じてきました。私が書くのをためらった理由は、実績が少ないことですが、今回は、私の考える「正しく痩せる」ための理論のみを書きたいと思います。
1. 『痩せる』にも2通りある
「太る」という言葉に2通りの意味があるように、「痩せる」という言葉にも2通りの意味があります。
【関連記事】→「”太る”という言葉の2つの意味」
(1)リバウンドする場合
1つ目は、従来のカロリー制限ダイエットのように、食べる量を減らしたり運動を増やすダイエット法です。この方法では常に空腹を我慢しなければいけません。
人体には恒常性の機能があると考え、その安定的な体重を説明するために、体重の「設定値」理論を使用します。
食べる量(摂取エネルギー)を大幅に減らし体重が減少すると、体はエネルギー危機と認識し、エネルギー貯蔵量を維持しようとする身体の保護代謝メカニズムが働き、エネルギー消費量は予測を超えて大幅に低下します[1,2]。加えて、私の考えでは、空腹が長時間続くことで、体は最大限に栄養を摂ろうとするために吸収率はアップするのです。
さらに、食欲を刺激するホルモンの分泌が増え、満腹ホルモンの分泌は抑制される[3]。あなたは、無性に食べたくてたまらなくなります。ほとんどのケースで体重の減少は長続きせず、やがてリバウンドして元の体重の範囲に戻ります。
つまり、減量を維持しようとすると、代謝、神経内分泌、自律神経、行動の変化の強調的な作用を伴う適応反応が引き起こされ、減量した体重の維持に対する強い「抵抗」にあうのだ[4]。
【関連記事】 ダイエットは長期的には成功なし
(2)『設定体重』 そのものを下げる
私は、肥満の問題は、体重の「設定値」が通常より高くなっていることだと考えています。
(1)でも示したように、肥満者もカロリー制限の食事療法に代謝的抵抗を示すことから、肥満は一部の人にとって自然な生理学的状態であると考えられています[5]。動物実験研究も同様に、肥満を高い設定値での体のエネルギー調整状態とみなす見方を示唆しています[5]。
よって、正しく痩せるためには、現状維持のベースとなる体重の「設定値」そのものを下げることが必要になるのです。これに関連する文献を引用します。
”体重や肥満に関しては『設定値』というものがあると考えられているが、肥満の問題点は、「設定値が高くなっている」ということにある。(略)
長年にわたる研究で分かったことが二つある。
一つは「どんなダイエット法も効果的であるということ」。
もう一つは「どんなダイエット法も効果的でない」ということ。
どういうことかと言うと、地中海式ダイエットもアトキンス・ダイエット(糖質制限)も低脂質、低カロリーダイエットも、短期的には体重はおちる。それはそうだろう。摂取量を控えているのだから・・・。
しかし、しばらくすると体重は減らなくなり、その後、無常にも増え始める。(略)こうしてどんなダイエット法も失敗する。実は半永久的に体重を減らすには「2段階のプロセス」が必要だ。肥満には「短期的な問題」と「長期的な問題」がある。”(引用以上)
(参考文献: ジェイソン・ファン. 2019.「The Obesity Code 」. Pages 120, 358.)
2.体重の設定値を下げるには、どうすべきか?
「The Obesity Code 」の著者 Fung氏が言われる「長期的な問題」とは、体重の設定値が高くなった根本的な原因に対処し、体の抵抗メカニズムを呼び起こさず、設定値そのものを下げることだと私は思っています。
具体的には、空腹を我慢するのではなく、むしろ、繊維質の豊富な食品や消化に時間のかかる食品をより多く食べ、空腹感を減らすことで、体重の設定値を徐々に下げることができると考えます。なぜなら、私の理論上、設定体重の上昇を意味する体重増加の原因の大半は、腸内飢餓のメカニズムによるものだと考えているからです。つまり、その逆を行うことが必要なのです。
今の時点では完全には説明できないですが、野菜・豆・乳製品などのように栄養が豊富で、消化されていない食べ物が腸の中に沢山残る状態は、体にとって「食べ物がまだたっぷりある」というシグナルとなり、その結果、体は危機とは認識せず、代謝、神経内分泌(ホルモン)などの抵抗メカニズムを呼び起こさないと考えています。
そして、空腹感が減ることによって食欲は低下し、吸収率が徐々に落ちていきます。やがて、視床下部を中心とした脳と臓器、末梢組織の協調的な作用により体脂肪は減っていくのではないかと推測します。
■食べて吸収率が落ちるというのは分かりにくいかも知れませんが、例えば、おにぎり1個とオレンジジュースを食べるのを想像してください。
腹ペコの状態で食べれば血糖値は急激に上がるのに対し、バランスの良い昼食を終えた3時間後に食べれば、血糖値はそれほど上がらないのではないでしょうか?
お酒を飲みに行く時でも、10時間近く何も食べないで腹ペコなら、酔いが早く回るかもしれないけど、例えば昼食をしっかり食べ、飲む2時間前にアイスクリームを食べておけば、酔いの回りは遅くなるはずです。
つまり空腹感を減らすように、消化に時間のかかる食品を食べ続ければ、吸収率は落ちていくはずです。
3.具体的な食事法は?
ポイントは、炭水化物を減らし、逆にお肉、魚、油脂、繊維質の野菜、海藻、ナッツ、乳製品などを増やし、空腹でいる時間を減らすことだと考えます。(少しお腹が減ったなと思ったら何か食べる。食欲がなくても規則正しく食事する。)
実際には、2つの方法があると思っています。
(1)実際に、食事の改善を中心に行う方法
♦炭水化物(ご飯、パン、麺類)の量は1/2~2/3程度に減らす。
♦玄米、全粒粉パン、冷ましたご飯(澱粉が難消化性に変化するので)、アルデンテパスタ、などのG.I.値の低い炭水化物をなるべく摂る。
♦炭水化物以外の食品(肉、魚、油脂、乳製品、ナッツ、野菜、海藻など)はむしろ増やす
♦加工食品、ファーストフード、スナック類をなるべく避け、加工度の低い食品を優先する。
♦最低限、一日3回の食事をし、食間に空腹感があるなら、間食をしてもよい。
♦もちろん、ランニングやジムでの運動と組合わせてもいいが、カロリー消費が目的ではないので、運動の前後に牛乳などを飲んだ方が良い。
<脂質について>
脂質は、私たちにとって大切なエネルギー源でもあるし、同時にある人にとっては太る原因でもあると思いますが、食べ方によってはダイエット効果がある食べ物であると私は考えます。
脂質がもともと ”太る” と考えられたのは、1gあたり9kcalとエネルギー密度が高いからですが、脂質は特に消化に時間がかかるため、頻繁に摂取すると満腹感が持続し、痩せる効果も発揮します(もちろん、人によって異なる)。
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(2)消化酵素の働きを鈍くする。
また、いくら食べてもすばやく消化し満腹感を感じにくい人には、(1)の方法は効果が薄い可能性があります。中には、カロリーが増えた分むしろ太ってしまう人もいるかもしれません。
私の理論では、「設定体重が高い」ことは、栄養の吸収効率が高まっていることと関連があると考えています。加えて、肥満度が高くなるにつれて痩せるのが難しくなるのは、彼らは消化するスピードが早く、そんなに簡単に吸収率が落ちないことが原因だと思っています。したがって、(1)の方法が理論的に必ずしも誤っている訳ではありません。
その場合は、食事の改善と併せて、例えばですが、脂質や蛋白質に対する消化酵素の働きを鈍くする薬や、食欲を低下させる薬などがあれば役に立つかもしれません。胃腸の働きを鈍くしたり、消化する能力を逆に落とすことで、未消化な物質が腸内に多く残るようになり、(1)と同じ効果が得られると考えます。(もちろん、医師の処方の下で行われるべきです。)
4.低炭水化物ダイエットとの違い
ケトジェニックダイエットのように炭水化物を極端に減らすことは、お勧めできないが、低炭水化物ダイエットと結果的には似た食事法になると思っています。
低炭水化物ダイエットでは、「インスリン分泌を促す炭水化物が体重増加の原因であり、これを制限する代わりに、タンパク質と脂肪が豊富な食べ物は、カロリーを補うためにも自由に食べてかまわない」されています。
しかし実際のところ「食べてよい」ではなく、長期的に体重を落とすためには「食べないといけない」のです。
肉・魚・油脂なども同様に減らせば、従来のカロリー制限ダイエットと同様に空腹を我慢することになり、これまでの研究が明らかにするように、そのようなダイエットは上手くいきません。
私の理論上は、炭水化物は腸内飢餓を引き起こしやすくするという、あくまでも間接的な肥満の原因です。ポイントはあくまで、消化の良くない食べ物を多く摂り、未消化物を腸内に多く残すことによって、空腹感を抑えるということなのです。
ですので、必ずしも炭水化物が悪いわけではないのですが、食事中の炭水化物を減らしたほうが、より効果的であると考えているのです。もちろん、即効性のエネルギーとなるグルコースを減らすことで、短期的に痩せるスピードが早まることもありえます。
5. 2ステップの意味
これまで食べるのを我慢してダイエットしてきた人にとっては、少なくとも摂取カロリーは増えるかもしれない。だから「多く食べて痩せる」というのは胡散臭く聞こえるかもしれません。しかし、これは摂取カロリーを減らすことは最終的なポイントではないのです。
♦短期的には、カロリー制限ダイエット程の極端な体重減少はないかもしれないが、摂取カロリーを少し減らしながら、消化の良くない食べ物を多く食べて空腹感を減らすことで、体重が少しづつ減る可能性がある。
♦長期的には、それを継続することによって、「食べ物が十分にある」というシグナルが浸透し、視床下部を中心とした脳、臓器、末梢組織との相互作用により[6]設定体重それ自体が下がり、リバウンドしにくい体になるのではないかと考えます。
つまり、正しく痩せるためには「2段階」のプロセスが必要なのです。
現在のところ、体重の設定値に理解を示す一部の研究者でさえ、肥満は治癒不可能な慢性疾患であるとの認識を示す[7]。生活習慣介入と肥満治療薬は設定値を永久的に変更しないため、食事療法によって達成された減量は長続きせず、肥満治療薬による減量も、薬を中止すると体重がリバウンドしてしまうのだ[7]と彼らは言う。
しかし、私の考えでは、それはカロリーを制限する食事療法が根本的に間違っているからです。カロリー削減にフォーカスしたあまり、ダイエットといえば、好きなものも食べれず、空腹に耐えて辛いものと認識されています。このアプローチでは、体の抵抗メカニズムを呼び起してしまうのです。
6.健康上のメリット
また、体重がそれほど減らなかったとしても、健康上のメリットは計り知れません。
例えば、野菜や豆類、ナッツ、発酵食品、乳製品なども多少のカロリーを含みますが、それは全く心配する必要ないと私は思います。
多くの栄養士や腸内環境の専門家が言うように、それらの食品は、ビタミン・ミネラルを多く含み、腸内細菌を良好な状態にし、腸内環境を整え、免疫力を高め、血糖値の急上昇を抑えるなどの健康上のメリットの方が多く、生活習慣病の予防・改善にも役立つはずです。加工度の低い肉や魚介類にしても、蛋白質や脂質・ミネラルを含み、人体には欠かせない食材なのです。
まとめ
(1)「太る」という言葉に2つの意味があるのと同様に、「痩せる」にも2通りの意味がある。リバウンドしないためには、体重の設定値そのものを下げる必要がある。
(2) 設定体重を下げるためには、2ステップ必要です。
・短期的には、摂取カロリーを調整しつつ、精製炭水化物や超加工食品を減らし、それ以外の繊維質の豊富な食品や消化に時間のかかる食べ物を増やして空腹感を減らすことで、体重が少しづつ減る可能性がある。
・長期的には、それを継続することによって、「食べ物が十分にある」というシグナルが浸透し、脳、胃腸系、膵臓、脂肪組織などの相互作用により[6]設定体重それ自体が下がり、リバウンドしにくい体になると考えます。
(3) 肥満度が高くなるにつれて、食事療法だけでは痩せるのが難しくなる可能性があります。彼らは消化するスピードが早く、満腹感が得られないため、吸収効率が落ちないためと捉えています。その場合は、消化酵素の働きを鈍くしたり、食欲を低下させる薬などを肥満患者に投与することも、場合によっては効果的かもしれません。
(4) 大幅な体重の減少がなかったとしても、バランスの良い食品を規則正しく食べることは、健康の維持や生活習慣病の予防・改善に役立つと考えます。
<参考文献>:
[1]Hall KD, Guo J. 「肥満エネルギー学」.Gastroenterology. 2017 May;152(7):1718-1727.e3.
[2] Egan AM, Collins AL. 「栄養不足に対するエネルギー消費の動的変化:レビュー」. Proc Nutr Soc. 2022 May;81(2):199-212. doi: 10.1017/S0029665121003669. Epub 2021 Oct 4.
[3] Jason Fung. The Obesity Code. サンマーク出版, 2019, Page 121.
[4] Rosenbaum M, Leibel RL. 「ヒトにおける適応的熱産生」. Int J Obes (Lond). 2010 Oct;34 Suppl 1(0 1):S47-55.
[5]Richard E. Keesey, Matt D. Hirvonen. 「体重設定値:決定と調整」. The Journal of Nutrition, Volume 127, Issue 9, 1997, Pages 1875S-1883S, ISSN 0022-3166.
[6]Wilson JL, Enriori PJ. 「体重をコントロールするために脂肪組織、腸、膵臓、脳の間で対話する」. Mol Cell Endocrinol. 2015 Dec 15;418 Pt 2:108-19.
[7]Garvey WT. 「肥満や脂肪蓄積による慢性疾患は治癒可能か」. Endocr Pract. 2022 Feb;28(2):214-222.
2019.02.01
腸の飢餓状態でなぜ太るのか?
目次
- アフリカの飢餓と現代の飢餓
- なぜ飢餓状態で太るのか?
- 設定体重が高くなると何が起こるのか?
このブログの核心部分についてお話します。
おそらく、ほとんどの人にとって、私の理論を信じるのは難しいと思いますが、私は自分が経験した事実をありのままに書くだけです。
これは想像で書いたのではなく、実際に起こった事を自分なりに分析して書きました。私は大学に入学した時、30キロ台まで激やせしていたので、自分がなぜ急激に(2~3日で5キロ近く)太ったのか明確に分かったのです。
(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著 より引用)
”科学の歴史は別の解釈を示している。人々がこの仮説について1世紀以上考え、何十年も真偽を確認しようと試み、それでもなおそれが真実であると納得させるエビデンス(科学的根拠)が生み出せないとすれば、おそらくそれは真実ではない。(~略~)これは科学の歴史において、一見、理屈に合っていると思われる多くの考えのうち、一度も成功しなかったものの1つである。そしてすべてを再考し、どうすれば体重を減らすことができるのかを見つけ出さなくてはならない。”
(参考文献:ゲーリー・トーベス, 「人はなぜ太るのか」,メディカルトリビューン:2013, Page 66.)
1.アフリカの飢餓と現代の飢餓
飢餓に対する『蓄え』として体に脂肪を溜め込むという考えは、研究者なら誰でも一度は考えるのではないでしょうか?
しかし、この理論は歴史上では研究者から否定された考えだそうです。なぜなら、太っている人はよく食べる人が多いし、アフリカの難民は栄養失調で痩せているからです。
ある人は言うかもしれません。「もし飢餓状態で太るなら、アフリカの難民は太るだろ・・。」
しかし、これは食べたくても食べれないという本当の飢餓状態(栄養失調)であり、私の言う「腸の飢餓状態」とは異なることを理解してください。
アフリカの難民は消化のいい食べ物を食べれる訳ではないし、栄養失調になることで、消化する能力まで衰えてしまうのです。
それに対し、先進国の私たちの方が良質な栄養を摂り、消化の良い小麦、肉、卵などで作られた西洋化された食べ物を食べているのです。だから、腸の内面にフォーカスすると、私たちの方が腸内飢餓状態になりやすいと言えるのです。
現実問題として世界の貧困層でも肥満は問題になっており、そこに共通するのは、カロリーや砂糖の摂り過ぎではなくて、安価な炭水化物に偏った、栄養価の低くバランスの悪い食事(野菜不足など)です。
2. なぜ飢餓状態で太るのか?(植物を例に)
私のブログの中では、「腸内飢餓状態が起こることにより設定体重がアップする」 とお伝えしましたが、それが何を意味するのかを、植物を例にとって説明します。
(1)食べ物を食べて太るというのは、植物では「肥料を与える」ことによってなされます。肥料は私たちの食事に相当し、もちろん、定期的に与えなければなりません。
しかし、たくさん与えたからといって植物が大きくなるわけではないです。むしろ頻繁に与え過ぎると逆効果のときもあります。
それは人間でも同じで、多く食べたからと言って、全員が太る訳ではありません。1日1食でもバランス良く食べれば、腸の中にはまだ十分吸収できる栄養素はあります。
(2)腸内飢餓を引き起こし、設定体重がアップすることによって太るというのは、「植物の根が伸びてより多くの栄養を取り込む」ことを意味しています。(下図)
植物は栄養がない時に、栄養を求めて地中深くに根を張りますが、我々人間も7~8mあると言われる腸全体(又は小腸)ですべての食べ物を消化し腸内飢餓状態が生じれば、同じような現象が起きます。
(「小腸は第2の脳である」とか「意思がある」と言われますが、私は小腸の意思をはっきりと感じました。)
■実際、腸のヒダにある絨毛(ジュウモウ)(注1)が伸びる訳ではありませんが、以下の事象が起こると考えています。
(注1)より多くの栄養を吸収するため、小腸内部の表面はヒダ構造になっており(図1)、その表面には無数の絨毛と呼ばれる突起物が、絨毛の表面にはさらに微絨毛が発達しています。すべて広げると、腸内部の表面積はテニスコート1枚分以上ともいわれます。
まず、腸(特に小腸)は「食べ物があるかないか」を感知する最初の器官であると私は考えますが、それはエネルギー量を元にしているのではなく、食べ物がどの程度消化されたかという消化の進行具合で判断されている(そのため、食事量が多くても、消化の良い炭水化物などに偏れば腸内飢餓は誘発されうるのです)。
繊維など含め、未消化の物質が腸内にある程度残っている時は、空腹であっても「まだ食べ物がある」というように体は認識するが、すべての食べ物が消化された時(又はそれに極めて近い状態で)、「食べ物がない」というシグナルが腸(小腸)から脳に伝達される。
すると、体はより多くの栄養を吸収しようとし、小腸の絨毛(又は微絨毛)に付着する微細な物質が剥がれ(図2)、吸収する面積が広がることによって、絶対的な吸収率がアップします。
これによって、体重の設定値そのものの上昇を示唆する体重の増加が起こり、わずか3~4日でより高い設定値での平衡状態に達する。
つまり、体重の増加は過剰なカロリーが少しづつ蓄えられるのではなく、普段は一定の設定体重を保っているが、ある時に300gか 500 gかは分からないが、一気にジャンプします(図3)。
まとめると、肥満の人と痩せている人の根本的な違いの1つには、吸収能力が大きく関与しているというのが私の考えです。
【関連記事】
重要性を増す体重の「設定値」理論
日本では、肥満者自身が「私は水を飲んでも太る体質だ」というように表現することがある。もちろん水だけで太る訳ではないが、私はあながち間違った表現ではないと思う。それくらい肥満者の吸収率がいいということを表しているのだ。
3. 設定体重が高くなると何が起こるのか?
(1)一度太ると痩せにくくなります
体重の設定値がアップして体重が増えるというのは、 「入るエネルギー/ 出るエネルギー」の観点から言うなら、釣り合うポイントがアップしたということであり、よりポジティブなエネルギー循環が生まれることで、痩せるのがさらに難しくなる可能性があります。
ダイエットで、一時的に食べる量やカロリーを減らすというのは、植物の例で言うなら「与える肥料を減らす」ということですが、それは一時的な減量であって、また普通の食事に戻れば元の体重まで戻る可能性が高いでしょう。
さらにダイエットする度に、リバウンドして以前より体重が増えてしまうというのは、食事を抜いたり少なく食べて、空腹を長時間も我慢するダイエットでは、腸内飢餓状態ができやすくなり、設定体重がさらにアップしていく可能性があるのです。
(2)筋肉も同時につく
体脂肪がついた後にそれを支えるために筋肉がつくのではありません。栄養全体の取り込みがアップするので、体重の増加は、少なくともある程度までは、体脂肪だけでなく、筋肉など徐脂肪組織の増加も伴うと考えています。
太っている人が体脂肪を落とすと、胸板や太ももが厚く非常に筋肉質です。体脂肪がついたのちに、その重さを支えるために胸板や首回りの筋肉が厚くなるでしょうか?(もちろん、これは人によって差異がある。)
(3)原因と結果が逆転する
タンパク質も含めて栄養全体の取り込みが増えることによって、エネルギーのポジティブな循環が生まれ、以下の現象が起こると考えます。
消化酵素、ホルモンなどもタンパク質(アミノ酸)からできるので、消化する能力がアップし、食欲などをつかさどるホルモン系統に変化をもたらす可能性があると考えています。だから体の大きい人、胃腸の丈夫な人が他の人より多く食べたからといって、不思議ではありません。
多く食べるから太るのではなく、体が大きくなればなるほどお腹がすく、だから多く食べてしまうという原因と結果の逆転現象が存在します。
【関連記事】→ 太った後に、過食し運動しなくなった
(4)太りやすい人はより太りやすく、痩せている人は太るのが難しい
もし全員が同じように食べたとしても、体の大きい人・太っている人のほうが空腹を我慢していることが多く、体の大きさを考慮すると、相対的に少なく食べていることになり、徐々に太りやすくなる傾向があります。
適度に多く食べても太るし、食事を抜いて空腹を我慢していれば、長期的にさらに太りやすくなるという悪循環におちいる場合があります。
【関連記事】 相対的に少なく食べている、とはどういうことか?
逆に痩せている人が、毎日3食ある程度のバランスをもって小まめに食べれば、腸内飢餓状態はできにくく、摂取カロリーに関係なく一生体型が変わらないことの方が多い。よってこの点に関しては、「太りやすい体質」「太らない体質」というのは、肥満遺伝子などではない。
また私のようにすごく痩せている人にとっては、痩せることにより摂り込める蛋白質・栄養素なども減り(私は今でも貧血気味である)、ネガティブなエネルギー循環が続く。胃腸を支える筋肉が減少することにより胃下垂になったり、十分な消化酵素が分泌されないことによって、消化する能力も低下してしまう。
結局、痩せた人は痩せたままでいることになり、これが痩せすぎの人にとっての悪循環である。