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2016.08.20
人はなぜ太るのか?【ゲーリー・トーベス】/【岡田 正彦】
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- 「人はなぜ太るのか?(そして、どうすればいいか)」ゲーリー・トーベス著
- 「人はなぜ太るのか?(肥満を科学する)」岡田正彦著
- 「人はなぜ太るのか?(そして、どうすればいいか)」ゲーリー・トーベス著
この2冊を読みましたので、その簡単な内容紹介と私の感想を書きたいと思います。
タイトルは似ていますが、中身は・・・というと対照的な内容でした。
1.「人はなぜ太るのか?」 【ゲーリー・トーベス著】(2013年)
【著者紹介】 Gary Taubes
『よいカロリー、悪いカロリー』の著者
カリフォルニア大学公衆衛生バークレー校で健康政策研究の研究員も務める。科学・薬学・健康に関する記事を雑誌サイエンス、アトランティック、ディスカバー、ニューヨークマガジンなどに執筆。
ハーバード、スタンフォード、コロンビア大学で学ぶ。
▽私はこの本に出合えたことに、心から感謝します。
著者が前作から10年以上費やしたと言われる通り、世界中の本やwebを探してもない内容がここにはあります。
私のブログと重なる点も多く、皆さんに紹介したいことが多数あったので、今後も引用させて頂くことになりそうです。
現在、広く普及した「私たちは消費するよりも多くのカロリーを摂取するから太る」(「入るカロリー/出るカロリー」説)という考え方がどのような歴史的背景の中で生まれ、反論する研究も数多くあったにもかかわらず、なぜ全世界に広く普及してしまったのか?
そして専門家が行ってきた、肥満治療(過食をやめさせること、運動をすること)で痩せない事実が多数あったにも関わらず、それが医学界では常識となってしまった経緯についても説明してあります。
著者自身は、肥満の原因はカロリーではなく『糖質(炭水化物)』であると考えておられ、糖質(炭水化物)制限を推進されています。
しかしその方法のみに固執せず、多方面から深く研究・考察されており、「読者に批判的に読んで欲しい」と言われるように、まだその研究が完璧でないことも示されています。
ともすれば、1世紀近くにわたり『肥満』の根本的な原因が解明されていないことに触れ、多くの肥満研究家のやってきた事が根本的に間違っているかもしれないという可能性まで示唆してあります。
(著書より引用)
科学の歴史は別の解釈を示している。
人々がこの仮説について1世紀以上考え、何十年も真偽を確認しようと試み、それでもなおそれが真実であると納得させるエビデンス(科学的根拠)が生み出せないとすれば、おそらくそれは真実ではない。(~略~)
これは科学の歴史において、一見、理屈に合っていると思われる多くの考えのうち、一度も成功しなかったものの1つである。そしてすべてを再考し、どうすれば体重を減らすことができるのかを見つけ出さなくてはならない。(引用以上)
2.「人はなぜ太るのか?(肥満を科学する)」 【岡田 正彦】(2006年)
【著者紹介】
新潟大学医学部卒業
同大学医学部教授、医学博士
米国学会誌などでの編集委員、学会誌『生体医工学』編集長など務める。
この本は、現在の医学の常識として分かっている範囲で、『肥満』についてわかりやすくまとめられていました。(肥満の測定方法、肥満にまつわる病気、痩せ方etc)
著者自身が、「多くのダイエット本とは一線を画し、学術論文と同じくらいに、間違いなく役に立つ情報をまとめた」と言われる通り、幅広い知識を得ることができ、読みやすい本でした。
内容は、今の常識がそうなっているように『カロリーの摂り過ぎ・食べ過ぎ』・『運動不足』が太るんだ、という考えに基づいて書かれています。もちろん、グリセミック指数や褐色脂肪細胞、肥満遺伝子、ホルモン(レプチン、インシュリン等)などのカロリー以外の原因についても幅広く説明してあります。
しかし、『人はなぜ太るのか?』という核心部分には触れていないと思いました。
脂質(脂肪)を食事で摂って、それが体脂肪になる過程は書いてあるが、ではなぜ私が太って、あの人は太らないのか(逆に、あの人が太って私は太れないのか)?という違いは説明されていないと思いました。
著者自身、「肥満には食事の影響(生活習慣)はもちろん、遺伝的な体質も大いに関係している。肥満は両者があいまって起こるものなのだ」と言われる通り、過食やカロリーで説明できないことは『遺伝的な体質だ』と言ってしまえば、誰も反論することはできない。しかし私が思うのは、カロリー神話を疑いもしない、そういう曖昧な考え方こそが間違った常識を根付かせているのだと思います。
2016.07.29
痩せるのに運動は必要ないとしたら
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目次
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<プロローグ>
- 健康のためには良くても、痩せるためにはどうなの?
- 運動の減量効果を疑ういくつかの理由
- エネルギー消費と摂取はリンクしている
- 「運動が減量に効果がない」というエビデンスは無視された
<まとめ>
プロローグ
「人はなぜ太るのか?」 【ゲーリー・トーベス著】より引用
"あなたが晩餐会に招待されたと想像してください。
あなたは夜の特別なメニューの為に、お腹をすかして行こうとします。その為に昼食を抜いたり、お腹をすかせる為にスポーツジムへ行ったり、マラソンしたり、歩いて会場まで行こうとするかもしれない。
私達が体重を減らそうとするときに行うこと、つまり『食べる量(カロリー)を減らす、もっと運動する』ことは、私たちの目的が、お腹をすかせること、食欲を増すこと、もっと食べたい時にとる方法と全く同じである。
今や、「もっと食べる量を減らし、もっと運動をしなさい」という半世紀にわたり繰り返されてきたアドバイスと同時に起きている肥満流行の存在は、それほどの矛盾ではないように思えてくる。"
(ゲーリ・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 48.)
1.健康のためには良くても、痩せるためにはどうなの?
(再び「人はなぜ太るのか?」ゲーリー・トーベス著より引用)
“座りっぱなしの行動が、食べる量と同じぐらいに体重の問題の原因になっていることは、今や一般的に信じられている。そして、私たちが太るにつれて心臓病、糖尿病、がんになる可能性は高まるため、一般に座りがちであると信じられている私たちの生活も、今やこれらの病気の原因と考えられている。
定期的な運動は、今日のすべての慢性疾患の予防に欠かせない手段と考えられている。
(略)身体活動が健康のためにはよいという考えは、今や私たちの意識のなかに非常に深く浸透し、健康とライフスタイルに関する異論の多い科学において、決して疑われるべきではない1つの事実だとしばしば考えられるほどである。
しかし、私がここで調査したい問題は、「運動が私たちにとって楽しいものか、健康なライフスタイルに必要なものであるか」ではなく、「運動は私たちが痩せている場合には体重の維持を、痩せていなければ減量を助けるものなのか」である。
その答えはノーのように思われる。
(略)カロリーを消費するほど私たちの体重は軽くなるという一般的な考えは、 究極的には1つの観察と1つの仮定に基づいている。その観察とは、「痩せた人はそうでない人よりも肉体的により活発な傾向にある」ということである。
これには異論がない。一般にマラソンランナーは過体重や肥満ではない。
しかしこの観察は、ランナーが走っていなければもっと太っていたかどうかや、太った男女が趣味として長距離のランニングを終日行うことで、痩せたマラソンランナーに変化するかどうかについては何も語らない。"
(Pages 49-50, 55.)
2.運動の減量効果を疑ういくつかの理由
従来のカロリー制限ダイエットに運動を加えても、あまり減量効果に差異がなかったという研究結果があるのですが、その理由を探ってみましょう。次の5点を挙げたいと思います。
【関連記事】「ダイエットは長期的にはほぼ効果なし」
(1)貧困層での肥満(再び「人はなぜ太るのか」より引用)
"米国、欧州、その 他の先進諸国において、人々は貧しいほど肥満である可能性が高くなる。 貧しいほど、頭脳よりもからだを使って生活費を稼ぐために、肉体的にきつい仕事に就く可能性がより高いことも事実である。
彼らがフィットネスクラブに通ったり、余暇の時間を次のマラソン大会のためのトレーニングに費やしたりすることはないかもしれないが、より裕福な人たちに比べて、彼らは畑や工場で使用人や庭師として、あるいは鉱山や工事現場で働く可能性がはるかに高い。
貧しいほど太っている可能性が高いということは、「日常生活で消費するエネルギーの量が太るかどうかになんらかの関係がある」とする主張を疑う非常によい理由の1つである。
前述したように、もし工場労働者たちや油田の労働者たちが肥満になるのならば、日常生活のエネルギー消費がそれほど大きな違いを生むと想像することは難しい。”
(Page 50)
(2)運動によって、より空腹になる
運動や力仕事をしたとき、デスクワークなどの座った生活よりも「空腹」を感じ食欲が増すというのは、多くの人が実感していることと思います。痩せたいがために運動をしたのに、その後に疲れてチョコレートなどの甘いものを食べてしまい、自らの意思の弱さや「自制心の無さ」を後悔した人もいるかもしれない。
しかし、それらは人間・生き物にとって正しいメカニズムであると考えるのです。この問題については、次のセクション「3」でより詳しく探っていきます。
(3)吸収率がアップする
有酸素運動か無酸素運動かにより、体脂肪減少などの効果は違うと言われていますが、いずれにせよ、運動で一旦消費されたエネルギーは、基本的に戻ってくるはずです。
私達が運動すれば、筋肉はエネルギーを必要とします。運動の強度によって異なりますが、主に血中のグルコース、筋肉に蓄えられているグリコーゲンや脂肪細胞からの脂肪酸などから、エネルギーは生み出されます。
もちろん、エネルギー消費量は一旦は増えますが、その後体は、消費されたものを補うために、より多くの栄養素を食べ物から吸収しようとするため吸収率がアップすると私は考えています。
「吸収率がアップする」というのは分かりにくいかもしれませんが、ひどい空腹の時や運動の後にお酒を飲むと、顔が赤くなったり、普段より酔いが早く回る経験をした人がいるかも知れません。
またお酒の飲めない人であれば、運動後に甘いものを摂取すると、血糖値がいつもより急激に高くなるかもしれません。
(4)その他の時間に動かなくなる
人は運動を増やすと、自然にそれ以外の生活で運動しないようになる傾向があると言われています。
例えば、30分のジョギングを終えた後、その疲れから結局ソファーで数時間くつろいでしまったり、普段よりも活動的でなくなる可能性もあります[1]。
(5)消費される体脂肪は僅か
体脂肪というのは備蓄型のエネルギーですから、すぐには使わないようにできています。ですから、筋肉に負荷をかける強度の高い無酸素運動の場合、開始から15秒程度は筋肉内に貯蔵されたATPやクレアチンリン酸がエネルギー源として使われます。その後、消費しているのは血液中のグルコースや、筋肉に蓄えられている即効型エネルギー源であるグリコーゲンです。
体脂肪が燃えやすいと言われるジョギングなどの有酸素運動でおいて、脂肪燃焼ゾーン(心拍数が最大心拍数の60-69%に保たれる低強度の運動)という概念がありますが、その場合でさえ、消費カロリーのうち脂肪由来は約50%と言われています。30分のジョギングで消費されるカロリーは200kcalだとしても、それがすべて体脂肪の減少につながる訳ではないのです[2]。
3.エネルギー消費と摂取はリンクしている
上記「2」で、運動後に吸収率がアップしたり食欲が湧くこと、運動以外の生活で動かなくなること、について説明しましたが、より科学的な説明を「人はなぜ太るのか」より再び引用します。
(「人はなぜ太るのか」ゲーリー・トーベス著より引用)
“摂取するよりも多くのエネルギーを消費することが、体重の問題を解決し、より体重を軽くすることができるという考えは、まさに熱力学の法則に関する、別の間違った仮説に基づいている。
それは「摂取するエネルギーと消費するエネルギーは互いに影響を及ぼさない」という仮説です。
私達は直感的に、これが真実ではないことを知っているし、動物や人間での研究で1世紀も前にこれは確認されている。
たとえば、自分自身を半飢餓状態におく人たちや、戦争、飢饉または科学実験で半飢餓状態におかれた人たちは、いつも空腹を感じる(不機嫌でうつ状態になることも)だけでなく、無気力でありエネルギー消費量も少ない。体温が低下するため、彼らは常に寒さを感じる傾向にある。それに対し身体活動を増やすと空腹感が増す。運動は食欲を増進させる。
(略)要するに、私達が摂取するエネルギーと消費するエネルギーは相互に依存している。
一方を変えると、他方がそれを補正して変わる。数学者たちは、お互いが独立した変数ではなく、従属変数であると言うだろう。(略)
これと違うことを主張する人はみな、複雑な生命体をあたかも単純な器械装置のように扱っている。
2007年、ハーバード大学 医学部長である、ジェフリー・フライアー(とその妻)は、雑誌Scientific American に「脂肪に燃料を注ぐもの」という論文を発表した。彼らは、食欲とエネルギー消費の密接な関係を述べ、この2つは人間が意識的に変えることができるようなものではないこと、またこの2つの補正の結果が脂肪細胞の増減を示すような単純な変数ではないことを明らかにした。”
(「人はなぜ太るのか」. Pages 88-9.)
4.「運動が減量に効果がない」というエビデンスは無視された
(引き続き「人はなぜ太るのか」より引用)
"結局のところ、私たちが消費するカロリーの量が私たちの肥満度に影響を与えるという考えを支持するエビデンスはごくわずかである。
2007年8月、米国心臓病協会(AHA)と米国スポーツ医学会(ACSM)が身体活動と健康に関する合同ガイドラインを発表した際、このエビデンスをきわめてまずい方法で示した。(略) 彼らは、週5日、1日30分のほどよい精力的な身体活動が「健康を保ち、促進する」ために必要であると述べ た。
しかし、肥満になることや痩せたままでいることに対し、運動がどのような影響を与えるのかという質問となると、専門家たちは「1日あたりの エネルギー消費量が比較的多い人たちは、エネルギー消費が少ない人たち に比べて、時間とともに体重が増える可能性が低いと仮定することは理にかなっている。これまでのところ、この仮説を支持するデータは、特に説得力があるものではない」としかいえなかった。(略)
1970年代後半以後、運動によって体重を維持あるいは減少できるという信念に駆り立てたのは、それが真実であると信じたい研究者たちの欲求と、公にそうではないと認めることに対する彼らのためらいが原因であっ た。
実際のエビデンスを見て「がっかりする」ことは避けられないが、運動に効果がなかったということは「短絡的」 であり、なぜなら肥満の予防と食事制限により減らした体重を維持することに運動が貢献している可能性を無視することを意味するからである。
研究者たち自身は、実際にエビデンスが何を示していようとも、運動と身体活動の推進を続けられる文書や論説の書き方を見つけていた。
一般的な方法の1つは、身体活動とエネルギー消費が肥満の程度を決めるという考えを後押しすると思われる結果だけを論議し、一方でこの見解を反証するエビデンスは、たとえその数がはるかに多かったとしても無視するというものである(現在においてもそうである)。"
(Pages 52, 63-4.)
まとめ
(1)カロリーを消費するほど私達の体重は軽くなるという考えは、「痩せた人は太っている人よりも肉体的により活発な傾向にある」という観察に基づいている。しかし、それを支持するエビデンスは極わずかである。
(2) 「痩せている人は、肉体的に活発な傾向にある」という事実は誰もが認めるところだが、「運動により消費カロリーを増やせば痩せれる」というような単純な問題ではない。その関係性はもっと複雑である。
【詳しく見る】「食事・運動・体重の関係性を間違えている」
(3) 消費するカロリーと摂取するカロリーは相互に連動しており、運動をすれば空腹感や疲労感が増し、食欲は増大する。また摂取カロリーを同じに保ったとしても、運動後に吸収率がアップし、体は消費したエネルギー源、その他の栄養素を取り戻そうとする。
(4) 過体重の問題は、設定体重が高くなっていることであり、運動によるエネルギー消費は一時的な体重減少につながっても、長い目でみると効果的とは言えない。運動と組み合わせて、食事のバランスや摂取方法を改善することのほうが重要である。
【関連記事】「ダイエットは運動よりも食事の改善」
<参考文献>
[1]ジョン・ブリッファ.「瘦せたければ脂肪を沢山とりなさい」. 2014. Page 225.
[2]University of Hawai‘i at Mānoa Food Science and Human Nutrition Program.「Fuel Sources for Exercise」. 2018.
2016.06.26
太った後に、過食し運動しなくなった(怠慢になった)
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目次
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<プロローグ>
- 食べ過ぎるから『太った』のではなかった
- 太った後に、運動しなくなった事例
<プロローグ>
「人はなぜ太るのか?」【ゲーリー・トーベス著】より引用
"過食が原因で肥満になる、あるいは過食の結果で肥満になるという専門家たち(大部分だが)は、高校の理系クラスで落第点を取るようなレベルの間違いを犯している。彼らは、私達がなぜ太るのかについて全く何も語らない自然の法則と、私たちが実際に太っている場合におきる現象(過食)を取り上げ、語るべきすべての内容を語っていると思い込んでいる。"(ゲーリ・トーベス. 2013. 「人はなぜ太るのか」. Pages 86-7. )
私もこの意見に賛成です。私のブログの原点もここであり、世界には同じ様に考える研究者が少なくとも数人はおられたことに、少し安堵しました。
まだ『天動説』が常識の16~17世紀に「いや、地球が太陽の周りを動いているんだよ・・・」といっても大半の人は信じなかったであろう。「もし地球が太陽の周りを回っているなら、我々は目が回ってしょうがない・・・」と科学者らは反論したに違いない。だけど、今や地動説が正しいのは誰もが知っています。
同様に、人が太っていくのも「食べ過ぎたカロリーが消費を上回るからではない」と言っても、今は信じない人が多いかも知れませんが、それこそ真実であると言いたい。
1.食べ過ぎるから『太った』のではなかった
”過食するから太るんだ、動かないから肥満になるんだ” ということが言われていますが、それに関係する面白い実験結果があります。
(再び「人はなぜ太るのか?」より引用)
"1970年代初期、マサチューセッツ大学の研究者ジョージ・ウェイドはラット(メス)の卵巣を摘出し、その後の性ホルモン、体重および食欲の関係について研究を始めた。実験の結果は期待通りでラットはガツガツと食べ始め、瞬く間に肥満になった。この実験から、卵巣を摘出したことでラットは過食となり、過剰な脂肪が蓄積し肥満になる。人においても過食が肥満の原因だと結論づけられるだろう。
しかし、ウェイドは卵巣を摘出した後にラットに厳格な食餌制限を行うという第2の実験を行った。卵巣を摘出後のラットには手術前と同じ量の食餌だけが与えられ、過食しないように調整が行われた。その結果は予想を裏切るものであった。
ラットは好きなだけ与えられたときと同じように、速やかに肥満になった。これらのラットは完全に動かなくなり、食べ物を得る必要のある時のみ動くようになった。(~略~)
ウェイドの説明では、ラットは過食で太ったのではなく、卵巣の摘出によりラットは脂肪を貯め込むようになり、それを補うためにラットはもっと食べるか、消費エネルギーを減らすか、又はその両方を行う。つまり原因と結果が逆になっている。
(~略~)
脂肪組織は入念に調整されていて、それが消費しないカロリーを投げ込むような単なるゴミ箱ではない。肥満になる人達は脂肪を制御する方法によってたまたま太ったのであり、その結果として、カロリーを補うために食べる行動(過食)と身体的不活発(怠慢)が引き起こされているのである。(Pages 100-1, 104-5.) (~略~)
<1970年代>
ハーバード大医学部で何千人もの肥満患者に低カロリー食(一日600kcal)の治療法を行ったブルース・ビストリアン(Bruce Bistrian)の言葉。
「減食は肥満に対する処方や治療にはならない。最も目立つ症状を一時的に軽減する方法でしかない。そして、もし減食が治療ではないとすれば、このことは過食が肥満の原因ではないことを如実に示唆している。」"(Page 47.)
▽(ラットの話とは、少し違いますが、私自身の体験談を話します。)私は、激ヤセして30キロ台まで落ちた時、何を食べても胃がつかえるようで食べれませんでした。特に脂っこい食事は最悪でした。太ろうとして頑張って食べてはいたけど、何一つ身につきません。
ある時、消化の良い食べ物(主に炭水化物と少量の肉)だけ食べて、空腹をより感じるようにすれば太れるということに気付きました(腸の飢餓状態)。それで、朝と昼は軽い食事ですますようにし、野菜や脂肪は夕食まであまりとらないようにしました。そうすることで徐々に太っていきました。そして50キロほどになった頃には、身体に筋肉もつき、胃腸の不快感も多少なくなり、以前より楽に食べれるようになっていました。
私の途中経過を知らない人達は「最近、食べるようになったから太ってきたね・・・」と言いましたが、決して食べたから太ったのではなく、『食事法を変えることにより太れる体になり、その後に食べて体重が少しづつ増えたのです。次第に筋肉もつき、食欲が出るようになり、結果として以前より沢山食べれるようになっていた』のです。だから現実は逆です。
これは極端な例を考えると分かりやすいかも知れません。3メートルで250キロの大男がいたとします。その人が私たちの5倍の量の食事をペロッと食べたとしても、『凄く食べるから大きくなったんだ・・・』とは思はないでしょう。むしろ、『大きいからあんなに食べれるんだ・・・』と思いますよね。
(再び「人はなぜ太るのか」【ゲーリー・トーベス著】より引用)
"第二次世界大戦の直前、欧州の医学研究者たちは私同様、 肥満が過食によって起きると考えるのは不合理であると主張した。これは人間を成長させる(身長・体重・筋肉・脂肪)いかなるものも、彼らを過食にさせるからである。
たとえば子どもは食欲が旺盛であるが、消費する以上のカロリーを摂取するから身長が高くなり体重が増えるわけではない。彼らは成長しているから大食い(過食)なのである。"(Page 16)
2.太った後に、運動しなくなった事例
「痩せたければ脂肪を摂りなさい」 【ジョン・ブリファ著】より引用
"運動と肥満の関係を見た場合、長距離マラソン選手やツール・ド・フランスの自転車選手を見れば痩せている人が多いのは事実です。そこで 「運動をすれば痩せれる」と考えます。
しかし子供の頃を思い出してください。
元々痩せている人やそういう体型の人が優秀なマラソンランナーや自転車選手になる可能性が高いからではないでしょうか?
つまり元々痩せている人がたくさん運動するのであって、逆ではないでしょうか?こじつけのように聞こえるかも知れませんが、この考えを支持する証拠があるのです。
▽ある調査で、子供の運動量と肥満を3年にわたり調査しました。そして、運動しない子供ほど体脂肪が多いことがわかりました。これは予想通りですが、この調査は長期に渡って行われたのでその前後を評価することができました。
現実には、先に脂肪を蓄積した(太った)子供が、その後あまり運動しなくなっていきました。
この発見によって、「肥満の子供に運動を促しても、なぜほとんど成功しないのかを説明することができる」と指摘しています。"
(ジョン・ブリファ. 2014.「痩せたければ脂肪を摂りなさい」. Pages 226-7)
▽私もこの意見に賛成ですが、私なりの考えを補足したいと思います。
ブリファ氏の言う通り、「元々痩せている人がマラソンやサッカー選手を志す」と考える方が理にかなっていると思います。そして彼らは、少なくとも自分が食べても太らないことを知っています。だから彼らは躊躇することなく何でも食べるのではないでしょうか?
つまり換言すれば、そんな彼らが、子供の頃からバランスのよい3度の食事を摂ることで、私の言う腸の飢餓メカニズムが起こりにくくなり、適度な筋肉はつきながらも体重が維持されてきたとも言えます(体重の設定値が変化しないことを意味する)。
一方で、ずっと家にいて読書やTVを見て過ごす時、又は事務作業や軽い肉体労働の時、食事まで軽く済ます傾向があるのではないでしょうか?
食事が炭水化物や肉に偏り、昼食にハンバーガー、又はカップ麺だけなんてこともあります。運動していないから、食事のバランスや栄養にうとく(いい加減に)なるのです。もし食事が消化の良い炭水化物などに偏り、空腹を長時間我慢していれば、腸内飢餓が引き起こされ、体重の設定値がアップする可能性があります。結局、長い目でみると体重がアップすることもあるでしょう。
つまり、運動不足や怠慢が直接的に人を太らす訳ではありません。身体活動の強度や量が「何を食べるのか」の選択や食べる量に影響すると考えます。
2016.06.03
豊かだから太るのか、貧困が太るのか?
目次
- 豊かさが肥満の原因と言われるが・・・
- 貧困なのに肥満が多かった事例
- なぜ彼らは太っていたのか?
- 豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?
私のブログの内容とも関連する、興味深い話があったので紹介します。大部分は本からの引用ですが、この最後に私の考えを述べたいと思います。
【関連記事】→貧困層における、低栄養(痩せ)と肥満の共存は矛盾していない
1.豊かさが肥満の原因と言われるが・・・
「人はなぜ太るのか?」(ゲーリー・トーベス著)より引用
1990年代半ば、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者が、米国において肥満が流行しているというニュースを発表して以来、専門家達は「過食と座りっぱなしの行為」が肥満の要因であると非難し、これら2つを比較的豊かな現代社会のせいにした。
<2003年>
■ニューヨーク大学の栄養学者マリオン・ネッスルは、雑誌サイエンス(Science)において「改善された豊かさ」が食べ物と娯楽産業に支えられ、肥満の流行を引き起こしたと説明した。
彼は、「これらの産業は人々を、誇大広告で売り込まれた高エネルギーで低栄養価の食物の消費者、座りっぱなしを助長する車やテレビ・パソコンの消費者へと変えた。体重が増えることは、こうした商売に都合がよい」と述べている。
■エール大学の心理学者ケリー・ブラウネルは、バーガーやスナック菓子、子供を運動不足にするテレビやゲームなどに囲まれた生活を「毒性環境」という言葉で説明した。
彼は、「チーズバーガーやポテト、スーパーサイズの食べ物、ジュースやキャンディ、ドライブスルーなどは、昔は滅多に見かけなかったが、今や草や木、雲のようなものである」と言った。
さらに「パソコン、テレビ、ゲームは子供を家に閉じこもらせ、運動不足にする」と説明した。
▽世界保健機関(WHO)は、世界的な肥満の流行を説明するために全く同じ理論を使い、収入の増加や都市化、「体を動かすことの少ない仕事への移行」、「受け身な娯楽の追及」が原因であると非難した。
肥満の研究者たちは、この状態を正確に述べるために準科学的な用語を使う。彼らは、私たちが現在生きている環境を「肥満の原因となる環境」と呼び、これは、「瘦せた人を太った人へと変化させやすい環境」を意味する。
(ゲーリ・トーベス. 2013.「人はなぜ太るのか」. Page 24-5)
現在も基本的にこの考えが世界中で支持され、高カロリーな食べ物や運動不足が肥満の原因であると、大半の専門家は説明します。
2.貧困なのに肥満が多かった事例
(再び「人はなぜ太るのか」より引用)
しかし、この背景のなかで考慮されるべき1つのエビデンスは、肥満が豊かさではなく貧困と関連している(特に女性において。そしてしばしば 男性においても)という十分に証明された事実である。私たちは貧しければ貧しいほど太りがちになる。(略)
1970年代の初期まで、栄養学者と研究熱心な医師達の間では、肥満は「栄養失調」の問題で、今日のような「栄養過多」の問題とは考えられていなかったのである。
1901年~1905年
2人の人類学者(ラッセル、フルドリカ)がアメリカアリゾナ州に住むピマ族を調査し、ピマ族の特に女性に肥満が多いことを述べた。ピマ族は1850年代を通じてきわめて成功した狩猟者・農民であったが、1870年までには最も貧しい民族の1つとなり、「飢餓の時代」を生きるようになった。
20世紀の初頭に2人の研究者が訪れたとき、ピマ族は育てることができる作物をまだつくってはいたが、毎日の暮らしは政府の配給に頼っていた。
この観察において非常に注目すべきところは、当時、ピマ族が最も豊かな米国先住民族の1つから、最も貧しい民族の1つになったばかりだった ということである。
なにがピマ族を太らせたにせよ、豊かさと収入の増加 はそれとは何の関係もなく、むしろその逆であったように思われる。
四半世紀(25年)後
シカゴ大学の2人の研究者が米国先住民のスー族を調査した。
スー族は「住むのにはふさわしくない」掘っ立て小屋に、しばしば1部屋に4~8人の家族が住む状況にあった。その多くには水道の設備もなく、子どもたちの40%はトイレのない家に住んでいた。子ども32人を含む15家族は「おもにパンとコーヒー」で生活していた。これは私たちの想像を絶するほどの貧困である。
それにもかかわらず、現在、肥満の流行のまっただ中にある私たちの肥満率と彼らには大きな差がなかった。シカゴ大学の報告では、成人女性の40%、男性の25%以上、子どもたちの10%が「もれなく肥満と定義されるだろう」と記されている。
1950年~1980
西インド諸島、南アフリカ、チリ、ガーナなど世界各地で貧困で低栄養なのに肥満率の高い集団が見つかった。
(「人はなぜ太るのか」P. 27-31, 37)
3.なぜ彼らは太っていたのか?
(引き続き「人はなぜ太るのか?」より引用)
(事例1:1960年代初頭、マンハッタン)
1960年代初期、ニューヨーク(マンハッタン中心部)の住民を調査した結果、肥満女性は富裕層より貧困層で6倍多く、肥満男性は2倍多かった。
肥満の流行は豊かさが原因で金持ちになるほど太り、その一方で肥満は 貧困と関係し貧しくなるほど太る可能性が高くなることがありうるだろうか?
それは不可能ではない。おそらく貧しい人たちには金持ちのように、やせたままでいなくてはという周囲からのプレッシャーがない。驚くべき ことに、これが矛盾に対する明確な説明の1つとして受け入れられてきたのである。
さらに一般的に受け入れられている別の説明は、太っている女性ほど社会の下流の男性と結婚するため下の階級に集まり、やせている女性は上流の男性と結婚するから、貧困層で肥満の女性が多いというものである。
3番目の説明は、貧しい人たちは金持ちのように運動をする暇やスポーツクラブに入会するお金がないといったものや、公園や歩道がない地域に住んでいるため、彼らの子どもたちは運動や散歩をする機会がないというものである。
これらの説明はあてはまる部分もあるかもしれないが、 無理があり、深く掘り下げて調査するほどよけいに矛盾が目立つものである。
(P. 25-26)
(事例2:1900年初頭、ピマ族)
それでは、なぜ彼らは太っていたのか? このピマ族に訪れたような長年の飢餓は、体重を増やしたり維持したりするのではなく、逆に減らすはずである。そして、政府の配給が飢餓をなかったものとするほど多かったのであれば、なぜピマ族は過剰な配給で太り、飢餓時代以前の豊富な食物では太らなかったのだろうか?
身体活動量から見れば、以前の活発な生活から座りがちな生活になったとはいえ、ピマ族の女性が村でほとんどの重労働(収穫、運搬)を行っていたのに、女性の方が太っていたのである。
おそらく答えは、摂取した食物の種類、つまり量よりも質に問題がある。
これこそが、ラッセルが「食物の中のあるものが、きわだってぜい肉の原因になっているように思われる」と書き示したことである。
また、フルドリカも同様に、ピマ族はこの時すでに「白人の食糧に含まれる」すべてを食べており、これが問題の鍵であったかもしれないと指摘している。
1900年のピマ族の食事は、その1世紀後に私たちの多くが食べているものと非常に似ていたが、それは量的にではなく、質的にであった。
(P. 29-30)
4.豊かになったと言っても、『食べ物の質』はどうだろう?
▽1~3を踏まえて、私なりの考えを述べたいと思います。
まず肥満を考える上で、”豊かになったから肥満が増えた”と考えるのは安直ではないでしょうか?
確かに私達の生活は自由で、物にあふれているという点では 豊かである。ある程度の収入があれば、自由に活動し、好きなものを買い、好きな物を食べることができます。仕事もデスクワークが増え、それほど動かなくても良い。
しかし、少ない給与の中でやり繰りしていると、食費にばかりお金をかけれる訳でもなく、もちろん忙しければ時間もなく、朝はトーストとコーヒ、昼はおにぎりやカップ麺などと炭水化物に偏ることもあります。朝食または昼食を抜くこともあります。
特に逆三角形型の食事(図参照)では、夕食は比較的バランスのとれた食事であっても、朝~夕にかけては質素で腸の飢餓状態が生まれ易くなります。
さらに太りやすいという人(ダイエット中の人)に限って、『昨日は食べ過ぎたから、今日は少なくしよう』という様に、食事を抜いたり、簡単なもので済まそうとするのです。昨日の過剰なカロリーを今日で相殺しようとする考え方も間違っていると言えるでしょう。
つまり、食事の面だけで見ると、『豊か』と言われる我々の社会も、貧困で肥満が多かった集落と共通する部分があるのではないでしょうか?
極論すれば、貧困層での肥満は、『ダイエットをして食べるのを我慢していたにもかかわらず、最終的に体重が以前より増えてしまう』メカニズムで説明できる、と言えるでしょう。
(再び「人はなぜ太るのか」より引用)
炭水化物を食べたからと言って全員が太る訳ではないが、太る人にとってその原因は "炭水化物" である。
(~略~)これらは入手可能な食べ物のうち最も安価なカロリー源でもある。これは貧困な人ほど肥満になる可能性が高い理由をはっきりと説明している。
これらの集団の人達は、食べ過ぎや動かないことにより肥満になるのではなく、彼らが依存している食べ物(食事の大部分を構成するデンプンと精製された穀物)が彼らを太らせるのである。(P. 149-150)
2016.03.23
腸の『痩せ菌』で太らない??(一日7000kcalでも太らない:NHK)
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- 痩せ菌とは?(番組内容紹介)
- 疑問点と反論
- 食べても太らないのは、全くおかしなことではない
- 痩せ菌とは?(番組内容紹介)
1.痩せ菌とは?(番組内容紹介)
NHK「これが体の新常識 若さと美の秘密」より(H28.3.23 19:30~20:45放送)
三宅 智子さん(身長152cm 体重42キロ)
1日7千キロカロリー(一般女性の3.5日分)の食事を毎日摂っても太らないという女性です。(1日1食:夕のみ)
会場中「え~なんで太らないの~」という声
研究者や専門家の中でも、このように食べても太らない人は何故なのかというのは、実は解明されていないとのこと。
東京農工大(私の母校)の木村郁夫 特任准教授によると、この太らないという理由が「腸内細菌」の『痩せ菌』が大きく関与しているとのこと。(ビフィズス菌、バクテロイズ)
通常の人の『痩せ菌』: 50%弱
三宅さん: 70%近い
※ちなみに、フットボールアワーの岩尾さんの『痩せ菌』は50%以上と平均以上でしたが、誰もつっこまず・・・
痩せ菌のつくりだす、短鎖脂肪酸が脂肪の摂り込みを減らすとのことでした。
痩せ菌の大好物は、水溶性の食物繊維。
つまり、水溶性の食物繊維を多く含む食品(ひじき、納豆、わかめ、切り干し大根、オートミール、ゴボウなど)を意識して摂るといいそうです。
2.疑問点と反論
(※以下はこの放送を見ての私の見解です↓↓↓)
私はこの『痩せ菌』なるものにはあまり関心はありませんが、少しコメントさせて頂くと・・・、
一部の人のデータでは全く根拠に乏しいと言えるのではなかろうか?検証は以下の点などについて、数千~数万人の単位で行われるべきではないだろうか?
・痩せている人は全員が『痩せ菌』が多いのか?
・太っている人は全員が『痩せ菌』が少ないのか?(フットボールアワーの岩尾さんは比較的多かった)
これがもし本当だとすると、太っている人の腸内に『痩せ菌』を入れれば痩せるのか?
また逆に痩せている人が『痩せ菌』を減らせば、太ることができるのだろうか?・・・という検証も必要であろう。
また、『痩せ菌』の作り出す短鎖脂肪酸のおかげなのか、それとも「ひじき、納豆、ワカメ、切り干し」などの食物繊維を多く摂っているから痩せ体質なのかも曖昧である。「食物繊維を多く摂ることで、太りにくくなる」 という点では、私の理論とも共通する部分であるが、結果的に短鎖脂肪酸ができた、というのは副産物的なものではないかと私は考える。
3.食べても太らないのは、全くおかしなことではない!
私のブログをすべて読んで頂ければ、”食べても太らない”という人がいることは、全然おかしなことではないのです。
昔から言われる「痩せの大食い」です。
食べた物すべてが吸収されている訳でもないし、そもそも太ること(基本体重がアップすること)自体はカロリーの絶対量に起因しないから、カロリーの摂取量で比較することが視点の間違いであると言えます。
フードファイターと言われる人は、ギャル曽根さん、ジャイアント白田さんをはじめ、昔からたくさんおられますが、ほとんどの方は痩せておられます。多く食べて太っている人、多く食べても太らない人の違いについては(腸内)飢餓メカニズムで説明できます。